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プーチンに与えた「核使用」の正当性。ウクライナ軍によるロシア本土攻撃の結末

12月5日と6日、突如ドローンの攻撃を受けたロシア国内の空軍基地。露政府はただちに「ウクライナ軍によるもの」と発表しましたが、もしもそれが事実であるのなら、今後ウクライナ戦争はどのような展開を見せることになるのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、この越境攻撃が各国の「ゼレンスキー離れ」を加速させると推測。さらに自身が驚きと恐れをもって受け取ったというプーチン大統領の発言を引きつつ、核戦争勃発の可能性について考察しています。

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新しい段階?終わりの始まり?─国境を越えたウクライナの攻撃の意味

「これは一体何?」

12月5日と6日に相次いで起きたロシア空軍基地や石油貯蔵施設への無人攻撃型ドローンによる攻撃の報が入ってきた際、思わずそう呟きました。最近は頻繁に、調停グループの会合も開催され、その報が入った際も会議中でしたが、参加者一同、「???」という雰囲気でした。

グループにはウクライナの専門家も含まれるのですが、その人にも理解不能な展開で「もしかしたら、ゼレンスキー大統領もウクライナ軍も踏み越えてはいけないラインをついに越えてしまったのではないか」とのことでした。

その後、ロシア側からの発表の速さには戸惑ったものの、どの筋からも「これはウクライナ軍によるロシアへの攻撃に他ならないと考える」との分析が入り、どうも“旧ソ連製の無人機をウクライナが長射程用に改良したもの”というものと、“ウクライナが独自に開発した長射程の自爆型ドローン”という説が混在していますが、実行したのはウクライナ軍の特殊部隊だったとの見解では一致しました。

ウクライナ政府はコメントを発していませんが、SNS上で“また”ポドリヤック大統領府長官顧問が、ウクライナによる攻撃を匂わせるような内容の書き込みを行っていたことも、ウクライナによる仕業であることを確信させる一助になったようです。

多くの分析によると(まだ変わるかもしれませんが)、「ロシアによるインフラ施設への大規模なミサイル攻撃に対する報復と、ウクライナによる反撃能力の誇示」という目的があるのではないかと言われています。

それと同じころにはゼレンスキー大統領はドンバス地方を訪れて、ウクライナ軍を鼓舞する映像を流していますが、その際「越冬戦」に言及したことで、対ロ徹底抗戦を再度宣言しただけでなく、ある無言の、でも非常に明確なメッセージを国際社会に送ることになりました。

それは【この戦争の司令官は私であり、ウクライナがどうするかを決めるのは私】というメッセージです。

先日のポーランドへのミサイル落下事件以降、アメリカも欧州各国もウクライナ・ゼレンスキー大統領と距離を取り始めてきましたが、今回のウクライナによるロシア攻撃によって、その傾向は加速するのではないかと推察します。

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今回の攻撃に対して危機感を感じたのはアメリカ政府で、即座にアメリカによる関与を否定するだけでなく、国務長官・国防長官からほぼ同時に「アメリカはウクライナをはじめとする各国が持つ自衛の権利を認めるが、今回の攻撃に対し、アメリカは一切関与していない」「アメリカがこれまでウクライナに対して行ってきた武器供与を含む軍事支援はすべて防衛のためであり、今回使われたような長射程(long-range)の武器は一切供与していない」というコメントが出されるほど、アメリカ政府も今回のことには戸惑っていると思われます。

実際に、ここ最近、トルコやスイスの働きかけで米ロ高官の間でウクライナ問題の協議が続けられていましたが、今回のウクライナによるロシアへの越境攻撃は、米ロが話し合いのチャンスを模索している裏で、ウクライナが独自に戦闘・戦争をnext levelsに進めてしまったと、アメリカの政府内では不信感と危機感、懸念が高まったと言われています。

アメリカおよびNATOへの飛び火を警戒したというのが内容のようですが、同時に今回のウクライナによるロシアへの攻撃は、プーチン大統領が設定した“核使用のための条件”を満たしてしまう恐れを感じたようです。

では当のプーチン大統領およびロシア政府はどうでしょうか?

今回の攻撃に対して怒り狂っているとは思いますが、表面上は平静を保ちつつ、いくつかの決意に満ちたメッセージが込められているように思います。

それは【すでに始めている対ウクライナ冬の陣(攻撃のレベルアップ)は継続・強化し、徹底的にウクライナの様々なインフラと生活を破壊し、補給路を途絶させて物理的にも心理的にも、ウクライナを絶望の底に叩き落す】という作戦です。

ウクライナからの攻撃後すぐ、それまで一時停止していたウクライナへの作戦行動を大規模なミサイル攻撃という形で再開し、徹底的な破壊を行っています。

そしてその裏では今回の事件を受けて、ロシア国内ではプーチン大統領と政権への支持が回復し、同時に“自分ごと化”も進んできているとの情報も入ってきました。

今回の“自分ごと”化は、以前、予備役招集時起きたネガティブなものではなく、今回の戦争を自分事と感じ始めることで、自衛意識が高まり、同時に「ウクライナを叩くべし!ウクライナの危険に対応するプーチン大統領を支持する」という感情の高まりがみられるようです。

あくまでもプロパガンダ映像的な性格もあるかと思いますが、モスクワではスポーツクラブにおいて、市民が自動小銃による戦闘の訓練を受けている姿が続々と流されていますし、一時期、燃え上がりそうになってきていた対プーチン批判もどういうわけか下火になっているように見えます。

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これまでなら「そのような心理効果を狙った自作自演?」と考えることもできましたが、今回、ロシア国内の結構“奥”(ウクライナ国境から500キロほど)の基地への攻撃を受けたことは、様々な意味でロシアにショックを与えているようです。

そこには【これは、ウクライナによるロシアへの宣戦布告】という意見もあり(個人的にはどの口が言うんだ、という気持ちがありますが)、この意識が国内に溢れてくると、浮かんでは消える“あの”問題と懸念に触れなくてはならないでしょう。

それは「核戦争の危険性は高まったのか?」という問いですが、プーチン大統領はメディアからの質問に答える形で「核戦争の可能性は高まったと言える。ロシアは世界でも最先端の核兵器を有しているが、それは剃刀をもって走り回るような物騒なものではなく、あくまでも自国の防衛と戦争のエスカレーションの抑止の目的だ」と答えていますが、皆さんはこのメッセージをどのように受け取られるでしょうか?

私はこの回答を驚きと恐れをもって受け取りました。「先制攻撃には用いないし、むやみに使用もしないが、ロシアおよびロシア国民の安全保障および防衛のためには使用することも厭わない」というように解釈できるため、12月5日と6日に行われたウクライナ軍によると思われるロシア空軍基地と石油備蓄施設への攻撃は、プーチン大統領のレッドラインを踏み越えると同時に、プーチン大統領とロシアに核使用を正当化させる結果になるのではないかと恐れています。

それがどうなるかは、実際にはウクライナがどうするかというよりは、NATOの国々がどのように反応するかにかかっていると思われますが、それが分かっているのか、各国は非常に慎重な反応に留まっているように見受けられます。

ちなみに、余談ですが、開戦以来ロシアが用いてきたミサイルのうち、最近のインフラ施設および補給路の破壊に用いられているものは、核弾頭を搭載可能な高精度巡航ミサイルX55であり、これまでのところは核弾頭を外して使用されています。

それが本来の役割を果たすことがないように祈ります。

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image by: Salma Bashir Motiwala / Shutterstock.com

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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