キーエンスという会社をご存知でしょうか。脅威の高収益を誇り、社員の平均年収は2,200万円という圧倒的な強さを見せつける企業です。今回、メルマガ『毎日3分読書革命!土井英司のビジネスブックマラソン』で土井英司さんが紹介するのは、そのキーエンスの強さについて詳しく分析した一冊です。
驚異の高収益を支えるしくみ⇒『キーエンス解剖 最強企業のメカニズム』
西岡杏・著 日経BP
こんにちは、土井英司です。
本日ご紹介する一冊は、営業利益率55%、平均年収約2,200万円という驚異の高収益を長年持続している、キーエンスを徹底取材した一冊。
BtoB企業なので、知名度は低いかもしれませんが、同社の創業者・滝崎氏は、フォーブスの22年版世界長者番付で国内2位。あの孫正義氏を凌いでいます。
あまりの高年収ゆえに、事業や商品は知らないけれど、社名だけは知っている、という方も多いのではないでしょうか。
本書は、そんなキーエンスの高収入の理由、こんなご時世なのに「30代で家が建ち、40代で墓が建つ」と言われるほど社員が働く理由、そして何といっても、顧客に選ばれる理由を明らかにした、注目の一冊です。
著者は、日経ビジネスの記者で、電機・IT・通信を中心に取材・執筆活動を続ける西岡杏さんです。
『日経ビジネス』2022年2月21日号特集「解剖キーエンス 人を鍛える最強の経営」の取材に協力したキーエンス社員や経営陣、取引先、OBなどへの取材をまとめたもので、謎のベールに包まれていたキーエンスの強さの秘密に迫ることができます。
「仕組みと、それをやり切る風土がすごい」とOBが語る、キーエンスの経営のすごさとは何か。丁寧な取材と分析が光ります。
目的と、相手のロジ(兵站)を把握する、顧客の取引状況やお困りごとを正確に把握して情報をシェアする、国境を超えて営業チームが協力する、圧倒的に速い納品スピード、相手の真のニーズを掴むヒアリング力…。
営業に自信のある企業でも思わず舌を巻く、キーエンス営業の強さが明らかにされており、読書中、何度か絶句してしまいました。
さっそく本文のなかから、気になったところを赤ペンチェックして行きましょう。
これはキーエンスの文化なのだ。目的をはっきりさせる。相手のロジ(兵站)を把握する。目的に向かって最善を尽くす……。
他にない機能を持つ商品が高く売れるのは当然だ
兵庫県宝塚市で電子機器を生産するニッシンの役員は「ウェブサイトから商品カタログをダウンロードした1時間後に、突然電話がかかってきた」と打ち明ける
キーパーソンの異動先の地域を担当するキーエンス社員とその情報を共有すれば、次の商品の売り込みが容易になる。その異動先が海外だとしても一緒だ
「調整が難しい機械は、次第に敬遠されるようになる」
先回りして本質を探り当てて解決すれば、大きな価値を提供できる。顧客も気づかない潜在需要こそ、キーエンスにとっては宝の山なのだ
あるキーエンスOBは「外報の記入には暗黙のルールがあった」と話す。そのルールとは「商談から5分以内に書く」だ
SFAでミツトヨという社名と同社の1世代前の商品名をキーにして検索すると、その商品を所有している会社名がずらりと表示される
営業担当者は、外回りの日は1日に10件ものアポを詰め込むことができる。そのすべてで完璧に振る舞えるとは限らない。上司はそれをハッピーコールでフォローし、足りない点があれば次回の商談に向けて営業担当者と調整していく
「裏にあるニーズが何か、しっかり確認してきてください」
“ニーズの裏のニーズ”を探るコツとしてキーエンスOBなどから聞こえてきたのは、「業界全体や、顧客が取り組もうとしている工程全体を見渡して説明すること」だ
キーエンスは、なぜ在庫を積むのか。それは「直近の利益よりも当日出荷が重要だという絶対的な優先順位があるからだ」とキーエンス社員は解説する
「高収益」と聞くと、人はいろいろ勘ぐるものですが、本書を読むことで、同社がビジネスの王道を貫き、仕組みで高収益を維持していることがよくわかります。
営業の仕組み以外にも、同社が全社一丸となれるインセンティブの仕組み、情報共有の仕組み、商品開発の仕組みなどが明かされており、じつに読み応えのある内容です。
『キーエンス解剖』のタイトルに恥じない、精力的な取材と分析が光る一冊でした。
ぜひ読んでみてください。
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