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中国軍兵士1万人戦死も。米シンクタンクがシミュレートした「台湾侵攻」

習近平国家出席が虎視眈々と狙っているとされる台湾の併合。バイデン大統領は有事の際の米軍介入を明言していますが、中国の台湾侵攻はどのような事態を引き起こすことになるのでしょうか。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、米国のシンクタンクが公表した台湾有事のシュミレーション結果と、世界的戦略家として知られるエドワード・ルトワック氏が予測する米中衝突の結末を紹介。さらに習近平国家出席に台湾侵攻を思い止まらせる方法を記しています。

台湾侵攻、勝つのはどっち?(米シンクタンクCSIS)

アメリカは今年、三つの戦いをしています。一つは、「プーチンに戦術核を使わせない戦い」です。二つ目は、「習近平に台湾侵攻をさせない戦い」です。三つ目は、「金正恩を暴走させない戦い」です。

世の中には、「アメリカが台湾侵攻を煽っている。軍産複合体の利益のために戦争を望んでいる」と主張する人たちもいます。もちろんそうではありません。

もしアメリカが、台湾侵攻を望むなら、簡単な方法があります。蔡英文さんに独立宣言をさせ、アメリカが台湾を国家承認すればいい。これをやれば、習近平は、勝ち負けはともかく、威信をかけて台湾侵攻を開始するでしょう。

ところがバイデンは、台湾に独立を促しません。彼がやっていることは二つです。一つは、「台湾に侵攻したら、中国は勝てない」と習近平に思わせること。たとえば、台湾にどんどん武器を売る。クアッド、AUKUS、IPEF、民主主義サミットなどで、中国包囲網を築く。さらに、バイデンは「中国が台湾に侵攻すれば、アメリカが台湾を守る」と3回いった。これで習近平は、「台湾に侵攻したら、米軍と戦うことになる」と考え、侵攻のハードルが高くなりました。

もう一つは、習近平を追い込まないことです。既述のように、蔡英文さんが独立宣言すれば、習近平は「侵攻せざるを得ない状況」になるでしょう。だから、バイデン政権は、反中包囲網を築く一方で、「一つの中国を支持する方針に変化はない」というのです。これは、何でしょうか?

要するに、アメリカは、「台湾は中国の一部であり、独立国家と認める予定はない」と。中国を封じ込めつつ、一つの中国を支持する。この一見矛盾した行動が意味するところは、「アメリカは、現状維持を望んでいる」「アメリカは、中国との戦争を望んでいない」ということです。

バイデン政権は、伝統的な「バランス・オブ・パワー戦略」をしている。しかし、「バランス・オブ・パワー」は、「くずされること」があります。

ナポレオン、ヒトラー、プーチンのように、自信過剰の独裁者は「力でねじ伏せることができる」と勘違いし、バランス・オブ・パワーを壊しに動く。それで結局敗北することになるのですが、負けるまでにものすごい数の犠牲者を出す。

習近平も、欧米を侮ったり、自信過剰になったり、あるいは追い込まれたりして、台湾侵攻に走る可能性があります。その結果は?

米シンクタンク「戦略国際問題研究所」のシミュレーション結果

アベマタイムス1月10日に、米シンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)のシミュレーション結果に関する記事がありました。

アメリカのCSIS(=戦略国際問題研究所)は9日、中国が2026年に台湾侵攻した場合のシミュレーション結果を公表した。中国軍の被害が最も大きく、約1万人の兵と155機の戦闘機、138隻の艦船を失い、台湾支配は失敗に終わる可能性が高いと予測している。

「台湾侵攻は、失敗に終わる可能性が高い」そうです。

一方、アメリカ軍は3週間で兵士約3,200人が死亡し、空母2隻が撃沈されるほか、台湾は約3,500人の兵が死傷すると想定している。
(同上)

ここで重要なのは、米軍参戦が前提で語られていることです。やはり、バイデンさんがいうように、「台湾侵攻時には、米軍が出る」と見られているのでしょう。

日本は、どうなのでしょうか?故安倍元総理や、麻生元総理は、「台湾有事の際には、日本もアメリカと一緒に戦う」旨の発言をされていますが。

日本も大勢の自衛隊員が死亡する可能性があり、在日アメリカ軍基地が攻撃されると指摘した。
(同上)

「そうだろう」と思います。

というわけで、CSISは、「アメリカ、日本、台湾は勝つ」「中国は負ける」という結論でした。

世界一の戦略家も、中国敗北を予測

台湾侵攻で米中が激突したら、どっちが勝つのか?

いろいろな意見があります。「世界一の戦略家」といわれるルトワックさんは、全国民必読の名著『ラストエンペラー習近平』の中で、重要な指摘をしています。

国防総省のいう「世界一の海軍」とは艦船の数などを指しているが、アメリカの攻撃型原子力潜水艦がたった3隻あれば、台湾海峡のすべての中国艦船を撃沈できるということだ。
(p62)

この指摘は重要です。

たとえばウクライナ戦争のことを考えてみましょう。ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」は2022年4月、ウクライナの対艦ミサイル「ネプチューン」で沈没しました。使われたのは、「ネプチューン」たったの2発です。

ルトワックは、この問題をさらに掘り下げます。

現在の海軍の艦船の分類を見ると、フリゲート艦から巡洋艦、輸送艦、強襲揚陸艦など実に様々な分けかたができるが、本当の分類としてはたった二つしかない。それは、潜水艦と潜水艦の標的(ターゲット)だ。この標的のサイズは小さかったり大きかったりするのだが、標的であることに変わりはない。(p130)

実戦というい意味で考えれば、水上艦の価値は、ダンボールでできた船と変わらないのだ。(p131)

というわけで、世界一の戦略家ルトワックさんも、「台湾有事」で、中国は敗北するとみています。

そうはいっても、「台湾有事を起こさないこと」が重要です。そのためには、「台湾有事になれば、中国は必ず負けて、習近平は失脚する可能性が高い」という【情報を】拡散していくことが重要です。これは、おそらく事実であると同時に、習近平が台湾侵攻を決断しない大きなファクターになるからです。

ウクライナ戦争は起こってしまいました。しかし、台湾侵攻が起こらないよう、できることを行っていきましょう。

できることとは、説得力を持って、「台湾に侵攻したら、中国は負けて、習近平は終わりだ」という情報を拡散していくことなのです。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2022年1月11日号より一部抜粋)

image by: 中華民國海軍 - Home | Facebook

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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