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「代行ビジネス」報道で問題視され株価急落。農場従事の障がい者雇用支援の実態とは?

今年1月、共同通信が障がい者雇用を「代行」するビジネスが急増していると報じ、名指しされた企業の株価が暴落するなど、注目を集めました。メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』著者で、生きづらさを抱えた人たちの支援に取り組む著者の引地達也さんは、農業に従事することで実際に「助かっている」障がいをもつ要支援者たちがいると、この問題の難しさを説明。障がい者の法定雇用率を3年後までに段階的に引き上げる案もあり、理念なき企業のための「数合わせ」目的のサービスとなっている部分をどう変えていけるか、熟考する必要があると伝えています。

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障がい者の農場従事を「代行ビジネス」と問題視。指摘された企業の株価暴落、再構築は期待できるのか?

障害者雇用促進法に基づき企業に義務付けられている障がい者の雇用割合である法定雇用率が現在の2.3%から2026年度に2.7%に引き上げられる見通しとなった。

厚生労働省は厚労相の諮問機関「労働政策審議会」の分科会に来年4月に2.5%、26年度に2.7%と段階的に引き上げる案を提示。この0・4ポイントの引き上げ幅は、法定雇用率が制度化して以来、最大となる予定で、企業に対して、障がい者雇用の推進をさらに促す強いメッセージとなりそうだが、同時に数字合わせの事例や「理念なき障がい者雇用」の増加も懸念される。

自社で雇用した障がい者を契約に基づく農場で業務に従事させるビジネスも「代行ビジネス」だと問題視され、障がい者雇用の目的を見失っているケースも増加している実態もある。

雇用率引き上げだけではなく、私たちは社会全体で障がい者雇用に対する正しい認識を確認する必要がありそうだ。

「問題視」と書いた事例は、障がい者雇用を「代行」するビジネスだと指摘された問題だ。今年1月、共同通信はある企業の実名をあげて「法律で義務付けられた障害者雇用を巡り、企業に貸農園などの働く場を提供し、就労を希望する障害者も紹介して雇用を事実上代行するビジネスが急増している」と表現したことで、指摘された企業の株価は暴落した。

この企業は即座に反論したが、この問題は国会でも取り上げられ、厚労省も対策を講じる旨の発言があったことから、株価にも影響し、問題は一般にも知られるようになった。

これは障がい者雇用の枠組みで入社させた社員をその企業の業務を行うのではなく、契約した企業が運営する農園などの業務に従事させる仕組みで、障がい者雇用を達成させるための数字合わせとの批判があるのは確かであるが、実際には助かっている当事者もあり、評価はなかなか難しい問題でもある。

このビジネスは全国で広がっており、営業も活発だ。障がい者雇用の採用や当事者との業務のやり取り、コミュニケーションで悩む企業にとってはうれしい仕組みとして、私にも営業を受けた企業から「この仕組みにのっていいのだろうか」との問合せが多く寄せられてきた。

障がい者にとっても「働きやすい」とのポジティブな反応が強調されているから、なおさらに「ウインウイン」のビジネスとの印象も伝わっている。

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統計によると、昨年6月時点で企業で働く障がい者は約61万4000人で、19年連続で過去最多を更新している一方で、法定雇用率を達成している企業は全体の48・3%で半分以下。未達成企業に対する調整金の支払いよりも、企業の社会的役割が注視され、企業価値に直結する未達成企業名の公開に頭を悩ませる。だからこそ、農園で働く仕組みは活気づいてきたのだ。

私は農園で働きたいという当事者からの相談、この仕組みを取り入れようとする企業からの相談、このビジネスを始めようとする企業の相談を聞いてきた。

当事者へは実習をしたうえで、環境や人間関係などに支障がなく、長く働き続けられそうであれば、個人の意思を尊重している。企業に対しては、農業でも自社の製品や活動に関わりのあるものであれば、その雇用は一体化したものとしてかかわっていくべきで、場合によっては新しい事業創出の可能性もあるので、その点を重視するよう注文した。

しかし、これらを活用するのは積極的に関わっていこうとしない、効率的に雇用率を満たせばよいと考えている企業が多い。だから問題なのである。私は仕組み自体を非難するつもりはないのだが、一部は数字合わせ企業へのサービスと化したことを問題視したい。

農業を仕事にすることで、都会のオフィスでは活性出来なかった自分を取り戻すケースもある。農業でも「関わって、対話して、一緒に仕事をして」の中で働ければよいのだが、これを構築するには、最初から障がい者雇用の意味を熟考し、築き上げていくのが賢明だろう。そうしたら「代行」と呼ばれない新しい形になると思うのだが。

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image by: Shutterstock.com

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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