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脱ゼロコロナの「春節大フィーバー」に乗った国々、出遅れた日本

ウィズコロナへと舵を切った中国が春節を迎えるにあたり、国を挙げて歓迎ムードを作り出した東南アジア諸国やフランス、オーストラリアなどの観光業は大いに潤ったようです。それと対象的に中国の感染状況を理由に規制を強化し、そっぽを向かれたのが日本でした。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんが、日本が乗り遅れた春節の大フィーバーぶりを数字で伝え、同じオミクロン株が蔓延しているのに、中国敵視で人気取りを続ける日本の政治の愚かさに呆れています。

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春節の大フィーバーで一気にウィズコロナへと向かう中国経済からの追い風に期待できない日本

どうやら中国は、コロナ禍からの早期の脱出を果たし、一定の経済発展のベースを取り戻すのだろう──。多くの中国人は、この春節期間の帰省ラッシュの大混雑や高速道路の大渋滞に巻き込まれるなかで、そんな感覚を持ったという。

もちろん、医療資源の乏しい農村での感染爆発の決算はまだ終わっていないから、油断は禁物である。重症化率や死亡率を高めるような変異株が、これから出現する可能性も否定はできない。しかし、習近平政権が恐れていたような混乱や不満が農村部で拡大しているのかといえば、とりあえずそうした心配は去ったといっても過言ではない。

中国の「動的ゼロコロナ」政策は、デルタ株までの新型コロナウイルスには効果的だったが、オミクロン株の出現で一気に劣勢に追い込まれた。これは巨砲で待ち構えていたところに、安価なドローンによる雲霞攻撃に見舞われたようなもので、効果もコストパフォーマンスも見合わなくなったためだ。

中国の警戒は「社会感染」(管理されていない場所での感染者の発見=感染対策に穴があることを意味する)という言葉の出現に象徴される。つまり、オミクロン株の性質が明らかになった時点で、何らかの政策転換は不可欠だったのだ。

そして「最適化」という名前の隔離政策の緩和は昨年6月から少しずつ進められたが、当局の思惑は空振り。結果的には昨年末から一気に扉を開くこととなった。この極端さには驚かされたが、混乱が伝えられたのは最初の数週間。とくに解熱剤の不足などが伝えられたが、その後は見事に落ち着いたようにも見える。

社会のもつ対応力もあったのだろうが、なんにしても隔離政策に倦んだ人々の不満を受けての開放だから、人々も文句は言えなかったのだろう。

そして春節休みが終わりに近づこうとするなか、いまでは旅行シーズンの決算を伝えるニュースがかまびすしいが、いずれも予想以上の派手な数字が並んだ。環球ネットの記事によれば、海外のホテルの予約数は、対前年比で640%の増加だったという。

なかでも観光客が殺到したのが東南アジアだ。出国便の予約状況から見ると、バリ島行きが対前年比で30倍。シンガポール行きが8倍。マニラは5倍。バンコックとプーケットがともに4倍。チェンマイとクアラルンプールが3倍だったというから規格外だ。

もちろん国内の旅行需要も堅調で、中国文化・旅游部が27日に発表した統計によれば、春節の7連休の期間中、国内旅行者は対前年同期比で23・1%増の延べ3億800万人にも達したという。当然、観光収入も対前年比で30%と大きく伸び、金額は3758億4300万元(1元は約19・1円)に達した。

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中国経済の先行きを危ぶむ声はコロナ禍のなかで膨らんでいて、なかでも懸念されたのが、中国人の消費者意欲はもうコロナ前には戻らない、との指摘だった。

長引くコロナ禍で、中国社会には先行き不透明感が広がっていたのだから当然といえば当然だろう。だが、ふたを開けてみれば中国人の爆消費は相変わらずで、しびれを切らした消費者たちの旅行・買い物熱は、予想外の回復力を見せたのだった。

そして中国人観光客の爆消費の受け皿となったのが、先に触れた東南アジアの国々であった。しかも彼らの中国人観光客誘致の熱量は、けた外れに高かったのである。

おそらく最大の受益国となったのはタイだが、そのタイは、中国から観光客を、アヌティン・チャーンウィラクン副首相を筆頭に3人の大臣(運輸大臣と観光・スポーツ大臣)で空港まで出迎え、「タイへようこそ」とアピールしたのだ。

フィリピンも同じように観光大臣が第一陣を空港で出迎え、民族音楽のパフォーマンスまで披露した。インドネシアは観光クリエイティブエコノミー省とバリ州政府が合同で広東省発の第一便を歓迎する式典を開催した。

その他にもモルディブは政府がウォーター・サルートでアーチを描き中国人観光客が乗ったチャーター便を歓迎し、オーストラリアはシドニーのオペラハウスをチャイニーズレッドにライトアップして春節を祝うといった具合だ。いずれも中国人観光客が大挙して向かい、彼らの爆消費の恩恵に浴した。

中国国家移民管理局がウェブサイトで、1月8日から移民管理政策措置を最適化すると発表した直後に、いち早く「中国人観光客を歓迎」とウェイボーで発信したフランスも、中国人の人気が高く多くの観光客が詰めかけた国の一つだ。

こうしてみれば際立つのが、日本の観光業界の出遅れ感だ。原因はおそらく日本政府が春節を前に打ち出した「入国に際しての新たなルール」だ。こう書けば、「中国で感染爆発が起きているのだから新ルールは当然だ」という反論が聞こえてきそうだが、本当に感染対策になったのだろうか。東南アジアで感染急拡大となったのだろうか。

メディアが垂れ流す「中国悪」の情報によって、日本の政治は何かにつけて中国を敵視することで人気取りをしようとする。今回の新ルールにも同じ匂いが漂うが、それで日本は本当に強くなったのだろうか。日本はそろそろ真剣にこんな「政治的な点数稼ぎ」の収支を考えるべきだろう。

目下、最も心配すべきはオミクロンの変異株「XBB.1.5」なのだろうが、それにはまったく対策を採らず、すでに日本に蔓延するのと同じ中国のオミクロン株を警戒するというのだ。中国がそれを「非科学的」と批判するのは当然だろう──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年2月5日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:Robert Way/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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