MAG2 NEWS MENU

ようやく気づいたか自民党。遅きに失した「子ども手当」復活の流れ

民主党政権時の「子ども手当」を、まさに挙党態勢で潰しにかかった自民党。しかしここに来て、ようやく自らの過ちに気づいたが如き動きを見せ始めています。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、自民党が「宗旨替え」とも言える児童手当の所得制限撤廃の方向に舵を切った理由を考察。さらに自公と財務省による「妨害工作」に屈した当時の民主党政権に対しては、痛烈極まりない批判を記ぶつけています。

この記事の著者・新恭さんのメルマガ

初月無料で読む

かつてバラマキと批判した民主党政権「子ども手当」を復活?自民は少子化対策の理念を大転換できるのか

変われば変わるものだ。かつてバラマキだと批判した民主党政権の「子ども手当」を復活させるかのごとく、自民党が児童手当の「所得制限」を撤廃する方向に舵を切りはじめた。

2022年の出生数は統計開始以来初めて80万人を割り込み、想定より8年も早いペースで人口減少が進んでいる。このままでは国の衰退は目に見えている。少子化対策を迫られた自民党はついに“宗旨替え”を決断したということだろうか。

1月25日の衆議院本会議。代表質問に立った自民党の茂木敏充幹事長は「すべての子供の育ちを支えるという観点から、所得制限を撤廃するべきと考えます」と述べた。

「すべての子供の育ちを国が支える」というのは、これまでの自民党の主張を大きく転換するものだ。自民党には「子どもはそれぞれの家庭で育てるのが当たり前」という考えが根強い。

だからこそ、民主党政権で2010年3月に設けられた子ども手当に所得制限がなかったのを「バラマキだ」「自助の考えが欠如している」と激しく批判したのだろう。

参議院厚生労働委員会でその法案が採決されるさい、丸川珠代議員が「愚か者めが。このくだらん選択をした馬鹿者どもを絶対に忘れん」と罵ったことが昨今、話題になっているが、なにも丸川氏だけでなく野党当時の自民党はこぞって“批判のための批判”を繰り広げていた。

党の広報本部長だった小池百合子氏(現東京都知事)がその年の夏の参院選に向け、PRグッズとして「この愚か者めがTシャツ」をつくっても、「はしたないからやめろ」と声が出ることもなく、党広報戦略局長だった平井卓也氏にいたっては、丸川氏とともに報道カメラに向かってそのTシャツを広げて見せるパフォーマンスを演じたほどである。

岸田首相が年頭の記者会見で「異次元の少子化対策に挑戦する」と表明し、それに呼応するかのように、通常国会の代表質問で茂木幹事長が所得制限の撤廃を打ち出す。党内には安倍派を中心として所得制限にこだわる議員が少なくない中、あえて幹事長が軌道を大きく変更する姿勢を示したのは何を意味するのか。統一地方選を前にして国民の気を引きたいのか、本気で考えを改めるのか、それとも他に理由があるのかは、現時点ではわからない。

しかし13年の時を経て、ようやく自民党が、民主党政権の目玉であった「子ども手当」の意味を理解し始めたと、捉えることができるのではないだろうか。それは、茂木幹事長が所得制限撤廃を唱える理由として、少子化対策に成功しているフランスの「シラク3原則」を持ち出したことにも表れている。

「シラク3原則」の根本には「育児は女性だけでも夫婦だけでもなく、社会全体で育てる認識の共有が必要」という考え方がある。社会が子どもを育てるのだから、所得によって支援に差をつけるべきではないということになる。

第2次世界大戦後のフランスでは、少子化による国力の低下がドイツの侵略を許してしまった。その反省から画期的な「N分N乗方式」などの子育て支援政策が進んだのだと、茂木幹事長は安全保障ともむすびつけて少子化対策を語った。

この記事の著者・新恭さんのメルマガ

初月無料で読む

その茂木氏も、2011年8月の衆院財務金融委員会では、民主党政権の子ども手当についてこう批判していた。

「子育ての支援策、財源がいくらでもあれば私もやることに反対じゃありませんけれど、これだけ厳しい財政状況のなかで見直しは必要だと考えておりまして、我々はやはり、かなりなレベルの所得制限が必要だと思っております。従来の児童手当に戻すと、国庫負担は1.6兆円減額ができるわけであります」

国庫負担を減らすためにも所得制限が必要だと主張していたのである。それを撤回する茂木幹事長の提案について、岸田文雄首相は今のところ「一つの意見だと認識している」と述べるにとどめている。

だが、茂木氏が事前に官邸と打ち合わせをしたうえで発言したことは間違いなく、所得制限の撤廃は既定路線と考えるのが自然だ。

丸川議員の「愚か者」発言について問われた岸田首相はこう答えている。

「その議論を行う際の態度、発言等において節度を越えていたのではないか。こういったご指摘については謙虚に受け止め反省すべきものは反省しなければならないと思います」。

もし、所得制限の撤廃をする気がないのなら、「反省」という言葉は出てこないに違いない。当の丸川議員も政権中枢の意向を察知し、渋々ながら「反省すべきは、しっかり反省したいと思います」と記者団に語っている。

過去の過ちはさておき、自民党がしかるべき考えに改めることは良いことである。しかし、何をいまさらという感も否めないほど、度を過ぎた批判が横行していたのも確かだ。安倍晋三氏は雑誌「WiLL」2010年7月号掲載の座談会で、こう語っていた。

「子ども手当で民主党がめざしているのは子育てを家庭から奪い取る、子育ての国家化、社会化です」「これは実際にポルポトやスターリンが行おうとしたことです」

今年2月1日の衆院予算委員会で、立憲民主党の西村智奈美代表代行が指摘したところでは、統一教会関連の団体「世界平和連合」の機関誌である「世界思想」2010年3月号には次のようなことが書かれた記事があるという。

「子ども手当は親子を切り裂く。子育てを社会全体に還元することによって家族の自助努力を奪って依存体質を植え付け、子ども自身にも親に育ててもらったという感謝の念を失わせてゆく。そして所得制限も設けず現金給付するのは社会保障の理念から逸脱しており社会主義思想というほかない」

まさか、自民党の「所得制限」へのこだわりが統一教会の影響とはいわないが、安倍氏の発言と「世界思想」の記事内容が極めて似通っているのは否定しようがない。

そもそも民主党政権の子ども手当は「15歳(中学校修了)までのすべての子を対象として、月額2万6,000円を支給する」というものだった。

自民党政権時代の「児童手当」では所得制限があったが、民主党政権はこれをとりやめ、「親の収入にかかわらず、すべての子どもに手当を支給する。その代わり、高所得者からは税金などほかの方法で取り戻す」として、子ども手当を創設した。つまり「子どもは社会全体で育てる」という考えに立っている。

当然、「児童手当」を否定された自民党は反発する。その点で、子育て予算を増やしたくない財務省との利害は一致していた。

予算編成の経験が浅い民主党政権は、財務省を頼りにせざるを得ない。月額2万6,000円の財源がないという財務省の説明を受け入れ、とりあえず1万3,000円支給でスタートしたが、それさえ当時の自民党は許さなかった。

2011年7月の国会。自民党は公明党と謀って、このバラマキをやめないかぎり赤字国債発行法案の成立に協力しないと言い出したのだ。

この記事の著者・新恭さんのメルマガ

初月無料で読む

赤字国債発行法案は補正予算案の約4割を占める37兆円の財源を赤字国債の発行で確保するために必要なものだった。政権側としてはどうしても、この法案を通さなければならなかった。

しかたなく民主党は、子ども手当の見直しを自公側と話し合った。焦点は、所得制限を設けるかどうかだった。

子ども手当を“人質”にとられた民主党は結局、自民、公明に譲歩し、3党合意による子ども手当の廃止を決断。月額2万6,000円を支給するという約束をついに果たせないまま、児童手当が復活し、2012年4月から所得制限のある新児童手当が支給されることになった。

この経過は、日本の少子化対策にとってきわめて残念なものだった。財務省がその気になれば、国債を発行してでも財源はつくれたはずだ。鳩山由紀夫内閣が米軍普天間基地移転の問題でつまずいて以来、民主党政権が短命に終わると見通していたのだろう。財務省は民主党を取り込む一方で自民党とも水面下で共同歩調をとり、自民党政権の復活にそなえていた。

2010年の政府総債務残高は1,039兆円。2022年は1,457兆円である。国債発行などで12年間に418兆円も借金が増えているのだ。少子化対策の重要性を与野党がしっかり認識していれば、ともに財務省を動かし、国債発行でつくった莫大な資金がより有効に使われた可能性がある。

民主党は政権交代前、税金のムダづかいと天下りを根絶し、国の総予算207兆円を全面的に組み替えて財源を捻出するといっていた。しかしその威勢はしだいに弱まり、菅内閣、野田内閣では政権のマニフェストに反して消費税の増税をめざすなど完全に財務省の論理に染まっていった。

民主党政権の目玉政策のうち、小沢一郎氏が主導した農業の戸別所得補償は土地改良事業予算の削減により鳩山内閣で実現したが、子ども手当については失敗というほかない。しかし、「子どもは社会全体で育てる。親の収入にかかわらず手当を支給する」という理念そのものは決して間違っていなかった。今回、自民党の所得制限撤廃への動きがそれを証明したともいえるのではないか。

だからといって、立憲民主党は子ども手当が長続きしなかった責任を自民党や公明党になすりつけるべきではない。むろん彼らが人口減少問題への確たる考えもなく子ども手当を排撃したのはこの国にとって不幸ではあったが、第一義的な責任は当然のことながら、政権を担っていた当時の民主党にある。

財務省がどんな理屈で財源難を説明しようとも、国の未来のために掲げた公約を実行する強い姿勢が必要だった。腰砕けになる姿が、その後の民主党の低迷を招き、今の立憲民主党に対する低支持率にもつながっている。

この記事の著者・新恭さんのメルマガ

初月無料で読む

image by: 首相官邸

新恭(あらたきょう)この著者の記事一覧

記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 国家権力&メディア一刀両断 』

【著者】 新恭(あらたきょう) 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 木曜日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け