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図々しい独裁者プーチン。ウクライナ戦争後に「ロシア中心の世界を構築」という皮算用

間もなく開戦から1年が経過するものの、依然として膠着状態が続くウクライナ戦争。ロシアの暴挙により分断されてしまった国際社会はこの先、どのような道を辿ることになるのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、現在起きているという「世界の3極化」について詳しく解説。さらに各国の思惑を分析しつつ、ウクライナ戦争の今後の予測を試みています。

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プーチン大統領が作り出した「歪み」。ウクライナ戦争が国際情勢に与える分断

Keeping at it.「諦めずにやり遂げる」というのが日本語訳だと思いますが、ロシアによるウクライナ侵攻を巡って、ロシア・ウクライナ双方がこのような心理に陥っていることがよくわかります。

ウクライナにとっては当然のことですが、自国および自国民の存亡をかけた最大の戦いであり、諦めることは即座に国家の消滅か、不可逆なロシア化が進むことを意味し、20年余りの“独立”に終わりが訪れることを意味します。

それを何としても食い止めるために、欧米社会を味方につけてロシアによる蛮行に対抗し、反攻しているのがウクライナの人たちであり、それを後方支援しているのがNATO諸国という構図です。

そしてロシアにとっては、プーチン大統領が抱くグランドデザインに沿って、自国に次いで地域第2位の軍事大国になり、欧米諸国の影響が強まってきたウクライナの力の伸長を食い止めるという“国家安全保障上”の懸念と、ウクライナを未だに独立国とは見なさないという基本姿勢も合わさって、今のうちにロシアに対抗する芽を摘もうという狙いがあっての軍事作戦(侵略)という性格が見られます。

プーチン大統領の行動に対しての価値判断はあえて避けますが、国内外に抑えるべき対象(190以上の少数民族、14の国境など)が満載のロシアの大統領で、ロシア国民の生命と安全を守るための行動としてのウクライナへの攻撃というのは、彼を支持する人たちにとっては筋の通った話なのでしょう。

どちらの国もリーダーもkeeping at itの姿勢に陥り、雌雄を決すまで止めることが出来ないのが現状と言えます。

ゆえにゼレンスキー大統領は、当たり前の主張なのですが、「ロシアに不当に侵略された領土全てが返されるまでは戦い続ける」と言わざるを得ませんし、プーチン大統領は、多くの誤算があったにせよ、一度始めてしまった戦争をやり抜く以外には選択肢がないと信じて、攻め続ける姿勢を崩していません。

ロシアが隣国に侵略をしたということに対して支持を表明する国はありませんが、ロシアが抱く懸念にシンパシーを感じたり、欧米諸国とその仲間たちによるロシアに対する制裁はやりすぎと考えたりする国々はそれなりの数に上っています。

そこで何が起きているかと言えば、世界の3極化です。

欧米諸国とその仲間たち、つまりロシアに対しての制裁措置を取っている国々のグループが一つ目。中国やイラン、北朝鮮、ミャンマー、シリアなど、ロシアに対してシンパシーを持ち、反欧米諸国の姿勢を崩さないのが2つ目。そして3つ目が、ロシアによるウクライナ侵攻は非難するものの、経済制裁には加わらず、逆に実利主義の立場からロシアとの貿易も積極的に続ける国々が第3極で、その筆頭例がインドとトルコと言えます。

Emerging economiesに分類される中南米諸国、中東諸国、そしてアフリカ諸国は、中ロから受けている経済的な支援の存在に加えて、国内にロシアや中国と類似した内政問題を抱えており、欧米諸国とその仲間たちからは人権問題を指摘されているという共通点から、明日は我が身との認識も働き、対ロシア制裁には加わりません。しかし、totalitarianな性格を持ち、中央集権的な統治を進める特徴がある第2グループには近いものの、その場の利益に沿った動きをする特徴もあることから、別のグループ(第3極)に属します。

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自らの行動によって欧米諸国とその仲間たちとの関係修復が不可能に近くなったロシアは、対ロシンパシーを拡大するために、第3極に属する国々に接近して国際社会における完全なる孤立を避ける戦略に出ています。

ここ最近のラブロフ外相の南アやマリ、ケニアをはじめとするアフリカ諸国歴訪、少し前に行われた中東諸国(サウジアラビア王国、UAE、カタールなど)との対話と戦略的パートナーシップの締結を行っています。

その結果、第3極の国々からのロシア非難が収まり、ロシアはそれらの国々に安価でエネルギー資源と食糧、軍事的な技術などを輸出するという構図が出来上がっています。そうすることで、ロシアの孤立はかろうじて免れ、新たな勢力圏・パートナーシップが形成されているのが現状です。

以前、ウクライナ戦争後の世界のために新しい世界秩序を作り始めることが必要とお話ししましたが、ロシアサイドは、現在、ウクライナで戦争を遂行しつつ、外交面では“ロシア中心の新国際秩序”または“グループ”を形成しようとしているように思われます。それがどこまで拡大するかは、今後のウクライナでの戦況にもよるでしょう。

では、ウクライナはどうでしょうか?

新国際秩序云々の話にまでは恐らく考えは至らない状況かと思いきや、しっかりと停戦後の国としての生存方法も考えているようです。

先日のワシントンDCへのサプライズ訪問に続き、今週は英国・ロンドンを皮切りに、フランス・パリ、そしてベルギー・ブリュッセルを訪問して、EU内での立ち位置を確保しようとしています。

もちろん主目的は、現在、ロシアによるウクライナ侵攻に対する反攻攻勢を強め、ロシアの企みを挫き、ウクライナを守るための手段と支援の確保・拡大ですが、何らかの形で生き残った場合、戦後の立ち位置、そして安全の保障のため、EU加盟も含めた策を考えています。

当初はロシアからのaggressionに対して直接的に反撃してもらうためにNATOへの参画を望んでみましたが、ロシアに与える刺激の大きさを懸念して、NATOは選択肢として取り上げない決定をしました。

一応、表向き、プーチン大統領がウクライナ侵攻に乗り出す理由として挙げたのが、NATOの東進への危機感ですから、NATOとしてロシアとの直接的な戦闘を避けるためには致し方ないと言えます。

ただEU加盟も非常にハードルが高いと思われます。今年に入ってEU加盟に必要とされる政治の透明性(transparency)条件に応えるため、汚職の恐れがある政権幹部を、戦時中であるにもかかわらず次々と更迭する決定を行いました。多少、士気に関わる副作用が出ているようですが、ゼレンスキー大統領の目は、現在の戦闘よりも、生き残った後の位置づけに注がれているように感じます。

それは同時にウクライナ側も戦況の膠着状態を認識しており、急に戦況が動くことはないとみている証拠と言えるかもしれません。

東部ではまだ戦略的な地域の帰属をめぐる非常に凄惨な戦いが続いていますが、一進一退の攻防が続いており、ロシア・ウクライナ双方に多くの犠牲を出しつつも、決定的な状況には至っていません。

ただ長期戦の中で疲弊し、消耗が激しいのは実際にはウクライナ側だと思われ、その場合、NATO諸国からの支援の遅れは直接的に反転攻勢の停滞または失敗に繋がりかねないぎりぎりのラインまで来ているとの情報もあります。

ゆえに身の危険を顧みずに欧州各国を訪れて、ドイツのレオパルト2戦車に代表される最新兵器の供与の時期を一刻も早めてほしいという要請を行っているようです。

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ただ、アメリカにも断られたように、欧州各国も戦闘機の供与はロシアを過度に刺激することとなるという理由から断り、ウクライナが敷く防衛戦略上、必要とされるレベルの戦力には届かないというジレンマに陥っているようです。

そうしている間、2月に入って頻繁に囁かれるようになったのが、「ロシアが2月中に大規模な攻撃に乗り出す可能性が高い」という見解です。

今週に入ってウクライナ国境に20万人から30万人規模のロシアの精鋭部隊が配置され、同時にミサイル戦略部隊の動きも活発になってきたという情報があります。

思惑としては、4月から5月にはウクライナに配備されると言われている欧米諸国が供与する戦車が投入される前に、ウクライナ東部・南部4州(ロシアが一方的に編入した)を完全に掌握し、今回の“特別軍事作戦”の目だった成果としたいということのようです。

今回の戦いでロシア側も多くの戦車を失っていますが、まだ余力はあるようで、質では欧米の最新鋭戦車には劣っても、その分、量で圧倒したいと考えているようで、戦車部隊もまた国境地帯に集結しています。

空軍の空からのサポートが得られるかは不透明な状況のようですが、雪解けを待たずに地上戦のスタートが切られる可能性が高まっているようです。

それに加えて、以前よりお話ししているNATOからウクライナへの供給を断ち、ウクライナを孤立させるために、ポーランド国境地域にあるリビウ周辺、特に戦車などを輸送する鉄道網へのミサイル攻撃を徹底する作戦を実行すると言われています。

そうすることで以前より行われているウクライナの生活の破壊とそれによる厭戦気分の創出という戦略が進められ、NATO各国からの戦車が投入されるまでに東部・南部の支配を確立できたら、ロシア側に有利な条件で停戦協議に持ち込めるという算段があるようです。

それがうまく行く保証はありませんが、ウクライナ全土を掌握することがほぼ不可能な中、ロシアが追求できる“勝ち”の戦略はこれしかないのではないかと考えます。

ウクライナから欧米諸国への戦闘機の供与要請はそれを理解したうえで、それを阻止するための手段のはずですが、戦闘機を供与することでこの戦争がウクライナ外に広がり、ロシアとNATOとの対決を生み出す戦闘のエスカレーションに進むことを恐れたNATO諸国は二の足を踏んでいるのが実情です。

ただNATOの腹の中には別の思惑もあるようです。現時点では、まだ核のボタンに手をかけていないロシアを過度に刺激せず、何とか落とし前をつけたいと考え、ロシアとの水面下での協議が進められています。ここではまたウクライナは蚊帳の外に置かれているという悲しい状況なのですが、ロシアを弱体化し、凶暴性をしばらく閉じ込めた上で、ロシアを活かした新しい態勢づくりを画策しているようです。首謀者は英国と米国と思われますが、米国は現在、国内政治の対立が顕在化しているため、対ウクライナ支援を表明しつつも実際にコミットメントを深めることはできないため、この計画の主導権は英国に渡しているようです。

ただフランスとドイツは上記のようなアレンジメントを100%支持はしておらず、米英の出方によっては対ロシア包囲網がさらに綻ぶ可能性も見えてきました。今回に関してはさすがにないとは思いますが、元々、フランスもドイツもロシアに近い関係があるため、自らの存在を国際社会に示すためにロシアに対する非難と制裁の網を緩めるようなことが起こってしまったら、今回のウクライナ戦争の形勢は一気に変わることになってしまうかもしれません。

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今回トルコ南部とシリア北西部で起きた大地震により、トルコ政府がしばらくは調停役の任を果たせない可能性が高いこともあり、非常に複雑な紛争のバランスを取る存在の不在が懸念されます。

そのトルコ・シリアの震源地近くでは、敵味方なく、米国もロシアも、ウクライナも中国も災害対応と復旧支援を行っているのは非常に望ましい情景ですが、その裏でウクライナの人々の心理的物理的な状況は悪化の一途を辿っているのも事実で、もしロシアが今月に大規模な攻撃に打って出るようなことがあれば、その際は世界において同時多発的に生存の危機に瀕する状況が点在し、さらなる悲劇を生み出すことになるかもしれません。

残念ながら世界は分裂し、相互不信が高まっています。今後、世界はポリクライシス(複合的危機)に直面し、その解決のためには国境を越えた協力が必須となりますが、そのための土台はコロナのパンデミックをめぐる不均衡の拡大と、ウクライナ戦争が生み出した歪みによって崩れそうになっていると感じています。

以上、国際情勢の裏側でした。

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image by: Володимир Зеленський - Home | Facebook

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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