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ロシアへの「武器支援疑惑」で中国を揺さぶり始めたアメリカの“狙い”

ロシアによるウクライナ侵攻から1年が経過し、欧米はウクライナへのさらなる武器支援を約束。一方で中国によるロシアへの武器支援疑惑を喧伝し、メディアもその論調に乗って中国を揺さぶっています。この状況を「デジャブ」と語るのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さん。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、1年前にも確証のないまま同様の疑惑を騒ぎ立て、その後に打ち消していたと指摘。アメリカによる中国のイメージを悪化させる戦略が繰り返されているとして、その狙いを解説しています。

気球の次は「ロシアへの武器支援」で中国を揺さぶり。わかりやすい対立の裏で交錯する各国の動き

一部のメディアで報じられ、注目も集めていた中国の習近平国家主席のウクライナ侵攻1年を受けた平和に関する演説は、見送られた。代わって中国外交部から発せられたのが「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」(=12項目提案文書)だった。

停戦の見通しが立たないウクライナ情勢を受けて、中国の役割を期待する声もあったが、この「12項目提案文書」に対する国際社会の反応は芳しくない。「具体性を欠く」、「従来の主張をまとめただけ」、「行動がともなわない」といった批判の声がメディアでも目立つ。

だが、そもそも中国は自らの手で即座に停戦が実現できるとは考えていないのだろう。ロシアとウクライナはともに、話し合いのハードルを非現実的なレベルにまで上げてしまっていて、双方の国民も戦争を続けるそれぞれの政権を高く支持しているからだ。

ウクライナ国民を対象に行ったある調査では、国民の95%が「最後にウクライナが戦争に勝つ」と信じているとされ、ゼレンスキー大統領への支持も90%に達している。一方のロシアも、プーチン大統領への支持が72%を下回った(最高は81%)ことはないのだ。

さらに中国にとって厄介なのは、アメリカだ。中国の目から見れば戦争のほぼ当事国であるアメリカが、習近平にそんな名誉な役割を担わせるはずはないからだ。そのことは中国がアメリカの別動隊と見る北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長が、「中国はそもそも信用されていない」と早速「12項目提案文書」を腐したことでもよく分かる。

唯一、アメリカが納得する仲介があるとすれば、それは中国がロシアを批判しウクライナの味方として仲裁に立つ場合だ。つまりそれは、アメリカが警戒する中ロ関係が破壊され、ロシアも弱体化するというバイデン政権にとって一石二鳥のケースだけだ。2014年には中国もそれに近い選択をしたが、いまや時代は違う。アメリカの次のターゲットが中国であることは自明だからだ。

そもそもバイデン政権は、中国の建設的な役割など望んではいない。中国とロシアを反目させ、それがかなわなければ、ロシアの同類として国際社会から孤立させたいからだ。

筆者も1年前、同じ内容の原稿を書いた。まるでデジャヴだ。そしてデジャヴといえば、「中国がロシアに兵器の支援をする」という疑惑をアメリカの政府高官が、ここにきて声高に叫び始めたこともそうだ。

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匿名の高官の発言から始まるのはアメリカの対中攻勢のパターンだ。最後はアントニー・ブリンケン国務長官が出てきて疑惑に拍車をかける。一年前にも同じことが起きた。当然、中国は反発するが、ほどなくして匿名の高官が再び登場し「中国にロシア支援の動き見られず」と火消し。疑惑の幕は閉じられた。

要するに実態のない疑惑なのだが、この間、検証能力を欠くメディアは疑惑を流し続け、世界には「中国が裏でロシアを支援」というイメージが定着してしまう。

今年2月18日、ブリンケンがミュンヘン安全保障会議に出席し、中国の王毅党中央政治局委員と会談した後、SNSで「中国がロシアに物質的な支援を提供しないよう警告した」と投稿したのは、まさにデジャヴだ。

同じタイミングで20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議のためインドを訪れたジャネット・イエレンも中国を名指しし、「ロシアへの物資提供やあらゆる形の組織的な制裁回避に対し我々は深刻な懸念を抱いている」と追い打ちをかけた。

中国側はこれに激しく反発。定例会見で中国外交部汪文斌報道官は「根拠なき中傷」、「戦場に武器を提供し続けているのは米国であって中国ではない。米国には中国に指図や命令をする資格はない」と応じたが、情報の拡散を止められたとは思えない。

中国は自国の気球がアメリカに撃墜された問題でも、「アメリカは残骸を拾い上げ、分析した。中国はその進展を明かすように求めたが、アメリカ側からの反応はない」と不満を漏らしていた。証拠がなくても情報は拡散され、イメージは造られるのだ。

実際、アメリカのテレビPBSの番組「ニュースアワー」に出演したウィンディ・シャーマン米国務副長官も、中国のロシア支援疑惑についてキャスターから「具体的に中国が検討しているどのような支援のことを指すのか」と問われても明確には答えなかった。

不思議なのは、米中のこうした攻防の舞台となったインド(南部ベンガルール)に対しては、バイデン政権も中国とは違ってどこまでも寛容な点だ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年2月26日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:photowalking/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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