MAG2 NEWS MENU

ロシア“崩壊”にも言及の異常事態。プーチンがついに「戒厳令」を口にした意味

プーチン大統領の「ドンバス地方完全制圧指令」の期限まであと1ヶ月を切り、猛攻を続けるロシア軍。人的被害無視の戦術で主要都市バフムト攻略も間近との報道もありますが、事はプーチン氏の思いどおりに運ぶのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、ウクライナ戦争の最新の戦況を解説しつつ、ロシア軍とワグナー軍の「仲間割れ」の可能性を指摘。さらに世界が今後、どのような方向に進んでゆくのかについて考察しています。

バフムト陥落か?人的被害を無視して進撃スピードを上げるロシア軍

ロ軍が人海戦術でバフムト包囲完成真近で、ウ軍のバフムト撤退開始という事態である。今後の戦況を検討しよう。

ロ軍は、冬の大攻勢の結果が出ている。バフムト以外の攻撃は失敗しているようだ。このため、結果的に成果が期待できるバフムトにロ軍は兵力を集めていることになる。

そして、ロ軍大規模攻勢の成果がバフムトだけで出ている。ウ軍は、バフムトから撤退して、チャンプ・ヤールに新しい防衛線を作り、その準備ができ次第、撤退なりそうである。

ロ軍は、クレミンナの攻撃要員もバフムトに回した可能性がある。この方面での攻撃が少なくなっている。人海戦術ということは、人的資源を集中して、ウ軍の数倍以上の人員を集める必要がある。

ウ軍も大増援部隊を出して、ロ軍の人海戦術に対抗するので、ロ軍も人員を集める必要になる。そして、人的被害を無視して進撃スピードを上げるしかない。ワグナー軍は巧みに前線を突破してくるが、その戦術もワグナー軍のマニュアルを鹵獲したことで明らかになっている。

ウ軍の陣地正面に多数の10人程度の小隊を突撃させて、ウ軍の機関銃をその迎撃に向けさせている間に、その外側を機甲部隊がすり抜けて、後方の陣地を攻撃して、手前の陣地を無力化することで、前進させるという戦術のようである。

ワグナー軍は、M03号線を超えて西側のベルキウカを占領し、トボボバシリフカを攻撃している。そこを超えて、地方道00506線を切りたいようだ。しかし、今のところ、トボボバシリフもカザリジネスクの街も、ウ軍が防衛している。

また、ロ軍とワグナー軍は、パラスコビイウカを全面的に占領して、M40号線を超えてヤヒドリウカも占領した。そしてステプキー駅周辺も占領した。

侮れないワグナー軍の柔軟性に富む戦術

ウ軍はスタフカのダムを破壊して、ロ軍の侵攻を遅らせる手段をとっているが、前進が止まらないことで、とうとう、ウ軍陸軍司令官のシルスキー大将が、バフムトを訪問して、さらなる増援で撤退戦の支援をするようである。今までに6個旅団を投入したが、追加で数個旅団を投入するようである。ヤヒドリウカから攻撃してくるワグナー軍との戦闘にウ軍国際旅団も投入した。

ウ軍機械化部隊は、M03号線を東に進軍したが、ロ軍の装甲部隊に、パラスコビウカで阻まれた。ワグナー軍とロ軍空挺部隊の混成軍の戦術は柔軟性に富んでいる。このため、ウ軍装甲部隊は押し戻された。

ワグナー軍の歩兵数も少なくなっているが、その穴埋めとして、ロ軍空挺部隊が参加したようであるが、戦術と指揮はワグナーの司令官が行っているようだ。戦術の柔軟性が高いので、ウ軍もおちおちできない。

ワグナー軍の中核は、今や南ア軍退役者になっているようである。このため、柔軟な作戦指揮ができるようである。ワグナー軍を侮ってはいけない。

これにより、メインのM03補給路だけではなく、地方道00506道も切断される可能性が出てきた。

ワグナー軍トップのプリゴジンは、すでにバフムトを包囲したと豪語したが、この状況でロ軍は、ワグナー軍の撤退を命令して、バフムトの前線からワグナー軍を排除して、手柄をロ軍だけのものにするようであり、プリゴジンは、今ワグナー軍がいないと、前線が崩壊すると苦言を述べている。

この記事の著者・津田慶治さんのメルマガ

初月無料で読む

クーデターへの警戒も怠れなくなったプーチン

この状況で、ウ軍は当初バフムト撤退を決断したが、ワグナー軍を前線から撤退させるのかを見るようである。セベロドネツクでの撤退遅れの過ちをしないように撤退も視野に入れているが、様子見である。

撤退なら、整然と撤退の方向であり、多くの部隊に撤退命令が出したが、踏みとどまっているようである。バフムト市内を流れるバフムトフカ川の橋を破壊したことで、バフムト市東部からは撤退したし、チャンプ・ヤールの東の橋も破壊したが、補給路としてT0504主要道を取り戻した。

バフムトの南側のイワニフカに攻めていたロ軍を反撃して、道から遠ざけて、T0504主要道を確保したことで、まだ十分補給ができるようになったことで、バフムトの撤退を延期した可能性もある。

北から攻めてくるワグナー軍には負け気味であるが、南のイワニフカを攻めるロ軍は弱いとして、ウ軍精鋭部隊は、積極的にロ軍を叩いたようである。その意味では、プリゴジンの言うとおりであり、ワグナー軍を前線から撤退させたら、ロ軍全体は崩壊する可能性が否定できない。

ということで、ウ軍は、ロ軍とワグナー軍の仲間割れに期待する方向のようである。ロシアは、政争でこの戦争に負けた可能性も否定できない。ジョイグ国防相とプリゴジンの戦いがあり、そして、プリゴジンのクーデターもプーチンは意識しないといけない事態になる。ロシア国内対立を見る必要がある。

しかし、撤退時は、ウ軍の殿を務めるのは第93機械化歩兵旅団のようで、撤退のために、T0504主要道の周辺を確保している。

バフムトの北のフェドリフカ攻撃のロ軍もバフムトに移動したようであり、攻撃がない。ビロホリフカのロ軍攻撃は続行しているが、ウ軍が撃退している。

当分、戦況が揺れ動く事態になる。このコラムは、3月5日朝時点での記事であり、今後の展開は変化する可能性がありますので、ご容赦ください。

1万の兵で攻撃に。バフムトの次にロシアが狙いを定める街

ドネツク方面

ドネツクのボハレダラとマリンカでは、ロ軍は大きな損害をだしたが、攻撃は失敗している。バフムト以外では、ロ軍の攻撃力が弱い。

アウディーイウカ周辺でもロ軍は攻撃しているが、撃退されている。

スバトボ・クレミンナ攻防戦

ロ軍は、この方面で大損害を出して、攻撃を中止したようであり、部隊をバフムトやボハレダラに回しているという。

しかし、クピャンスクに向けて、ロ軍機甲師団と機械化歩兵旅団の1万人で攻めてきている。このため、ウクライナ政府は、クピャンスクの町からの全住民の避難を命じた。砲撃量の増加で危険だからだという。バフムトの次のロ軍攻撃箇所は、クピャンスクのようである。

この記事の著者・津田慶治さんのメルマガ

初月無料で読む

ロシア領内に次々と攻撃を仕掛けるウクライナ

ロシア西部ブリャンスク州に、ウクライナから武装集団が300kmも侵入したと、ロシア政府は非難したが、ウ軍は否定した。この侵入について、「ロシア義勇軍」が実施したと宣言した。

モスクワ州コロムナでウ軍ドローンを撃墜したとロシアが発表したし、クラスノダール地方の都市トゥアプセの製油所付近で爆発があったが、これもウ軍ドローンやミサイルであったようだ。モスクワ州のは、弾頭重量75kgの1,000kmを飛ぶドローンの「UJ-22」であり、クラスノダールのは航続距離110kmで弾頭重量が220kgの「ビルハ-M」対空ミサイルであろう。ロシア領内への攻撃がウ軍もできるようになったようだ。

そして、クリミア半島でも、ヤルタ、バフチサライ、セヴァストポリ近郊で爆発が起きたというが、これもミサイル攻撃であろう。ロシア領内やクリミアでもミサイル攻撃を受けるようになっている。多数のGLSDB弾もウ軍に到着するので、クリミアも本格的に攻撃できるようになる。GLSDBを用いてのロシア領内への攻撃はできないが、こちらはUJ-22とビルハ-Mがある。

ベラルーシのマチュリシチ飛行場でロ軍のA-50空中警戒機がパルチザンに破壊されたが、この攻撃で、運用可能なA-50はロ軍に6機となる。そして、ベラルーシの防空能力を強化する必要になっている。それと、ベラルーシのA-50は検査のためにロシア本国に移動した。

それと、ロシア連邦ペルミ州で鉄道輸送されているロシアの軍用車両をみると、古いトラックやBTR-50の古い装甲車しかなく、戦車はなかったようである。どんどん、装備が古くなってきたことがわかる。ベラルーシから訓練が終わった動員兵を載せた列車がロシアに帰還しているが、その兵員とともに、T-64戦車が載せられている。こちらも古い戦車である。

ロシア崩壊について語り始めたプーチン

ロシアは、秋の動員数30万人ではなく、2022年9月以降、52万人以上のロシア人を動員したようである。このため、まだ、新しい動員は必要がないが、1日に700人の戦死者が出ているので、そう遠くない将来には、次の動員が必要になる。

クレバ宇外相は、「プーチンは再び、大敗を喫した」と述べた。ウクライナへのインフラ攻撃で、停電が起きたが、ウクライナ人は耐え、冬の恐怖に打ち勝ったと。そして、現在、電力不足はなくなっているという。

ロシアのプーチンもロシア崩壊について語り、戒厳令の可能性も言い始めている。戒厳令により、2024年3月の大統領選挙を、中止する可能性が出てきたようだ。事実、3月末までにドンバス地方を完全制圧することは無理である。今後、ウ軍のレオパルト2戦車で攻撃されたら、南部には精鋭部隊がいないので、長くは持たない。

もう1つ、ロシアの蓄えた戦費が2023年中には、底を突くことになり、その面からも長くは戦えないと、オルガルヒの1人は言う。

それと、前回、陽動作戦に翻弄されて精鋭部隊をヘルソン州に集めたが、東部ハリキウ州を攻撃されているので、その手に乗らないようである。南部は動員兵中心に守るようである。

しかし、精密砲撃により、塹壕戦での防御が難しいことはロ軍でも分かったようである。このため、要塞を各所に作る必要があるが、それは無理で、拠点防衛しかできない。

この記事の著者・津田慶治さんのメルマガ

初月無料で読む

ついに同盟国にまで見限られ始めたロシア

親ロ派と思われていたセルビアが、第三者カナダ、トルコ、スロバキアなどを経由して、ウ軍に3,500発のグラッドロケットを売却した。セルビアは、とうとうロシアを見限ったことになる。

スロバキアは、ミグ戦闘機11機のうち10機をウクライナに引き渡すことになった。このミグ戦闘機には欧米製ミサイルの発射装置が取り付けられているので、英国供与の射程距離300キロメートルの空中発射巡航ミサイル「ストーム・シャドウ」を発射できる。

ポーランドも60機のミグ戦闘機をウ軍に供与することになり、欧米製戦闘機の供与はなくなったようである。短期にクリミアを航空攻撃が可能になり、クリミアの孤立化ができるようになる。

スイスは134両のレオパルト2戦車を運用中で、さらに96両を保管しているので、ドイツはスイスからレオパルト2を買い取りウ軍に供与することを検討中とのこと。300両以上の戦車が揃うことになる。

155mm榴弾で韓国の備蓄分を買い取り、ウ軍に提供することを検討しているが、どうも成立したようである。現在、砲撃量でロ軍はウ軍の4倍もある。それだけ、ウ軍の砲弾不足が深刻な状態になっている。バフムト前線でもロ軍の砲撃が大変なことになっているという。

逆に、米国はM1エイブラムスの供与は、1年半先になると述べている。バイデン大統領は、当初供与しないと述べていたが、ドイツ説得のために、供与を決定したが、劣化ウランを装甲に利用しているので、その装甲を変える必要があるので、遅くなるという。

独ラインメタル社はウクライナ国内にパンター戦車を年間400両生産できる能力を持つ戦車工場建設を提案した。対ロ戦の前面にいるウクライナは、今後も防衛能力を必要とするという見極めであろう。

徐々に、ロ軍撤退での停戦後体制の構築も始まっている。

ベラルーシ経由でのロシア軍支援を決めた中国

中国は、ロシアのGPSグローナスが余り機能していないので、中国版GPS北斗をロ軍に使わせている可能性があり、それと、中国の衛星が得ている情報を与えているようだ。

中国はベラルーシのルカシェンコを北京に招いて、中国は直接ロ軍への軍事支援はしないが、ベラルーシ経由で軍事支援をするようであり、ベラルーシに経済援助や武器工場の技術支援を行うという。

このような経済制裁逃れを欧米はどう見るかが問題になる。

ドイツは、中国への経済依存度が大きいのに、米国に中国への経済制裁をドイツも同調することを依頼されたが、ドイツのシュルツ首相は、訪米するが晩さん会も記者会見もしないという。

ドイツの方向はどうなるかで、今後の欧米諸国の中露対応が変化する可能性がある。

この記事の著者・津田慶治さんのメルマガ

初月無料で読む

ドイツの動き次第でロシア支援に本腰を入れる事になる中国

習近平国家主席が和平提案したが、米国は欺瞞であるという。独仏は、中国の和平提案に同調する方向であったが、米国が独仏に中国制裁を呼びかけたが、ドイツ経済は、中国依存が高いので、米国に行って、反論するようである。

もし、ドイツが米国に同調すると、中国はロシア支援に本腰を入れることになる。そして、欧米と中露の分裂が本格的になり、世界が2つに分断した経済圏になる。

米国経済も中国への依存度が高いが、その見直しを行う必要になり、日本や韓国への期待が増すことになる。

逆に、プーチンは長期戦になる方向で体制を立て直すにも、中国の支援が必要であり、軍事援助はベラルーシ経由でよいが、経済援助を期待することになる。ルーブルが下落して、世界に通用しなくなり、人民元を共通通貨として利用するしかない状態である。ドルで持つと差し押さえになるので、ドル資産は持てない。

ということで、世界が2つに分断することになり、その準備を日本も本格的に行う必要になる。

中国への経済制裁も徐々に厳しくなり、中国からの輸入物品などを、日本企業の東南アジア工場に求めることになる。低価格で高品質な物品を日本企業に求めることになる。

もう1つが、ウクライナ侵略戦争の長期化で、欧米諸国の防衛産業の増産が必要になり、そのための素材産業や電子部品産業など、関連企業の業績もよくなる。このことで、景気後退を止めることができる可能性がある。

経済の中心を民需から軍需に変えることで、中央銀行バブル崩壊を何とか切り抜けられないかと欧米諸国は思い始めていたが、ウクライナ戦争は、軍事産業拡大の大義名分を与えたことになる。

自国軍人をワグナーに売りつける国々

欧米諸国の動きに「グローバル・サウス」の諸国は冷ややかな目を向けている。欧米諸国側に着くと、不足気味の小麦やエネルギー価格が高騰するので、中露サイドに着き、制裁を受ける安価なロシア産小麦やエネルギーを得た方が良いということになる。

もう1つが、南アや北朝鮮、イランなどは、軍事物質や軍を派遣すると国家財政が潤うことになる。このため、ワグナーに自国軍人を売りつけている。南ア共和国がすでに始めているが、チャドやマリなどのアフリカ諸国や北朝鮮でも国軍がワグナー軍に参加することになる。このため、アフリカ諸国は、ウクライナ戦争非難決議に棄権するが、実際は、ロ軍への軍事支援を行うことになる。

このときの賃金の支払いは、人民元になるので、大本は中国となるので、こちら側の経済の中心は、中国となる。中国もバブル崩壊をグローバル化で乗り越えられる可能性があり、それにかけてくる。

このように、欧米陣営と中露陣営に世界は徐々に分裂してくることになる。韓国、台湾やパキスタンなどは、欧米陣営になるが、多くの国が中立になる。

その結果、米国の世界における影響力の減退になり、その分、中国の影響力が増すことになる。この戦争は世界の構図を大きく変えることになることだけは、確かである。

2024年は、台湾総統選挙であり、国民党が勝てば、台湾は中国陣営になる可能性もあり、分からないが、もし民進党が勝つと、その後は台湾有事への備えが必要になる。

そして、台湾有事で核戦争になりかねない。21世紀は、地球滅亡の世紀になる可能性もある。

さあどうなりますか?

(『国際戦略コラム有料版』2023年3月6日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

この記事の著者・津田慶治さんのメルマガ

初月無料で読む

image by: Shag 7799 / Shutterstock.com

津田慶治この著者の記事一覧

国際的、国内的な動向をリアリスト(現実主義)の観点から、予測したり、評論したりする。読者の疑問点にもお答えする。

有料メルマガ好評配信中

  メルマガを購読してみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 国際戦略コラム有料版 』

【著者】 津田慶治 【月額】 初月無料!月額660円(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4月曜日 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け