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国益をかなぐり捨ててまで「アメリカ第一主義」を貫く岸田外交の不思議

インドでのG20を欠席し、その直後のクアッドには参加した林外相。国会で批判された岸田政権の選択はアジア各国でも不思議がられ、とりわけ中国の外交関係者たちは日本への不信感を強めているようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂教授が、岸田外交は国益を無視して、中国の嫌がることをアメリカの代理でやっていると批判。政権交代によって中国との関係改善に動いたオーストラリアとは対象的で、岸田-バイデンラインが世界の不安定化を加速していると警告し、安倍-トランプ時代を懐かしむ声が出るのも無理はないと分析しています。

G20で見えた各国の自国第一主義の裏側で、岸田外交だけが「アメリカ第一主義」の不思議

おそらく昨秋くらいからの現象だ。中国の外交関係者たちの間で「安倍総理の時代」を懐かしむ声が広がったのは。外交の安倍と言われるほどの実績があったと筆者は思えないのだが、中国側の評価は案外高い。少なくとも岸田外交と比べれば「はるかに良かった」との評価らしい。

それは中国にとって「御しやすい交渉相手だった」という意味ではない。むしろ激しい火花を散らした難敵である。しかし、プロとして勘所をつかんで対峙する安倍と、基本スペックを備えていない岸田とでは、安定度が違ってくる。また国益に対する強いこだわりのあった安倍とは違い、岸田は何をしたいのかわからないというのが中国の印象のようだ。

より具体的に言えば、自国の利益がいかに傷つこうが、危険度を増そうが、徹底して中国の嫌がることをアメリカの代理としてやっていると、中国の目には映るのだ。直近では、G20(主要20カ国)外相会合(=G20)だ。G20には欠席したのに、クアッド(日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国の枠組み)の外相会合には駆け付けた林芳正外相の行動が典型的だ。

そもそもG20への不参加について、国内の政治日程を優先させたことを不思議がる報道がアジアで目に付いた。それでいて「中国を包囲する枠組み」にだけ参加しようというのだから、意図を疑問視する声が聞こえるのも当然だろう。

G20では、新興国や発展途上国など「グローバルサウス」との連携の重要性が共有されたのだが、それは日本の未来の利益にとっても重要なテーマだったはずだ。グローバルサウスとの接点という意味では、貴重な機会であったG20を放り出し、中国をけん制するが明白なクアッドだけに出席した林は、日本にどんな大きなメリットを持ち帰ってきたのだろうか。

クアッドによって日本の安全保障環境を強化することが喫緊の課題とは思えない。それ以前に、インドやオーストラリアが有事の際、遠く日本まで援軍を差し向けてくれるとは考えにくいのだ。

しかもクアッドの強化は中国を刺激し、逆に習近平政権の軍事部門への投資拡大を促すことになる可能性が高いのだ。本来、経済発展を強く熱望する中国国民は経済分野へ予算を振り向けることを求めるが、これだけ包囲網が強まれば、政権が国防予算を積み増すことにも理解を示すだろう。そうなれば皮肉にも日本が中国の軍拡を裏から支援することになりかねないのだ。

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安倍時代にも中国包囲網形成の動きは活発だった。しかし、その一方で二階俊博幹事長に親書を持たせて訪中させたり、日中韓の枠組みに取り組むなど、多面的であった。日本とアジアの利益に立脚した動きもあった。危機の高まりをきちんと管理しようとする意志も示していた。

これはトランプ外交にもあてはまることだが、ドナルド・トランプ大統領の言動は過激でも、危機を激化させることについて極めて慎重であった。ジョー・バイデン大統領は平和や安定を頻繁に口にしながらも、実際の行動はむしろ対立を煽ることに熱心で、危機管理は後回しにされている。

ロシアのウクライナ侵攻後に、「トランプが大統領であったらロシアのウクライナ侵攻が起きなかった」との見立てが巷にあふれたが、一考に値する見解だ。2020年の大統領選挙では、「中国がバイデン大統領の誕生を熱望している」との観測があった。しかし、その見立てには何の根拠もなかったようである。

事実、岸田・バイデンは日中や米中関係に限らず世界の不安定化を加速している。中国が安倍、トランプ時代を懐かしむのも無理のないところだ。

G20とクアッドに話を戻せば、日本がクアッドに肩入れする反面、インドとオーストラリアは、かえって距離を置いているようにも見えたのが、今度のG20の特徴であった。

オーストラリアはG20において中国の外交を統括する王毅中国共産党中央政治局委員と会談を行っている。双方は、中豪貿易関係をコロナ前の状態に戻そうと努めていることを世界に印象付けた。モリソン政権時代とは一線を画した外交だ。

G20での外相会談を報じたオーストラリアのテレビ局は、これを「関係改善の象徴」と報じたほどだ。そうであればクアッドに対するオーストラリアの態度にも変化が訪れたと考えるべきだろう。モリソン時代にはアメリカよりも積極的に中国を攻撃していたことを考えれば、隔世の感と言わざるを得ない。

積極性を欠いたのはオーストラリアだけではない。インドもまた同じである──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年3月5日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: 首相官邸

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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