多くのメジャーリーガーたちがルーツを持つ国の代表としてスーパープレイを披露するなど、熱狂的な盛り上がりを見せるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。野球の普及を掲げ2006年にスタートしたWBCですが、その目標は成し遂げられつつあるのでしょうか。今回のメルマガ『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』ではジャーナリストの伊東森さんが、大会フォーマットを詳しく解説するとともに、野球「国際化」の現在地を考察。さらに韓国と台湾で進む深刻な野球離れの実態を紹介しています。
野球「WBC」で考える野球の国際化 MLBの国際化戦略 アジアから欧州へとシフト 一方、懸念される韓国と台湾における野球離れ
野球「WBC」(ワールド・ベースボール・クラシック/World Baseball Classic)が佳境に入ってきた。
WBCとは、「WBSC」(世界野球ソフトボール連盟)が公認する野球の世界一決定戦。第1回大会は2006年、第2回は2009年に行われ、以降は4年に1度の開催に。
だが、2021年の第5回大会は新型コロナウイルスの感染拡大で2023年に延期。次回は2026年に開催される予定だ。
大会フォーマットは以下の通り(*1)。
■出場チーム
- プールA:台中インターコンチネンタル野球場(台湾)チャイニーズ・タイペイ オランダ キューバ イタリア パナマ
- プールB:東京ドーム(日本)日本 韓国 オーストラリア 中国 チェコ共和国
- プールC:チェイス・フィールド(アメリカ/アリゾナ州)アメリカ メキシコ コロンビア カナダ イギリス
- プールD:ローンデポ・パーク(アメリカ/フロリダ州)プエルトリコ ベネズエラ ドミニカ共和国 イスラエル ニカラグア
■試合方式
- ロースターは少なくとも投手14人、捕手2人を含む30人
- 引き分けはなく、決着がつくまで延長戦を行う
- 延長10回からタイブレークを採用し、無死2塁から試合再開
- 指名打者制を採用
- 「大谷ルール」を採用(同じ選手が先発投手と指名打者を兼任可能
■投手の投球制限
- 第1ラウンドは65球まで
- 準々決勝では80球まで
- 準決勝以降は95球まで
- 50球以上を投げた場合は中4日以上の登板間隔を空ける
- 30球以上は中1日以上の登板間隔を空ける
- 2日連続で投球した場合は球数に関わらず、登板間隔を中1日空ける
■出場資格
各代表チームの選手は下記のいずれかに該当すること。
- 当該国の国籍を所持
- 当該国の永住資格を所持
- 当該国で出生
- 親のどちらかが当該国の国籍を所持
- 親のどちらかが当該国で出生
- 当該国の国籍または、パスポートの取得資格がある
- 過去のWBCで当該国の最終ロースターに登録された
目次
- 野球「国際化」の現在地
- MLBの国際化戦略 アジアから欧州へとシフト
- 懸念される韓国と台湾における野球離れ
野球「国際化」の現在地
コロナ禍を経て6年ぶりとなった今大会。米大リーグ機構(MLB)とMLB選手会でつくる運営団体のトップである、ジム・スモール氏は、
「WBCは野球界のワールドカップ(W杯)になった。成長の余地は大きく、将来は明るい:(*2)
と力説する。団体トップが注目するのは、野球新興国の台頭だ。
「手応えはある。日米など野球大国の盛り上が以上にうれしいのが、“新興国”の台頭だ。東京の一次リーグではチェコが中国に劇的な逆転勝ちを収めた。あれこそがWBC。チェコでは野球への関心が高まり、プレーする子も増えるだろう。野球人口が増えればレベルも上がる。ブラジルも予選突破まであと一歩だ」(*3)
と語る。また野球人気の減少については、
「野球は『参加』と『消費』が密接にリンクしている。野球をする人がいる日本の家庭は、そうでない家庭に比べて6割ほどグッズを買う確率が高い。『参加』は少年野球や草野球に限らず、ゲームやeスポーツも含めた広い概念だ。米国では脳震盪(のうしんとう)のリスクが高いサッカーやアメリカンフットボールに比べた野球の安全性が見直され、子供の野球の人口が持ち直している」(*4)
と明るい。
この記事の著者・伊東森さんのメルマガ
MLBの国際化戦略 アジアから欧州へとシフト
MLBの国際化戦略は、近年、大きく変化している。アジアから欧州へのシフトだ。きっかけは中国での「誤算」(*5)。
MLBは2008年の北京夏季オリンピックを契機として、中国における巨大市場を狙おうと、野球の普及に乗り出す。
2007年に北京事務所を開設し、中国代表チームに指導者を派遣したり、野球アカデミーを開設したりするなど、選手の育成やファン獲得を全面的にサポートしてきた。
しかしながら結果は実らず。同時期に米プロバスケットボールNBAで姚明が活躍。スター選手の存在で人気が過熱したバスケットボールとは違い、中国における野球人気は低迷する。
代わりに活路を見出したのが欧州だった。イタリアなどヨーロッパ各地でアカデミーを開き、将来性のある人材の発掘や市場の開拓を進める。
2019年には、イギリスのロンドンでメジャーリーグ史上、初めてとなる公式戦を開始。今年に6月にも予定されている。
アメリカの経済紙フォーブス電子版によると、MLBの昨年の総収入は、放映権の契約更新があり過去最高となった一方、球場への来場者は、新型コロナウイルス感染の拡大前に比べ6%、2012年比で14%のマイナスにまで落ち込んだ。
市場拡大の視点からも資金力のある大企業が多く集積する欧州はMLBにのっても魅力的だろう。
懸念される韓国と台湾における野球離れ
危惧されるのはむしろ、東アジアにおける野球離れだろう。すでに韓国と台湾では、2014年時点で「野球離れ」が深刻化。
韓国ではイ・スンヨプ選手やイ・ビョンギュ選手らが来日し、キム・ビョンホン選手がアメリカで活躍した頃は人気だったが、国内リーグの人気は下火だ。韓国人通訳者は「国内リーグ戦はほとんど見られていない。ホークスに入団したイ・デホ選手や、アメリカで活躍するチュ・シンス選手への注目はあるが、韓国リーグとはもはや関係ない存在。昔は多かった『プロ野球選手になりたい』という夢を語る子供もほとんどいなくなった」(*6)
「台湾でも、日本やアメリカでプレーする選手はいるものの、ヤンキースで活躍した王建民投手(19勝をマーク)以降、海外でブレークする選手はほとんどいない。国内は4チームで、そのうち1チームは昨シーズン終了後に身売り、選手との契約も遅れ経営が危険視される状況だ。台湾の野球放送関係者は「国内リーグの中継はあるものの視聴率は低い。球場に足を運ぶ観客が100人に満たないことさえある。野球が注目されるのは4年に1回のWBC予選くらい」(*7)
だという。
■引用・参考文献
(*1)「WBCとは」J SPORTS
(*2) 吉野浩一郎・渡辺岳史「『野球のW杯』成長の余地」日本経済新聞 2022年3月15日
(*3)吉野浩一郎・渡辺岳史 2022年3月15日
(*4)吉野浩一郎・渡辺岳史 2022年3月15日
(*5)倉田直哉・円谷美晶「変わる米大リーグの国際戦略 WBCで欧州への熱視線実るか」毎日新聞 2023年3月8日
(6)杉本尚丈「韓国・台湾でも加速するプロ野球離れ」NETIB NEWS 2014年5月8日
(7)杉本尚丈 2014年5月8日
(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2023年3月19日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
この記事の著者・伊東森さんのメルマガ
初月無料購読ですぐ読める! 3月配信済みバックナンバー
※2023年3月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、3月分のメルマガがすべてすぐに届きます。
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年3月19日(日)号 野球「WBC」で考える野球の国際化 MLBの国際化戦略 アジアから欧州へとシフト 一方、懸念される韓国と台湾における野球離れ(3/19)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年3月18日(土)号 放送法「政治的公平」めぐる総務省文書の本当の問題点 日本のマスゴミは、自ら「報道の自由」を放棄した 異常な放送行政(3/18)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年3月12日(日)号 「エホバの証人」問題、注目 「エホバの証人輸血拒否事件」 むち打ち 忌避(3/12)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年3月11日(土)号 成田悠輔氏の高齢者差別発言の本当の問題点 ~2~ 成田氏が”スルー”する、日本の高齢者支配の本当の問題点 政治・メディア・経営者 成田氏だけでなく、ひろゆきも海外から批判(3/11)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年3月5日(日)号 成田悠輔氏の高齢者差別発言の本当の問題点 ~1~ 天皇陛下に対しても「自決しろ!」というのか? 特殊詐欺犯と同じ思想 それを”エイジズム”という(3/5)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年3月4日(土) ChatGPT の凄さと限界 ChatGPT を支えるマンパワーの闇 問われる人間側の学習号(3/4)
<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>
※初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込880円)。
2023年2月配信分
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年2月26日(日)号 難航するスウェーデンとフィンランドのNATO加盟 なぜトルコは反対する? トルコの独自外交にみる 「したたかさ」(2/26)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年2月25日(土)号 ロシアのウクライナ侵攻から1年 一方、ロシアを支持するグローバルサウス ロシア、核を使うか(2/25)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年2月19日(日)号 相次ぐ凶悪犯罪 しかし日本の治安は本当に悪化しているか? 世界と比べて少ない日本の警察官の人数 結局は警察機構の「やるやる」詐欺か?(2/19)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年2月18日(土)号 再び起こる「飯テロ」の背景 問題の本質は何か? ”トイレ”と化すワイドショー報道 マスコミの報道が模倣犯を生む(2/18)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年2月12日(日)号 荒井秘書官 同性婚めぐり差別発言 更迭 ~2~ 人権後進国日本 統一教会”同性婚ヘイト”受け継ぐ岸田政権 すでに日本人は国を「捨てて」いる 増える海外移住者 (2/12)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年2月11日(土)号 荒井秘書官 同性婚めぐり差別発言 更迭 ~1~ 問題の経緯 オフレコとオンレコ 荒井秘書官とは(2/11)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年2月5日(日)号 映画版「鬼滅の刃」歴代興行収入1位の影で危惧される日本映画界の未来 ~3~ 映画の“多様性は”どこまで守られるのか 日本のミニシアター文化を維持していくために (2/5)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年2月4日(土)号 岸田首相「異次元の少子化対策」の行く末 「晩婚化」というウソ 奨学金問題 福祉国家でも少子化が進んでいるのというのに (2/4)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年1月29日(日)号 ゴッホ「ひまわり」トマトスープ事件と地球温暖化懐疑論者 どちらがより暴力的か、冷静に考えよう(1/29)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年1月28日(土)号 福岡・博多ストーカー事件の背景 求められる性教育のアップデート 平等教育の徹底を(1/28)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年1月22日(日)号 アフガニスタンは今どうなっている? アフガニスタンの歴史 タリバンとは? 飢餓 女性差別 臓器売買(1/22)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年1月21日(土)号 “ガラパゴス”国家の象徴 「駅伝」 その弊害 主催がマスゴミなので報道せず 代わりに教えよう(1/21)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年1月15日(日)号 岸田首相“唯一の”レガシー 原発再活用の虚構 「原発回帰は歴代政権が手が出せなかった」 原発燃料、結局はロシア頼み(1/15)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年1月14日(土)号 米国下院議長 投票15回目でようやく決まる マッカーシー議員とは? 下院議長とは? 「フリーダム・コーカス(自由議連)」が造反(1/14)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年1月8日(日)号 映画版「鬼滅の刃」歴代興行収入1位の影で危惧される日本映画界の未来 ~2~ 東宝一強体制の理由 しかし国際市場では通用せず(1/8)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年1月7日(土)号 岸田首相、防衛増税前の「解散」発言が波紋 萩生田氏の口車に乗せられて? 自らの首を絞めるのか(1/7)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年1月1日(日)号 中国、「ゼロコロナ」対策転換で感染爆発 若者の反発恐れ、方針転換 今後、死者149万人との予測も(1/1)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月31日(土)号 映画「すずめの戸締り」にみる日本社会の戸締り ”誰が開きっぱなし”の扉を閉めるのか?(12/31)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月25日(日)号 国民民主党、連立入り? 自民と国民、共鳴する”民社党”の遺伝子 統一教会との関係も 公明党はどうなる? 創価学会の集票力懸念(12/25)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月24日(土)号ディズニー&ジェームズ・キャメロンVS和歌山・太地町&二階俊博 映画「アバター」続編で対立の火ぶたが切って落とされる なぜ日本はイルカ漁に固執するのか? 結局は”利権”目当てか?(12/24)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月18日(日)号 防衛省が”ステマ”工作研究? 自称インフルエンサー、所詮は利用される運命(12/18)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月17日(土)号 どうなる? サッカーW杯2026年大会 48カ国が参加 グループステージは3試合から2試合へ 高騰する放映権料 もはや“有料”放送が当たり前?(12/17)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月11日(日)号 旧統一教会と地方議員の”接点”明らかに 一方、障害者支援施設SANCYO/TANOSHIKAの嘉村裕太は、精神障害者に対し、「政治に文句をいうなら統一教会の支援を受けて政治家に立候補せよ」と圧力 福岡県大川市長倉重良一・久留米市長原口新五も同調(12/11)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月10日(土)号 どうなる、岸田首相の行く末は? 退陣? 早くても年内まで? 「検討使」の裏で着々と右翼政策は実行 自民、国民民主と連立?(12/10)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月4日(日)号 防衛費増額 有識者会議にメディア関係者 法人税増税盛り込まず 自民党とマスコミ(12/4)
- モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月3日(土)号 政治問題化するサッカーW杯 なぜカタールへの招致が決まったのか? カタールと日本 カタールで起きていることは、未来の私たち 地球温暖化とスポーツ(12/3)
image by: Felix Mizioznikov / Shutterstock.com