放送法の解釈変更を巡り、高市早苗経済安保大臣が「捏造」と主張した文書について、調査の結果「捏造はなかった」と国会に報告したとされる総務省。しかし当問題については、文書の正確性ばかりに注目していてはその本質が見えなくなってしまう危険性があるようです。今回のメルマガ『uttiiジャーナル』ではジャーナリストの内田誠さんが、そもそも当時の官邸はなぜ放送法の解釈変更を企てたのかについて考察。さらに高市氏が発生させた、責められて然るべき「新たな問題」を指摘しています。
やはりキーマンは安倍晋三。高市早苗が「捏造」を強弁する行政文書が問題視された背景
国会の会期が6月末ですか、そのくらいまであるので、はたしてそれまでにどんなことが起こるのか、先週そんなことをちらっと申し上げたかと思いますけれど、ちょっと大きな問題が起きていますね。
岸田内閣は相変わらず外交というところでは点を稼ぐのが大変上手で、今度は12年ぶりでしたかね、韓国との首脳会談ということで、の大向こうの大統領、大統領なりたての方ですが、その方の訪日を得て、その大統領と岸田さんとで何と食事をはしごしたということがニュースになるという、どうかしていると思うのですが、それはそんなにニュース価値ないと思うのですが、そんなことが報じられたりしています。
ところが内政に関しては様々問題を抱えていて、それがどうでしょう、宏池会流のやり方で行くならば、すぐに何か結論を出してしまうという強引なやり方ではなくて、色んな人の意見を聞いて八方がうまく収まるように、これは良くも悪くもですが…やれたと思うのですが。
これ、先日、東京新聞の書評欄に『西山太吉 最後の告白』という本についての書評を書かせていただきましたが、西山太吉さんがずっと取材をしていた場所というか、宏池会の政治家の番記者といった感じでフォローされていた方なので、端的に言えば、大平正芳さんですけれど。そういうお仕事上の経験から、宏池会というのは、その本でもそうですが、一つの派閥の名前ではなくて、政治的な手法についてのことだと言っておられましたので、それはその通りだと思います。
もし、それを現在の宏池会の会長であり、そこから出ている総理大臣である岸田さんがそうしたかつての宏池会の方針を担って実行していれば、こんなことにはなっていないだろうという問題がたくさんありそうですね。本当にこの人、宏池会かという疑問を投げかけたくなるような。とはいいつつ、宏池会の内実も、本当はどうだったのかということも、新しい目で見て、政治学者や政治史学者の方には是非検討していただきたいと思います。
で、今起きている大きな問題は、みなさんご承知だと思いますけれども、総務省の行政文書であることが後に総務省自身によって確認された、放送法の解釈変更の試みといいますか、企てといいますか、その過程を記した78枚の文章に書かれていることについて、当時総務大臣でその文書の中にも重要な役回りで登場する高市早苗さん。
現在は経済安保担当の内閣府特命大臣の一人ですが、その高市さんが自分について書かれていることは捏造であると言い切った。最近、少し言い方を変えて、捏造というのはきつい言い方だったかもしれないというようにちょっと修正されているようですが、つまりはそこに書かれていることは事実ではないと。事実ではない文書を放置したことに責任を感じるという、うまい言い逃れの言い方ですが、そんなことになっていますね。
これ、注意していないと、何が問題なのか分からなくなってしまう可能性があるんですよ、この話。
この記事の著者・内田誠さんのメルマガ
総務省の行政文書が「捏造」であるはずのない理由
そこに書かれていることは、私も全部目を通しましたけれど、最初は2015年からですかね。放送法4条1項2号は、放送事業者に「政治的公平」を求めているのですが、そこでいう政治的公平はなんなのかについて、現在は議員ではない礒崎陽輔さんという、当時首相補佐官の一人だった方がテレビ局の政治的公平を図る基準として番組全体、色んな番組全体を見て判断すると書かれているのを、いや、個々の番組を判断する方向にねじ曲げる、解釈を変えていこうという試み。
で、そのために放送法4条1項2号に関する有権解釈、総務省が解釈を記した文書があるのですが、不十分なのでそこに「補充的説明」を加えるという言い方で、実は個々の番組にも介入と言いますか、個々の番組に関して政治的に不公平である場合に、これは有名になりましたが、高市大臣の時に停波、つまり波を止める、テレビ局を潰すという意味のこと、その可能性がないわけではないということになりました。
あまりにも晦渋な言い方、ややこしい言い方だったと思いますが、で、そのような経緯について書かれている。何が書かれているかというと、礒崎さんが総務省の官僚に対して、これこれのことを検討せよと命じて、検討しました、いやいやそんな案ではダメだ、いやこれにはしかし色々とありまして…というようなやりとりがなされる。その中で礒崎さんは、自分の思うとおりになかなか「補充的説明」の内容が煮詰まっていかないことに腹を立て、「激高」するということまで書いてある。
記録をとっている人がその会談の場には必ずいて、その人が書いた文章。これ、とても変な話で、礒崎さんは当時首相の補佐官ですが担当が安全保障と選挙制度。で、放送法は担当外でした。その担当外の補佐官が総務省の局長以下、この問題に関係がある人たちを呼びつけて、こうせよというふうにして、最終的にはそれを…これは大変面白い、政治分野の勉強をしている方はこの文書、3回くらい読んだ方がいいと思いますが…。
まあ、高市さんにはね、捏造と言われましたが、捏造なものですか!ここまで詳細に手順を踏んで官僚と補佐官のやりとりが成されていることについて、大変納得の行く文章なんですよ。その中に高市さんも重要な登場人物としてでてくる。どういうことかというと。補佐官と総務官僚が決めたことについて、これを公的な文書として確立するためには国会の答弁が必要になると。国会で答弁するのは、安倍さんでも良かったわけでしょうが、とりあえず大臣の了解が必要。大臣が了解していないものを、これこれの解釈に変えますと決めてしまうわけには行かないじゃないですか。あまりにも失礼ですよね、それでは。
で、ちゃんと了解を取っている。大臣レクというのはそのこと。で、その後、国会で質疑に乗せるためにどのような質問を誰にさせたら良いか、そんなことまで相談している。こんな質問をするとこういう答えが返ってきて、補充的説明の内容、つまり番組全体ではなく個々の番組を問題にしうるのだという方向の補充なのですが。補充と言いながらエッと驚く内容。
これは礒崎さんと総務官僚で作った、官僚はイヤイヤだし、もうこれはギリギリですよという言い方ながら、礒崎さんが時に怒ったり叱りつけたりしながらやっている様子が浮かんできます。そうやって大臣の答弁が実際に行われるわけですよ。それは事実としてハッキリしている。ハッキリしていますが、なぜか全く関知しないというようなことを高市さんが仰っている。
この記事の著者・内田誠さんのメルマガ
どう見ても安倍氏が考え出した「テレビ局取締法」
で、どうもね、読んでいると、高市さん、この問題にそれほど熱心じゃなかったようなところもある。むしろ懸念していて、そんなことをしたら民放と大戦争になりますよ、というようなことも言われたりしている。官邸の中でも礒崎さんは他に官房長官とか補佐官、秘書官などには情報を知らせていない。で、山田真喜子さんという、そのあとちょっと有名になった方で、内閣広報官になったり、今退職されていますが、菅義偉さんの息子さんが関わる東北新社の接待問題で辞任しましたが、その山田さんが秘書官だったときに報告を受けて、総務官僚と話をしている場面があるのですが、山田さん、こんなものは法改正にあたるのだから、審議会を通さなければダメだと言っている。まっとうな話だと思うのですが。しかし、それにかまわず進めていく。
そして最後に総理大臣レクをしなければならないのですね。で、山田さんや今井秘書官もそうだと思いますが、これ、多分、安倍総理は乗らないだろうというふうにみていた節がある。ところが、乗るのですよ。あらあらあらと、ガラガラと崩れ落ちる感じですが。そりゃそうですよ。
普通に考えれば、安倍さんが考え出したことでしょう、もともと。
安倍さんと礒崎さんで始めたことだろうと思います。というのは、この問題が起きたのは2015年から先になりますが、2014年の確か11月でしたか、TBSの「ニュース23」。司会は筑紫哲也さんだった(岸井成格さんの間違い)かと思いますが、番組の中で安倍さんが生出演していたことがありました。選挙を前にして争点の話などをしているわけですが、街頭のインタビューが全部政府を批判した話で、安倍氏はそれに怒った。これは不公平だと。批判的意見ばかり載せるのは意図的で、そんなことはあり得ないのだから、おかしいではないかと言った。
それから関口宏さん司会の「サンデーモーニング」。やっぱり選挙の話だったか、アベノミクスだったか、出演していたコメンテーターがみな批判していると。酷い番組だということで、その番組の最中に礒崎さんがツイートをしているんです。ツイッターで言っていて、礒崎さんは、法律の問題だと言っている。道徳的な問題だとか慣習上の問題だと言っているのではなく、法律の問題だと言っている。「仲間内だけで勝手なことを言い、反論を許さない報道番組は法律上も問題がある」と礒崎さんが言っている。だから法律を変えようとこのときから考えていたのでしょう。
今の法律でうまく取り締まれないのであれば、解釈を変えるなり、法律を変えるなりして取り締まれるようにしよう、と動くのはよく分かりますよね。最初の時に動機を作り上げたのが安倍さんと礒崎さんだった訳ですよ。で、礒崎さんは自分に権限がないのに総務官僚を呼びつけて補充的説明として放送法を実質、変えてしまう。解釈を変えることで…というのは改憲問題と似ているけれど。これ、官邸と総務官僚との間で違法な解釈法改正みたいなものをやったという話ですよ。法改正のシステムには乗っていないから、今も岸田さんもなんと言っているかというと、解釈は変わっていないと言っている。変わっているでしょ。解釈は。
個々の番組を問題にしうるという言い方になると、番組の方で尻込みするようになりますよね。狙いはそこだと思います。テレビ局を脅かし付けて、政府に反対するようなことはなるべく言いにくいようにしておこうという。
この記事の著者・内田誠さんのメルマガ
安倍官邸が放送法「改悪」の先に見据えていたもの
で、中身の議論はややこしいのでしませんが、端的にその狙いの行き着く先がどこにかるあというと、やっぱり憲法改正だろうと思いますね。この状況での改憲を有利に進めるというか、改憲を狙った方向に進めるために安倍さんが考え出した色々な方策のなかの一つとして、マスコミ、メディアをコントロールしよう、一番影響力のあるテレビ局が、特にTBSやテレビ朝日がケシカラン放送をやっているとして、こういうところを縮み上がらせて押さえてしまおうという企て。
自民党からは各局に対して、「番組は全部チェックしていますよ。収録していますよ。中身は全部把握していますよ」という脅しとともに…まあ、別にそんなことで脅される必要もないんだけどね、不公平なことをしないようにと言う要請書を、統一協会問題で有名になった萩生田さん、萩生田さんの名前で出しています。もう一人福田さんという方の名前でも出していますね。こういう自民党あるいは政府から見れば、放送法の規定がどうも憲法改正に向けて世論をコントロールしていこうという安倍さんの意図にうまくフィットしないと。だから変えたい。しかし、法改正となるとこれは大変。では解釈を変えよう。
しかし、放送法の担当はいなかったのでしょう、礒崎さんがそこで出てくる…礒崎さんは安倍さんにとってはとっても便利な人で、安倍さんがやりたいことをいっぱいやってくれる人だったらしいので、礒崎さんが総務官僚をどやしつけながら案を作り、大臣に答弁させで認めさせる。こういう大きな世論操作の企みが見えてくる。
この文章を公開した小西洋之さんという立憲民主党の参議院議員、とっても元気な人で、元総務官僚なんですよね。その方に官僚から託された78枚の一件文書。これ、小西さんのツイッターからダウンロードできますので、是非是非お読みになってください。こんな面白いものはそうそうないよ。特に後半は傑作。前半少し我慢する必要がありますが。
山田真紀子さんは、「これってヤクザに絡まれたって話じゃないの」なんてことも言っている。記録をとっていた官僚はちゃんとヤ、ク、ザと一文字一文字書き留めたんでしょうね。当然礒崎さんのことだと思いますが、そんなことも含めて結構凄い会話が行われています。
ずっと安倍さんは登場しないのですが、最後の総理レクのところだけ登場し、そして山田、今井両秘書官や官房長官の思惑、こういうところの考えとは違う結論を、安倍さんはポンと出す。まるで初めて聞いたかのように言った…かどうかは分からないけれども、そのような企みが背景にある。そこに高市さんは積極的に関わっていって、答弁、礒崎さんが要求した内容に合致した答弁もするし、その直前に安倍さんと話をしていると書かれている。こういう事実を否定したいわけですね。でもね、大臣の役割がなかったら成立しないこと、で、実際に成立しているわけ。
これって憲法改正の大きな企みの中、世論誘導の一つとしてテレビ局を手懐けておこうと。で、テレビ局には放送法に政治的公平姓を守れと書いてあり、でもこれは使えないことになっている。なぜなら全体を見てやらなければならず、個々の番組でどうのこうのではないと昭和39以来ずっと解釈してきた以上、少なくとも解釈を変えなければならない。つまり国会という最高権力機関で納得の得られる様なものを作るのではなくて、解釈でやってしまうということ。
この記事の著者・内田誠さんのメルマガ
「官僚は捏造をする」ということを公式に認めた高市発言
で、この問題と一応別個に、高市さんはなぜ「捏造」と言ったのか、これが分からないんだ。私の頭では理解できない。教えて欲しいのですが、分かる方がおられたら。つまり高市さんの答弁の過程というのは、答弁したところから先の過程は動かぬ事実としてあるわけですよ。その内容は礒崎さんらの企みとピッタリ合っている。仮に書かれていることを高市さんが事実だと言っても大差はない。それは、高市さんの責任も違法という点ではあるけれど、それは背負ってしかるべきものでしょ。大臣として安倍さんや礒崎さんが言うような、テレビ番組を政権から見た場合の「偏向」ですね。
あの、因みに、「23」にせよ「報道ステーション」にせよ、あるいは「サンデーモーニング」にせよ、それを作っている人たちやゲストのリクルートをしている人たちの意識の中には、これこそが公平、政治的公平を図る道だという確信を持っている人たちだと思います。それに対して答弁してしまっている。逃げられない。なのに、安倍さんと電話で話していません、礒崎さんが放送法に関心をお持ちだということはこの3月まで知りませんでしたと言い張ることに、どんな意味があるのでしょう。分からないのですよ。
高市発言の二つ目の問題性はハッキリしていて、大臣が官僚は捏造をするということを公式に認めてしまっていることになるわけですね。公文書の改ざんとか捏造とかに値する事柄は、それを担わされた官僚が死を選ぶ類いの問題でしょ。これはもう滅茶苦茶ですよ。
総務官僚が捏造をしたということになるとね。国会の審議を聞いていると、ある時期までは文書の内容がチェックされていない不正確な時代と、不正確ではいけませんとなった時代があると。捏造と言っていたのが、不正確とか正確といった、とても穏やかな概念に今変えられようとしている。現に松本大臣はそういう答弁をしている。だからこの書類は不正確なのだと。
それもどうかしているよね。どこがどう不正確なのか。捏造に関して、関わっている官僚がどう言っているか、今、総務省が調査に入っているそうですが、本当に調査しているのか、いや、していると言っているのですが、しかし誰がなんと言ったかについてはご本人の了解がなければ公開できないので、答弁できないと答弁を拒否している。で、小西議員は怒っている。だけど、いずれ何らかの格好で捏造問題の決着を付けなければならないですよね。
その問題まで新たに発生させてしまった高市さんは、この放送法の実質的改悪に加担した罪とともに、この二つ目の問題もある。みんなに怪しからんと言われても仕方がないのではないでしょうか。
仮にこれが捏造ではなく、本当のことだったら議員も辞める大臣も辞めると、どこかで聞いたような言い方ですが、あれ、うつっちゃっているよね。そういうことになっているので、官僚が書かれている範囲で不正確なことはないと言ってしまえば、高市さん、辞めざるを得ないよね。そのような厳しい局面がやってくるのか、こないのか、ちょっと降って湧いた感があるのですが、大変なことになりそうな今日この頃です。
(『uttiiジャーナル』2023年3月19日号より一部抜粋。全てお読みになりたい方はご登録ください)
この記事の著者・内田誠さんのメルマガ
image by: Instagram(takaichi_sanae)