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大企業を儲けさせただけ。黒田日銀総裁“アベコベ”ノミクスを総括する

4月8日に任期満了を迎える日銀の黒田東彦総裁は、10年にわたる総裁としての仕事を「正しかった」「成功だった」と強弁しました。しかし、実態は「安定的な物価上昇率2%」の目標を達成できず、世に出回る「お金」もあまり増えず、ほとんど失敗だったと厳しく総括するのは、投資コンサルタントでマネーアナリストの神樹兵輔さんです。今回のメルマガ『神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図──政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』では、思惑通りにいかない黒田総裁が打つ手は逆方向で、安倍・黒田体制の「アベノミクス」は大失敗の「“アベコベ”ノミクス」だったと断罪し、新総裁体制の行末を案じています。

後任が見つからない中、名誉欲に駆られて就任した植田・日銀新総裁に待ち受けるハイパーインフレという地獄の洗礼

当たり前でしょうが、政府・自民党は、アベノミクスが大失敗だった──などとは絶対に認めません。そして、今年4月8日に任期満了を迎える日銀の黒田東彦総裁の発言も同様でした。

黒田総裁は、3月10日に行われた最後の日銀金融政策決定会合で引き続きの「大規模緩和策」の維持を決めた後、記者会見で、「アベノミクスを進めたこと自体は正しかった」「金融緩和は成功だった」と強弁しました。

10年前に掲げた「安定的な物価上昇率2%」という目標を、2年程度で達成できる──とした当初目標が、なんと10年経っても達成できなかった──にも関わらずです。達成時期を6回も先送りした挙句、2018年4月には時期すらも示すことが出来なくなり、迷走を続けて今日の「出口の見えない事態」を招いているのですから、無責任の極みでしょう。

ドツボにはまっても、それでも異次元緩和をやめることなく続け、今や出口すら見えなくなった今日の状況を招いた責任──を最後の最後まで認めたくなかったのが、黒田・日銀総裁だったのです。

アベノミクスという壮大な金融実験は「大失敗」に終わった!

アベノミクスは、第2次安倍内閣(2012年12月~2020年9月)が掲げた経済政策です。日本は90年代以降バブル崩壊後の金融危機(97年)を経て「失われた30年」というほどの長期の経済停滞に見舞われています。とりわけ97年以降、日本は恒常的なデフレに陥り、ここから脱却しない限り、景気回復もままならない状態になっていました。

第2次安倍政権は、長期のデフレからの脱却と名目経済成長率3%を目標とし、その実現のために「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」という3本の矢を主軸とするアベノミクスを推進しました。

しかし、効果を印象付けたのは、「大胆な金融政策(日銀の異次元緩和)」によって、一時1ドル70円台まですすんだ円高をその間で120円~130円台水準にまで円安に誘導し、輸出大企業の円換算での売上に貢献したぐらいです。いくら円安にしても、日本企業の海外進出がすすみ、数量ベースでの売上は期待できませんでした。

日銀が目標とした安定的なインフレ率2%は、10年経った今でも到達できていないのです。達成できなかったのですから、これはもはや「大失敗」だったといわざるをえません。

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それどころか、日銀は異次元緩和を軌道修正することなく、長期金利(10年物国債金利)においても、0%に抑え込む「イールドカーブコントロール(YCC)にまで乗り出してしまいました。そのため、短期のマイナス金利の副作用はすべての金融機関に及び、金融機関の収益圧迫が日本では深刻化しています。

また、物価急騰の欧米では利上げが続けられる中、2022年10月21日の外国為替市場では、ドル円相場で151円90銭台の円安を招くなどで、2022年度は20兆4000億円もの貿易赤字になっています。そのせいで、経常収支の黒字幅も大きく縮小しているのです。経常赤字に突入したら、超円安が常態化します。

ドル円相場が、151円台の安値を付けるのは、1990年7月以来32年ぶりのことで、一時は今後どうなるのか──とまで懸念が広がりました。円安による物価高騰に、食糧価格やエネルギー価格の高騰といったコストプッシュインフレに見舞われる中、日銀は欧米のような金融引き締めによる対応も一切出来ない状況──といった有様なのです。

世の中に出回る「お金」は低金利でも大して増えなかった!

結局、日銀は金融市場から国債を買い入れ、マネタリーベース(日銀の当座預金中心の通貨供給量)は増やしてもマネーストック(経済全体の通貨供給量)は増やせませんでした。ゆえに日銀は90年代から陥った「流動性の罠」から逃れられなかったのです。

「流動性の罠」とは、金利が異常な低水準になると、中央銀行がいくら資金を供給しても、景気刺激効果がなくなることを意味します。かつて、ケインズはこの状態では金融政策で貨幣供給量(マネーストック)を増やしても無駄で、大規模な財政政策で需要を喚起するしかない──と説いていました。

これは減税や社会保険料の軽減、財政出動による大胆な失業対策などを意味するのです。しかし、安倍政権は二度に渡る消費税増税で、景気失速に導いて、これに応えたのでした。やってることはアベコベです。

実際、日銀のマネタリーベース(日銀券発行高+貨幣流通高+日銀当座預金残高の通貨供給量)はどんどん増やしても、マネーストック(経済全体の通貨供給量)は、ほとんど増えなかったのが実情でした。世の中に需要がないのですから当然です。低金利政策で金融機関の収益だけを圧迫してきただけなのです。

以下をご覧ください。マネタリーベースは4・78倍に膨らんでも、マネーストックは1・35倍にだけ増えたにすぎなかったのです。

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アベノミクスはトリクルダウンも起こせなかった!

安倍政権は、日銀によるETF(上場投資信託)買い入れや、公的資金投入(年金財源)で株価を押し上げ、法人税減税で大企業中心に支援を続けました。ただし、株価を押し上げたといっても、所詮は、政府による「官製相場」にすぎませんでした。

大企業は史上空前の利益を上げ、その内部留保額は、2021年度末で484・3兆円まで膨らみます(資本金10億円以上)。人件費を削りに削った結果がこれでした。結局アベノミクスは大企業優先の経済政策で、国民の所得を増やすまでには到っていなかったのです。

トリクルダウン(富める者を富ませれば貧しい者にも、富が滴り落ちる)を狙ったのでしょうが、消費税率を2回もアップさせて不況に輪をかけ、格差を広げるばかりで、アベノミクスというよりも、アベコベノミクスだったのです。

安倍首相のいう「経済の好循環」には程遠く、むしろその後遺症が目下の最大懸念となっているのです。

日銀の債務超過危機が迫る! ハイパーインフレの危険!

米国では、シリコンバレー銀行やシグネチャー銀行の破綻に続き、ファースト・リパブリック銀行の経営不安など、中堅銀行への危機の連鎖が噂されています。また欧州スイスの金融大手クレディ・スイスの経営不安までもが表面化しています。

インフレ抑制に伴う中央銀行の利上げによって、借り入れが難しくなった企業に預金が流失し、また保有する債券価格の下落(金利は上昇)によって巨額の含み損を膨らませたことが主な要因となっているのです。インフレが長引くほどに、中堅銀行の経営危機が連鎖しかねない状況なのです──
(メルマガ『神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図──政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』2023年3月20日号より一部抜粋)

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image by: slyellow/Shutterstock.com

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投資コンサルタント&マネーアナリスト。富裕層向けに「海外投資懇話会」を主宰し、金融・為替・不動産投資情報を提供。著書に『眠れなくなるほど面白い 図解 経済の話』 『面白いほどよくわかる最新経済のしくみ』(日本文芸社)、『経済のカラクリ』 (祥伝社)、『見るだけでわかるピケティ超図解――21世紀の資本完全マスター』 (フォレスト出版)、『知らないとソンする! 価格と儲けのカラクリ』(高橋書店)など著書多数。

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【著者】 神樹兵輔 【月額】 ¥660/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週月曜日

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