国土の狭い日本では、北海道などの一部を除けば大規模農業で効率よく生産して大きく利益を上げるのは困難で、農業に“ウマミ”を感じる企業経営者は多くないのが実態です。さらに、足かせとなっている原因として相続税の問題があるとの指摘があり、見解を求められたのは、人気コンサルの永江一石さん。今回のメルマガ『永江一石の「何でも質問&何でも回答」メルマガ』では、相続税に関しては農業特有の問題とは言えないことから、日本の農業の構造的な問題に注目し、農家や農地を保護している規制を緩和すべきと提言しています。
オーストラリアには相続税がない?!日本の相続税制度について
Question
【オーストラリアと日本の違い】
オーストラリアには相続税がありません。なので、豊かさが継承され、地域の農業法人が育ち高い賃金を払うことができています。特に会社の株の相続です。日本は他国と比べて、頑張って高い所得税を払いながら会社を大きくしてたくさんの雇用を生んで、社会にも貢献したら相続の時に海外よりも高い金額を取られます。
中小企業や特にこれから再編が進む農業法人はこのことに悩まされ、企業を大きくすること自体がリスクとなり、高い付加価値を生むことができなくなります。例えば、私がバタッと倒れたら私の子供はいきなり数億円の相続税を払うことになります。
株の評価は高くても換金化されませんので支払いは借金して払うようになり、さらに言えば1億円は税引後ですのでその借金を払うため1億5000万円稼がなければなりません。払うことが出来ず株を売ってしまったら会社は安定せず、働く人は不安定になるでしょう。
極端な話、それを避けるために経営者は積極的な投資をせず、近視眼的な経営をすることがベストとなり企業の成長意欲はなくなります。会社を守り雇用を守り賃金をあげられるような投資をするために、中小企業の経営者が相続税貧困に置かれている実情を変えない限り、地域に根ざした企業なんて育つわけありません。
相続税を無くし、経営者がその心配無く経営に専念できる環境づくりこそ、今、日本が取り組むことだと思います。相続税が無いオーストラリアに来てその事がよくわかりました。
私は経営者ではありませんが、農業などの世襲割合が大きい業界では、このように制度上の問題で会社が発展しない問題はあると思いますか。永江さん視点の問題点とこうすればええやんをご教示いただきたく。
永江さんからの回答
相続税をなくすとなるとお金持ちの家はずっと働かなくてもお金持ちのままとなって良し悪しがあるので、今回のご質問は、日本の農業の構造問題として解くのが良いと思います。
農業の効率化には広大な土地と技術導入が必要ですが、日本の農家・農地への保護規制がそれを妨げているんです。
オーストラリアは現地民を排除して開拓された広大な土地で農業を行ってきましたが、日本の農業は戦前まで大地主の土地を多くの小作人が借りて耕作していたところに戦後の農地改革で土地が分割されたため、農地が非常に細分化されています。
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さらに日本は農家を保護するため、農家以外は農地を所有できないなど強い規制と参入障壁を設けているので、例えば大企業が新規参入して農地を買い集めて大規模農場を運営するのが難しい。また、米作にジャブジャブと補助金を出してきたため、農家は補助金依存して全く効率化が進んできませんでした。
これから人口減少で国内の米や野菜の消費量は減っていくのに、海外の大規模農家の収穫効率には遠く及ばず(農地も狭く、効率で劣るので)輸出もできず、日本の農業はどん詰まりです。農家も子供に農業を継がせないので、もう10年もしたら今70代の農家が働けなくなりもっと深刻になるでしょう。
なので、むしろ農業に必要なのは農家や農地を保護している規制や制度の大幅な改革だと思います。農地売買の規制を撤廃すれば大きな会社が参入できるようになって、農家が相続する際にも簡単に売却できますし、事業者が広い農地を持てれば投資効率も上がって技術導入も進めやすくなり、産業の競争力が高まって海外にも輸出できるようにもなっていきます。
農地っていつの時代の誰かもわからないような共同所有者が登記されていたりするので(~~左衛門とか)、マイナンバーと紐づかない所有者はどんどん登記から消して国有化するなどの制度対応も必要でしょう。
相続税ではなく、農業規制の問題として捉えるべきだと考えますね。つまり規制緩和です。
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