MAG2 NEWS MENU

キャンプ地なのにWBCが観れない宮崎県。日本の知られざる“テレビ格差”

侍ジャパンが世界一に輝いたWBC。報道で「全国の人が熱狂しました」の言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。しかし、試合によってはテレビ放送のなかった地域も存在します。今回のメルマガ『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』の著者でジャーナリストの伊東森さんは、日本の知られざる“テレビ格差”と、民放ローカルの経営統合の可能性について語っています。

野球WBC中継の試合は宮崎県では放送されない? 日本の知られざる“テレビ格差” かつて「民放テレビ全国四波化」構想も 今後民放ローカルの経営統合の可能性も

侍ジャパン優勝で幕を閉じた野球WBCの熱狂とともに、改めて注目を集めたのが、民放のローカル局における地域格差だ。

たとえば、3月16日午後7時より行われた日本―イタリア戦では、侍ジャパンが宮崎県で事前キャンプを行なっていたのにも関わらず、宮崎県内の地上波で、試合を見ることはできなかった。

宮崎県内にテレビ朝日系列の系列局がないためだ。

同様に、高知、島根、鳥取などテレビ朝日系列局がない地域は、日本戦を全試合中継するAmazonプライムなどで視聴しないとリアルタイムで観戦することはできなかった(*1)。

宮崎には、NHKを除く民放は、MRT宮崎放送とUMKテレビ宮崎の2局しかない。全国で民放が2局しか存在しないのは、全国で宮崎県と山梨県、そして福井県だけだ。

ちなみに徳島県と佐賀県には民放が1局しか存在しないものの、例えば佐賀県はお隣の福岡県の民放各局のテレビ放送を受信できるエリアに位置する。

しかし宮崎県の場合、ほかの主要エリアと離れおり、そのようなことができない。

日本の民間放送は世界と比べても独自の発展を遂げた。それは基本的に都道府県単位でのローカル局を基本とするもの。そのため、“テレビ格差”が生じるようになった。

目次
・日本の放送制度は世界と比べてもユニーク 
・「民放テレビ全国四波化」構想
・今後、地方ローカル局の経営統合の可能性も

日本の放送制度は世界と比べてもユニーク

日本の民放制度は、アメリカを参考につくられた(*2)。

アメリカの地上波の放送対象エリアも、商業放送、あるいはPBS(Public Broadcasting Service)と呼ばれる個人や団体からの助成金で運営されている非営利の放送局も、全て日本と同様、ローカルを単位とする。

日本の場合、NHKは全国放送であるが、アメリカには地上波の国内向け全国テレビ放送は存在しない(*3)。

それでは、「4大ネットワーク」であるとか、最近では「5大ネットワーク」と呼ばれるものがアメリカには存在するが、これは日本の民放の5系列(日本テレビ系列、テレビ朝日放送系列、TBS系列、テレビ東京系列、フジテレビ系列)と同様、番組供給のネットワークにすぎない。

これらがCBSやNBC、ABC、FOXである。

ほとんどの国では、地上波テレビは全国放送だけか、あるいは全国1社の場合もあれば、いくつかのテレビ局で構成されるとマイナーで小規模かつカバー範囲が狭いローカル放送局の組み合わせでテレビ放送が行われている

しかもローカル局も全てのエリアにあるわけではなく、主要都市だけの場合が多いようだ。アメリカや日本のように、放送事業の構造は、それだけで世界的にかなりユニークである。

この記事の著者・伊東森さんのメルマガ

初月無料で読む

「民放テレビ全国四波化」構想

昨年1月24日、総務省で開かれた「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」において、今後の放送業界の“大変革”を引き起こすかもしれない、注目すべき提案が、テレビ朝日ホールディングスにより出された。「県域制度の廃止」だ。

現状、日本では、関東や近畿、中京地域を除き、

「特定地域の情報などに各局の放送内容が偏り、地元の情報が得にくいという状況を防ぐこと」(*5)

などを理由に各テレビ局の放送免許は単一の県で制限される。これが「県域制度」だ。

テレビ朝日の提案は、その県域制度を廃止し、複数の地域で同一の放送を行なえるようにしようするもの。実現されれば、従来は県ごとにあった地方局が事実上合併し、特定の地域から別地域への放送が可能となる。

なぜ、このような提案がなされるのか。それは地方局の苦しい経営状態にある。

合計114局ある地方局の売上高は、2014年度に全社合わせて7055億円あった。しかし2020年度には5933億円と16%減少。さらに営業利益は1社あたり5億円程度あった計算だったが、2020年度には1億円にまで落ち込む。

2020年度は新型コロナの影響もあり、テレビを運営する放送局のうち20社が最終赤字になった模様だ。

ただ、県域制度を見直すうえでは、地域の情報をどのように視聴者に届けるかが問題となってくるのは間違いない。

■引用・参考文献

(*1「侍ジャパンのキャンプ地宮崎など悲鳴…テレ朝系の地上波中継対象外【WBC】」中日新聞WEB 2023年3月16日

(*2)木村幹夫「米国ローカルテレビ篇part1:放送エリアのはなし1~『データが語る放送のはなし』9 https://minpo.online/article/part1-2.html」民放online 2022年11月11日、

(*3)木村幹夫 2022年11月11日

(*4)郵政省放送行政局『放送政策の展望 ニューメディア時代における放送に関する懇談会(放送政策懇談会)報告書』(電気通信振興会,1987年)p.90

(*5)井上昌也「テレ朝『ローカル局再編』の規制緩和を求めた真意 https://toyokeizai.net/articles/-/508055」東洋経済ONLINE 2022年2月5日

(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2023年4月8日号より一部抜粋・文中一部敬称略)

この記事の著者・伊東森さんのメルマガ

初月無料で読む

初月無料購読ですぐ読める! 4月配信済みバックナンバー

※2023年4月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、4月分のメルマガがすべてすぐに届きます。

いますぐ初月無料購読!

<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>

2023年3月配信分
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年3月25日(土)号 イギリスBBCがジャニー喜多川氏のドキュメンタリーを放送 ジャニー喜多川氏とは何者なのか なぜジャニーズのスキャンダルは“タブー”なのか
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年3月19日(日)号 野球「WBC」で考える野球の国際化  MLBの国際化戦略 アジアから欧州へとシフト 一方、懸念される韓国と台湾における野球離れ(3/19)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年3月18日(土)号 放送法「政治的公平」めぐる総務省文書の本当の問題点 日本のマスゴミは、自ら「報道の自由」を放棄した 異常な放送行政(3/18)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年3月12日(日)号 「エホバの証人」問題、注目 「エホバの証人輸血拒否事件」 むち打ち 忌避(3/12)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年3月11日(土)号  成田悠輔氏の高齢者差別発言の本当の問題点 ~2~ 成田氏が”スルー”する、日本の高齢者支配の本当の問題点 政治・メディア・経営者 成田氏だけでなく、ひろゆきも海外から批判(3/11)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年3月5日(日)号 成田悠輔氏の高齢者差別発言の本当の問題点 ~1~ 天皇陛下に対しても「自決しろ!」というのか? 特殊詐欺犯と同じ思想 それを”エイジズム”という(3/5)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年3月4日(土)  ChatGPT の凄さと限界 ChatGPT を支えるマンパワーの闇 問われる人間側の学習号(3/4)

2023年3月のバックナンバーを購入する

[/touroku_block]

初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込880円)。

2023年2月配信分

2023年2月のバックナンバーを購入する

2023年1月配信分
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年1月29日(日)号 ゴッホ「ひまわり」トマトスープ事件と地球温暖化懐疑論者 どちらがより暴力的か、冷静に考えよう(1/29)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年1月28日(土)号 福岡・博多ストーカー事件の背景 求められる性教育のアップデート 平等教育の徹底を(1/28)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年1月22日(日)号 アフガニスタンは今どうなっている? アフガニスタンの歴史 タリバンとは? 飢餓 女性差別 臓器売買(1/22)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年1月21日(土)号 “ガラパゴス”国家の象徴 「駅伝」 その弊害 主催がマスゴミなので報道せず 代わりに教えよう(1/21)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年1月15日(日)号 岸田首相“唯一の”レガシー 原発再活用の虚構 「原発回帰は歴代政権が手が出せなかった」 原発燃料、結局はロシア頼み(1/15)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年1月14日(土)号 米国下院議長 投票15回目でようやく決まる マッカーシー議員とは? 下院議長とは? 「フリーダム・コーカス(自由議連)」が造反(1/14)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年1月8日(日)号 映画版「鬼滅の刃」歴代興行収入1位の影で危惧される日本映画界の未来 ~2~ 東宝一強体制の理由 しかし国際市場では通用せず(1/8)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年1月7日(土)号 岸田首相、防衛増税前の「解散」発言が波紋 萩生田氏の口車に乗せられて? 自らの首を絞めるのか(1/7)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2023年1月1日(日)号 中国、「ゼロコロナ」対策転換で感染爆発 若者の反発恐れ、方針転換 今後、死者149万人との予測も(1/1)

2023年1月のバックナンバーを購入する

2022年12月配信分
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月31日(土)号  映画「すずめの戸締り」にみる日本社会の戸締り ”誰が開きっぱなし”の扉を閉めるのか?(12/31)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月25日(日)号 国民民主党、連立入り? 自民と国民、共鳴する”民社党”の遺伝子 統一教会との関係も 公明党はどうなる? 創価学会の集票力懸念(12/25)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月24日(土)号ディズニー&ジェームズ・キャメロンVS和歌山・太地町&二階俊博 映画「アバター」続編で対立の火ぶたが切って落とされる なぜ日本はイルカ漁に固執するのか? 結局は”利権”目当てか?(12/24)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月18日(日)号 防衛省が”ステマ”工作研究? 自称インフルエンサー、所詮は利用される運命(12/18)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月17日(土)号 どうなる? サッカーW杯2026年大会 48カ国が参加 グループステージは3試合から2試合へ 高騰する放映権料 もはや“有料”放送が当たり前?(12/17)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月11日(日)号 旧統一教会と地方議員の”接点”明らかに 一方、障害者支援施設SANCYO/TANOSHIKAの嘉村裕太は、精神障害者に対し、「政治に文句をいうなら統一教会の支援を受けて政治家に立候補せよ」と圧力 福岡県大川市長倉重良一・久留米市長原口新五も同調(12/11)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月10日(土)号 どうなる、岸田首相の行く末は? 退陣? 早くても年内まで?  「検討使」の裏で着々と右翼政策は実行  自民、国民民主と連立?(12/10)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月4日(日)号 防衛費増額 有識者会議にメディア関係者  法人税増税盛り込まず 自民党とマスコミ(12/4)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月3日(土)号 政治問題化するサッカーW杯 なぜカタールへの招致が決まったのか? カタールと日本 カタールで起きていることは、未来の私たち 地球温暖化とスポーツ(12/3)

2022年12月のバックナンバーを購入する

 

image by:Shutterstock.com

伊東 森この著者の記事一覧

伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版) 』

【著者】 伊東 森 【月額】 ¥330/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け