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Tsunami : 04/30/2011 Fukushima japan

東日本大震災を題材にした『すずめの戸締り』が韓国で人気のワケ

新海誠監督が手掛けた映画『すずめの戸締り』が現在、韓国でも上映され人気となっています。なぜ、東日本大震災を題材にしたこの作品が韓国でウケるのか。今回の無料メルマガ『キムチパワー』で、韓国在住歴30年を超える日本人著者がその理由を語っています。

『すずめの戸締り』韓国でも大人気

映画『すずめの戸締り』が韓国でも人気になっていることについて、朝鮮日報のコラムに載っていた。日本の関西外国語大学国際関係学部のチャン・ブスン教授という人の文章である。ご紹介したい。

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日本のアニメ『すずめの戸締り』が韓国で3月に封切されてから400万観客を突破した。驚くべきことだ。実は『すずめ』を見て、うまくできてはいるが果たして韓国で成功できるのか半信半疑だった。『すずめ』は日本人の集団体験を日本的文化コードに盛り込んで日本的背景の中に描き出すからだ。これほど「日本的」な映画が韓国の観客にアピールするだろうか。容易ではないと見た。しかし私の予測は見事に外れた。

『すずめ』は2011年3月の東日本大震災を題材とする。不可抗力的自然災害の前で日本人が感じる恐怖、そして悲しみがテーマだ。大地震や津波は私たち韓国人にはなじみのない経験だ。そのため、韓国人が共感するのは難しいと考えた。

『すずめ』は自然災害というテーマを日本的嗜好の中に盛り込んでいる。この映画で地震を起こす怪物は「ミズ」、日本語で「ミミズ」だ。古代日本人は地底の巨大な虫が地震を起こすと信じていた。反面、主人公の名前は「すずめ」、日本語で小鳥の「すずめ」と発音が同じだ。「ミズ」を封印しようと奔走する主人公はまさに「ミズ」の天敵であるわけだ。

主人公のすずめの姓は岩戸で、現在九州東南部宮崎県に住んでいる。実際、宮崎県には天岩戸という神社がある。日本の先祖神である天照大神がこの洞窟に隠れると世の中が光を失い、洞窟から出てくると光が戻ってきたという伝説の背景になる場所だ。

すずめと共に全国を駆け回る「閉じ師」の名前は宗像。道の安全を担う宗像三女神の名前に由来するという。映画の中で災難はスズメが扉の横の石片を抜くところから始まる。この石片が要石である。古代日本人は地面の下に大きなナマズがあって地震が起き、大きな石でナマズを押し込めることで地震を制圧できると考えていた。このように「すずめ」の人物と所在は日本神話に根ざしている。

『すずめ』はまたロードムービーの形式をとる。猫に変わった要石を追ってすずめは九州から出発し四国の愛媛県、関西の神戸、関東の東京を経て、ついに東日本大震災が発生した東北地方、福島、宮城、岩手県に至る。行く先々ですずめは扉を閉めて地震を防ぐ。しかし、ここは全て日本人の脳裏に生々しい痛みとして残っている巨大自然災害が発生した場所だ。現実では災害を防げなかったのだ。

すずめの旅の絶頂、東北ですずめは過去の自分と向き合う。幼い時に津波で母親を失い、途方に暮れている幼い自分をすずめは慰め、そっと抱いてあげる。日本列島を横切るこの大長征の目的は、忘れていた自分自身に出会って自らをなだめ理解し、真の大人に成長するところにある。

多くの日本人がこの部分で泣き出す理由は、おそらくそこで自分自身を見ているからかもしれない。今成人の日本人は2011年3月11日、自分がどこで何をしていたかを覚えている。テレビで波に流されていく人々を見て、恐怖に震えていた自分を思い出すからだ。すずめを見て彼らもやはり過去に戻って自分を慰めているのではないか。

韓国で『すずめ』が成功したのは韓日間の異なる文化・歴史・地理的背景にもかかわらず、映画が描き出す日本人の体験、巨大な自然の力の前になすすべなく打ちひしがれていた日本人の無力感、恐怖、悲しみの普遍性に韓国人が共感したためだろう。

和解は共感から始まる。この点で『すずめ』の興行は励みになる。しかし依然として韓日間の和解と共感はまだまだ遠い。先週、韓国の国会議員数名がこれといった日程もなく福島に渡って日本農水産物の危険性を浮き彫りにしてやろうとパフォーマンスしている姿を見るとなおさらだ。世界最高の原発技術を保有している米国が当初から処理水放流に支持を示し、国際原子力機関(IAEA)が韓国専門家を含むタスクフォースを構成し、調査の末に日本が採択した放流方法が信頼できるという1次評価を下した。これだけの科学的根拠があるのだ。韓国も関連分野の世界最高専門家の判断に耳を傾けるべきではないのか。

東日本大震災から約10年。日本人たちはその日の悲しみと傷を撫でて新しい希望を叶えると誓っている。ところで、そこに(なんの関係もない外国人=韓国人が)行ってその町にまるで疫病が蔓延しているかのように追い詰めなければならないのだろうか。

たとえば逆に韓国の原発近くのある地域で大規模な洪水が発生し犠牲者が続出しているのに日本の国会議員が来て慰労の言葉もなく放射線数値だけを測っていたら、私たち(韓国人)はどんな心情だろうか。私たちの痛みに共感を得て和解の道を開いていこうという真正性があるなら今は私たちも彼らの痛みに共感を示す時になったのではないか。

数週間前、知人のオフィスに寄って旬のイチゴをプレゼントされた。蓋には大きく「福島産」と書かれていた。家に持って帰って家族と一緒にありがたく食べた。東日本大震災の痛みと悲しみにもかかわらず、希望の畑を耕していく福島農家たちの汗と夢がぎっしり詰まっているイチゴは甘かった。

(無料メルマガ『キムチパワー』2023年4月18日号)

image by: Shutterstock.com

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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