4月24日で開戦から14ヶ月となるも、未だ停戦の糸口すら見いだせないウクライナ戦争。春にもあり得るとされたウクライナ軍の大規模反転攻勢は現在のところ見られず、東部地域での激戦が続いているのが現状です。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、この戦争の最新の戦況を解説するとともに、各国の動きを思惑を分析。その上で、今後の国際社会の行く末を考察しています。
米英特殊部隊が徹底支援。ウクライナ軍、夏に本格的な大攻勢開始か?
ロ軍は、バフムトとアウディーイウカ、マリンカの3拠点の攻撃に絞り、ザポリージャ州は防御の方向になっている。
バフムト方面
ウ軍はバフムト市から撤退しながら、ワグナー軍とロ軍空挺部隊の損耗が多くすることに価値を見出している。ワグナー軍は攻撃を市内とクロモベに絞り、市内中心部を確保しバフムト駅を占領して、駅西側に前進している。
郊外ではワグナー軍とロ軍空挺部隊が、クロモベ方向だけに攻撃して、O0506地方道を遮断して、バフムト市内への補給ができなくなることを狙っている。しかし、ウ軍は、無数の広範な塹壕陣地により、ここを固く守っている。O0506地方道に近づいたロ軍を戦車と戦闘装甲車で撃破している。
郊外では、ウ軍がクリシウカの運河近くのロ軍陣地を攻撃して、奪還している。ウ軍はここを越えて、バフムト包囲作戦をしているロ軍背後に前進して、逆包囲する可能性もある。
しかし、ウ軍はバフムト市内を保持しているが、ロシアブロガーは、ワグナー軍がほとんどの市内を抑えたという。
しかし、ウクライナのマリャル国防次官は、バフムトについて「状況は緊迫しているが、制御下にある」とウ軍が保持して、ロ軍は「著しい損失に苦しんでいる」とした。事実、駅周辺でワグナー軍中隊が榴弾砲の砲撃で全滅している。市内ワグナー軍の戦闘力が、弱まっているようだ。このため、市内へのロ軍、ワグナー軍の前進がほとんどなくなってきている。
その他方面
リシチャンスク方面でロ軍はリマンペルシーを占領して、シンキフカを攻撃しているが、ここはウ軍が撃退したが、その後はロ軍の攻撃がなくなった。
クレミンナ方面では、クズミネとディプロバにロ軍は攻撃したが、撃退されている。
アウディーイウカ方面では、北ではステポボとベルチャにロ軍が攻撃したが、ウ軍が撃退している。要塞にも攻撃しているが、失敗している。セベルネ、プレヴォマイシケにもロ軍は攻撃しているが、ウ軍に撃退されている。ここのロ軍の攻勢も弱まっている。
マリンカにもロ軍が攻撃しているが、ウ軍は撃退している。この地点は、数か月攻撃をしているが、ロ軍は前進できないでいる。
ロ軍は、25日ぶりで4月19~21日夜間に、キーウ、オデーサ、ポルタヴァ、ヴィニツィア、ドニプロペトロウシク、ザポリージャ、ハルキウ、チェルニーヒウ各州をドローン47機で攻撃し、ウ軍はドローン29機撃墜と発表した。
逆に、ウ軍は、頻繁にロシア領ブリャンスク州やベルゴロド州などに無人機で攻撃してるが、ウクライナ国境からモスクワ寄りのクールスク州にも22日に無人機で攻撃して、変電所などが被災した。この攻撃では、20機以上の無人機を使用したようである。ロシア領内の防空能力は重要地点しかないことが分かる。
ロ軍が無人機で攻撃すると、ウ軍も攻撃する感じになってきたようだ。自爆無人機を大量に供給できるようになってきたことがわかる。
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最終的にはクリミアを孤立へ。ウクライナ反転攻勢の4段階
マリャル宇国防次官は、反転攻勢の開始を発表しないが、東部へのある種の反攻作戦は始まっているとした。司令部にはすでにいくつかの攻撃計画があり、そのうちの1つが短時間で、敵がそれに対しての準備する時間がないようなやり方で、選択されるだろうとした。
この反攻作戦と思えるのが、バフムト郊外のクリシウカの運河沿いの奪還であり、バフムト逆包囲作戦の可能性がある。
ドネツク州東部ボハレダラで、ウ軍はロ軍陣地を2ヶ所奪還し、ロ軍戦車を破壊している。ザポリージャ州には総延長800kmの塹壕があり、ドネツク州の方が少ないので、ボハレダラからアゾフ海に出る攻撃も考えられる。
それと、ザポリージャ方面での複数個所に威力偵察部隊を出して、ロ軍陣地を偵察しているし、防空部隊を強化していることや、メルトポリのロ軍補給センタや基地をHIMARSで攻撃しているなどであるが、ザポリージャ方面の行動は、ウ軍の報道管制のために、よく見えない。というように第1段階は始まったようだ。
しかし、米国の機密情報漏れで遅れた可能性もあるが、最大1ヶ月のようだ。
しかし、4月中旬から6月までが、反攻作戦で機動部隊が動ける時期であり、6月からは梅雨であり、泥濘になり、7月から秋までが次の機甲部隊が動ける時期になる。ということで、今の時期か夏に反攻作戦ができることになる。第2段階は、アゾフ海まで進軍することであり、第3段階南部解放作戦、第4段階クリミア孤立作戦の順に攻めるようである。
メインは南部であるが、ザポリージャ州には、ロ軍兵が2万5,000人いる。ヘルソン州にはロ軍兵は1万5,000人と少ない。このため、ヘルソンから攻める可能性もあるようだ。事実、ロシア側情報筋によると、ウ軍がヘルソン州東岸に展開拠点を構築したという。
もう1つが、ポパスナを奪還して、ルガンスクとドネツクを分断する方向に行く可能性もある。ポパスナは高地であり、この地域全体を見渡せるので、ここを取ると、周辺地域の奪還が容易になる。
ウクライナへの軍事支援を話し合う米国主催の会議が21日、ドイツ西部ラムシュタイン米空軍基地であり、オースティン米国防長官も言っていたが、米国のエイブラムスM1A1戦車31両は5月中旬から下旬にドイツに到着し、ウ軍兵士への訓練を始めるが、訓練は最大10週間かかるので、秋口しか戦闘に参加できない。
また、レオパルト2は20両程度しかウ軍に渡っていないし、チェレンジャー2は14両程度であり、レオパルト1は数両程度で、兵器が揃っていない。しかし、6月までにドイツは、レオパルト1約80両を引き渡すという。
もし、4月後半に機甲部隊が動くとすると、PT-91やT-72などの戦車部隊しかない。ブラッドレー戦闘装甲車などの装甲車両は1,000両以上あるので、機械化歩兵部隊が動くことになるが、攻撃力は弱い。
ということで、本格的に動くのは夏以降になるとみる。そして、秋には動けなくなるので、後半の作戦は来年に持ち越しであろう。
そして、ドイツはウクライナに配備された戦車を修理するための拠点をポーランドに設立するという。
もう1つ、欧米製戦闘機が、まだ供与されていない。攻撃力自体が物足りないような気がする。攻撃力は諸兵科連合の総和で決まるが、航空優勢を取ることが最重要である。そのためにも欧米製戦闘機は必要である。
ウ軍パイロットも長距離ミサイルが必要という。MIG29は、50~60km先のロ軍機しか攻撃できないが、Su-27ロ軍戦闘機では、150km先の敵の攻撃できる。このため、150km以上先の敵を攻撃できるミサイルが必要だという。このため、MIG29に長距離ミサイル搭載可能にする改造をしたようである。
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ヒトラーの予言が現実に。同じ環境にある日本とドイツ
ウ軍攻勢は、短期で終わる可能性がある。ロ軍正規兵の装備が貧弱であり、弾薬等もなくなってきている。もう1つが、この戦争を陰で支えているのが、英米などの特殊部隊であり、特に英国の部隊である。英国は50人も送り込んでいる。米国は17人であり、非常に多い。
この部隊が各国から来る衛星写真などを基に、ロ軍の状況を見て、作戦を判断しているようである。その中心に英国がいる。
そして、ピストリウス独国防大臣は、ウ軍がロシア領内に攻撃することを容認するとした上で、「ウクライナは戦争に勝たなければならない。ロシアの侵略を成功させてはならない。」と明言した。ドイツは、ウクライナを最後まで助けるようである。
同時にドイツは、ロシア外交官の大量追放を決めたようで、その報復として同規模のドイツ外交官をロシアから退去させるようだ。露独の敵対関係が明確化した。
ラムシュタイン会議では、ストルテンベルグNATO事務総長も「ウクライナが今度こそ、さらに多くの領土を解放できると確信している」と述べ、オースティン米国防長官も、「ウ軍は戦果を上げ続けることができる」と述べた。
独国防大臣の決意は、日本も台湾が中国の侵略を受けたら、今のドイツと同じように最後まで、台湾を助けなければならないことになる。という意味では、日独は同じ環境にある。
ヒットラー予言の中に、将来、日本とドイツは同盟を結び、お互いが世界に貢献するとしたが、今のことのようである。現在は、英独日同盟ですかね。
一方、米国は、早期に戦争を終わらないと、2024年の米国大統領選挙でトランプ氏が当選すると、ウ軍への軍事支援がなくなり、ウクライナにとっては不本意に戦争を終結するしかなくなる。米国の動向が気になる。日本にも世界にも、安倍元首相を失ったことが大きな痛手にならないことを祈るしかない。
勿論、トランプ氏の再選がないように民主党は工作しているし、共和党内も分裂する。富裕層の党から昔を懐かしむ田舎の貧困層の党になる。富裕層は民主党に鞍替えになる。都会政党と田舎政党という色分けになるようだ。しかし、貧富の差が拡大し、米国の民衆は、革命を望んでいる。
トランプ氏の草の根運動は、意外な結果を持たらす可能性もある。このため、ウクライナも早く戦争目的を達しないといけない。
それと、イスラエルが提供する早期警戒システムが稼働するようである。このシステムとパトリオットで、キーウを守るようだ。
反攻前に、ストルテンベルグNATO事務総長は、訪宇して、ウクライナのNATO加盟を後押しするとした。戦争終結後にしか加盟できないので、まだ先ではある。
また、ウクライナ政府が年内に、日本やカナダなど11カ国による環太平洋連携協定(TPP)への加入を申請する意向である。すでに、戦争後の経済復興をウクライナは考えている。
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ウクライナの攻撃をかわす術を知っているワグナー軍
バフムト攻略で活躍できているのは、ワグナー軍しかいないために、プーチンもプリゴジンのいうことを聞き始めた。動員兵の一部をワグナー軍に割り当てて、ワグナー軍の損耗の補充を行うことにしたようである。
プリゴジンのこのままでは負けるとの小論文の効果があったことになる。この言いたいことはワグナー軍を強化しないと、今のロ軍では負けるということを言いたかったようである。
事実、バフムト以外では、ロ正規軍の攻撃で、ウ軍の陣地を突破できていないからである。実績値でもワグナー軍が優位に立っている。
プーチンは、ゲラシモフ総参謀長とパトリシェフ安保会議書記が、この戦争を早期に終わらせようとしていることを知り、プリゴジンという対抗勢力を作る必要になっている。
プリゴジンも、プーチンの信頼を得ているという自負があり、プーチンを全否定するイゴール・ガーキンとは一緒にならない。ペスコフ報道官の息子もワグナーPMCに参加したという。ワグナー軍が優等部隊であることを証明しているようだ。
逆に、イゴール・ガーキンとその派閥は、プーチンとプリゴジンが、2024年の大統領選挙を考慮して「ウクライナとの停戦」を図っていると見て、停戦を主張する者たちを批判・攻撃しているようだ。
しかし、そう簡単に停戦できないので、ウ軍反転攻勢に対して、ワグナー軍を前面に立てるしか、防御もできないと見ているようである。
逆に、ウ軍もなるべく多くのワグナー軍将兵を排除するために、バフムトで戦っているのである。
しかし、そろそろ、バフムトの戦いは終わり、ウ軍の反転攻勢に移ることになる。
ウ軍攻勢で攻撃地点に送り込まれるのが、ワグナー軍になる可能性が高い。このため、ワグナー軍の増強が必要になって、動員兵の一部をワグナー軍に送り込んだのである。
ウ軍の最新兵器やウ軍工兵の機械などを見ると、塹壕や陣地、龍の歯だけでは、防御できない。攻撃的な防御行動が必要である。ワグナー軍は、ウ軍の攻撃方法に順応した対策をすぐに打ってくる。そのよい例が、ウ軍撤退後のビルに攻め込むと、ビルごと破壊するという遅滞防御に対して、ビルにすぐに攻め込まなくなった。
ワグナー軍は、柔軟に作戦を変えることで、ウ軍の攻撃をかわす術を知っている。ロ軍は柔軟性がなく、硬直化した攻撃しかできないし、守れない。
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戦勝記念日「不滅のパレード」中止で徐々に戦時下の色が濃くなる露国内
もう1つ、ワグナー軍は、アフリカの鉱山からの収入があり、特に、スーダンの準軍事組織RSF支配地の金鉱山の収入を得ている。鉱山防衛とRSFの戦闘訓練などを請け負っている。このため、RSFが国軍に統合されると、その収入がなくなる。少し前に、プリゴジンが、アフリカ経営に力を入れるというのは、スーダンの支援のことであったようだ。
このため、RSFにミサイルなどを送り、統合されないようにしているし、それと、リビアではワグナーの支援を受ける反政府のハフタル将軍が国土の広い部分を支配する。ワグナー軍はアフリカの多くの国で影響力を持っていることがわかる。
このように、ワグナー軍は海外で収入を得ているので、ロ軍と違い、国家予算を効果の割には使っていない。
このことで、プーチンは民間企業の中に民間軍事会社を作り、国庫とは別の収入で運営する軍事組織を多数、作ろうとするのである。
ロシアの権力闘争にも、その複数の軍事組織が関係することになるとみる。ロシアはFSBが支配しているが、この支配体系に変化が起こる可能性も出ているようだ。
一方、ロ軍の戦闘爆撃機SU34が20日、ロシアの都市ベルゴロド上空を飛行中に「航空用弾薬の緊急投下」に迫られ、市中心部で大規模な爆発が起こった。このように航空機の整備状況が良くないことになっている。中国製半導体の補給があり、兵器製造は可能になったが、航空機などの整備に必要な機器の整備がなく、精度の問題を起こしているようだ。
また、5月9日のロシア戦勝記念日に「不滅のパレード」は中止になり、赤の広場の軍事パレードがどうなるかでしょうが、徐々に戦時下の色が濃くなっている。しかし、2024年の大統領選挙を行う方向であり、戦時色をなるべく出したくない。
インドは、ルーブルでの決済を拒否し、ロシアは米ドルやインドルピーでの決済を拒否したことで、ロシア製兵器の輸入を停止した。今後、インドの兵器は欧米製になるようだ。ロシアはまたも武器輸出先を失ったことになる。ロシア兵器を使うのは、アフリカだけになりそうである。
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ロシアに半導体を大量供給する中国が受け取る見返り
中国は、ロシアに半導体や電子部品を供給して、今までの欧米製半導体から中国製半導体に置き換えつつある。このため、自爆ドローンや誘導兵器などが生産できるようになっている。
ロシア製兵器やミサイルに使われている半導体は、古いので、十分中国製半導体で置き換えられるようだ。特に重要な欧米製半導体を中国は、すべてパクっているので、簡単に中国製半導体に置き換えることができる。
この見返りとして、濃縮した核物質を受け取り、核ミサイルの量産体制を引くことになる。中国は核ミサイルを早期に米国と同程度にして、今後の米中対立に備えるようである。
秦剛外相は、「台湾は古来より中国の不可分の領土であり、台湾海峡の両岸は同じ中国に属するというのが台湾の歴史であり、台湾の現状である。中国はいったん国土を取り戻したなら、二度と失うことはない」と台湾併合に向かうことを宣言している。
この準備のために、中国はロシア太平洋艦隊の実力を示してほしいと依頼した。このため、ロ軍は2万5,000人と軍艦167隻、戦闘機やヘリなど89機で、上陸作戦を北方四島で行った。
しかし、中国の核増産の動きに対して、ロシアのグリゴリー・マシュコフ特使は、「本質的に、われわれはミサイル軍拡競争を目の当たりにしており、これには予測困難な結果が伴う。ミサイル技術の改良に数百億ドルも投じられ、このプロセスは制御不能な性格を帯びている」と指摘。中国のミサイルシステムの急拡大や、イスラエル、インド、パキスタンの核能力について言及した。ロシアが核大国から普通の国なることが口惜しいのであろう。
ということで、米欧日対中ロの世界の分断が益々、大きくなる方向である。それと、中東やアジアでも核戦争の危機に直面する可能性がある。
このため、イタリアのメローニ政権も一帯一路からの離脱を検討しているようである。欧米サイドか中ロサイドかの選択を迫られることになる。フランスのマクロン大統領は、中立の位置を希望しているが、それと許さないことになると思う。
もう1つ、米国は、同盟国とともに、ロシアへの全面輸出禁止を提案している。これが通ると、日本の中古車の輸出もできなくなる。
さあどうなりますか?
(『国際戦略コラム有料版』2023年4月24日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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