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日本を含む中低所得国ほど多い「テスト重視」で起きている問題点

先進国と比較して、日本を含む中低所得国、特に東アジアの国々ではPISA(学習到達度調査)ランキングなどのテスト結果を重視する傾向があるようです。そうした傾向の弊害を指摘した世界銀行の資料を紹介するのは、メルマガ『東南アジアここだけのお話【まぐまぐ版】』著者で、やはりテスト重視の傾向にあるマレーシアに11年以上滞在する文筆家で編集者の、のもときょうこさん。どちらが正しいという話ではないとしながらも、「テスト重視」の国の一部で起きている問題点をあげ、マレーシアでも頻繁に見られると伝えています。

なぜ、標準化テストを重視しない国が増えているのだろうか?

よくアジアの教育は「テストの点を重視しすぎ」と批判されます。マレーシアの公教育もテスト中心型で小学生から試験があります。一方で、アメリカやカナダの教育ではテストの点があまり重視されていません(例えばカナダでは大学入試でも、GPAと呼ばれる成績や課外活動重視です)。

ですから、インターの入試にしても、国の標準化テストにしても、非常にあっさりしてます。例えば、アメリカのSATは2教科だけ。ある州のカナダ式では英語だけです。このことに、多教科のテストに慣れた多くのアジアの親は驚き、不満に思うようです。

アメリカ・カナダ・オーストラリア・国際バカロレアなどでは、カリキュラムが中華式やシンガポール式より緩やかだったり、標準テストが少なかったりするのです。保護者・学生には「勉強が遅れている」「レベルが低い」などなどと不満を漏らす人がいます。

例えば、国際バカロレアの底に流れる思想には日本のかつての「ゆとり教育」と同じ、ジョン・デューイらの「進歩的教育思想」があります。海外教育を考える親は、この事実を無視しないほうがいいです。でもなんでこうなっているのでしょうか。

テストで学校同士を競わせると起きること

以前もご紹介した世界銀行(Worldbank)の2018年の資料によると、米国でもかつては「標準化テスト」重視の時代があったようです。

多くの教育論議では、過剰なテストやテストに過度に重点を置くことの危険性が強調されている。米国では、20年にわたる「一か八か」のテストの結果、この懸念と一致する行動パターンが見られるようになった。

 

Many education debates highlight the risks of overtesting or an overemphasis on tests. In the United States, two decades of high-stakes testing have led to patterns of behavior consistent with these concerns.
World Bank. (2018). Overview: Learning to realize education’s promise. In The World Development Report 2018: LEARNING to Realize Education’s Promise.より。以下引用同)

テストの点が目標になった結果、「テスト対策」だけをする学校が現れる。それが問題につながるというわけです。

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欧米の中でも、英国式はテスト重視ですが、確かに、中学に入ると「テスト対策しかしない」学校も存在します。日本の一部受験戦争が、塾主導になっているのと同じです。

一部の教師は、テスト対象外の科目ではなく、テストに特化したスキルに集中することが判明しており、成績の良い生徒だけをテストに参加させるために、テストから免除するような特別教育を行うなど、戦略的な行動をとる学校もある。極端な例では、学区レベルでの組織的な不正行為に対する有罪判決にまで問題が拡大している。

 

Some teachers have been found to concentrate on test-specific skills instead of untested subjects, and some schools have engaged in strategic behavior to ensure that only the better-performing students are tested, such as assigning students to special education that excuses them from testing. In the extreme, problems have expanded to convictions for systemic cheating at the school district level.61

これは本当によく聞く話で、「進学実績」や「試験のスコア」がたいして当てにならないのはここです。中学校生活を全て「試験対策」に充ててしまう学校が人気になる(もしくは塾が主導権を握る)──これが一部の国で起きていることです。

同時に、多くの中低所得国(および一部の高所得国)のメディアは、高等教育への進学を審査する国家試験に焦点を当てており──それが試験への過度な偏重の懸念につながっている。

 

At the same time, media coverage of education in many low- and middle-income countries (and some highincome ones) often focuses on high-stakes national examinations that screen candidates for tertiary education―raising concerns about an overemphasis on testing.

ここでいう多くの中低所得国(および一部の高所得国)には、多分ですが、マレーシア・中国・日本・韓国(もしかすると英国も)が含まれると思われます。マレーシアでは標準試験の結果が毎年大ニュースになります。

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私は学校のいう「進学実績」は眉唾で見た方がいいと思います。マレーシアに偏差値的な「いい学校」は、おそらく一部の中華学校以外には存在しないと思います。

例えば、マレーシアでは「試験の結果に関係ないから、うちの子供には体育や音楽をやらせないでほしい」などという親がいるそうです。試験結果のみにこだわる親はどこにでもいます。

しかし、試験がなくなったからと言って過当競争がなくなるわけではないようです。お金を払って偽の「実績」を作ってもらう親も現れて事件になってます。以下はネットフリックスのドキュメンタリー。
Watch Operation Varsity Blues: The College Admissions Scandal | Netflix Official Site
映像に出てくる子どもたちも迷惑そうです。

子どもにはどんな問題が起きるのか?

では、子どもの側にはどんな問題が起きるのでしょうか?先の資料で槍玉に上がっているのは韓国です。こちらも以前紹介しました。

たとえば、近年、韓国の多くの利害関係者は、韓国の高いパフォーマンスの教育システムはテストの点数を重視しすぎており、創造性やチームワーク(「その他のアウトプット」)などの特定の社会的感情的スキルを十分に重視していないと主張しています。

 

For example, in recent years many stakeholders in Korea have argued that their high-performing education system places too much emphasis on test scores (called “measured learning” in figure O.13) and not enough on creativity and certain socioemotional skills such as teamwork (“other outputs”)

確かに、テストの点数争いにヒートアップし、「試験結果」にだけフォーカスする私立学校は、日本でもマレーシアでも見られます。それから、「テストの点にこだわる生徒」の伸びが悪いことも大学関係者から指摘されます。バーンアウトしてしまう例もあります。

日本もかつてはテスト重視でしたが、昨今では、AO入試などの広がりともに米国に近い型に変わろうとしているようです。どっちが正しいということではなく、哲学が違う、くらいに理解しておくのが良いと思います。

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image by: Shutterstock.com

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文筆家・編集者。金融機関を経て95年アスキー入社。雑誌「MacPower」を経て以降フリーに。「ASAhIパソコン」「アサヒカメラ」編集者として主にIT業界を取材。1990年代よりマレーシア人家族と交流したのときっかけにマレーシアに興味を持ち11年以上滞在。現地PR企業・ローカルメディアの編集長・教育事業のスタッフなど経てフリー。米国の大学院「University of the People」にて教育学(修士)を学んでいます。 著書に「東南アジア式『まあいっか』で楽に生きる本」(文藝春秋)「子どもが教育を選ぶ時代へ」「日本人には『やめる練習』が足りていない」(集英社)「いいね!フェイスブック」(朝日新聞出版)ほか。早稲田大学法学部卒業。

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【著者】 のもときょうこ 【月額】 ¥1,320/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 木曜日

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