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広島サミットで明らかに。中国が“ほくそ笑む”G7の乱れた足並み

ゼレンスキー大統領来日というサプライズの中、大きな混乱もなく終了したG7広島サミット。とは言え「大きな収穫もなく、G7の足並みの乱れが見て取れた」と振り返るのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、中国が警戒していた逆風もそれほどではなく、グローバルサウスの取り込みも不発に終わった理由を解説。よほど大きな経済的メリットがなければ、西側の先進国に対する不信感や警戒心を和らげることはできず、それが簡単ではないことを伝えています。

G7が狙ったグローバル・サウスの取り込みが不発であったことと中央アジアサミットと「一帯一路」

G7広島サミットは、中国にとって逆風であった。共同声明では台湾問題にも言及し、中国を念頭に「経済的威圧への深い懸念」一つの大きなテーマとされたからだ。だがそれは、事前に予測された強烈な暴風雨とはならなかった。

その要因はいくつか考えられる。まずフランスやドイツ、EU(欧州共同体)がアメリカの思惑とは外れ、デカップリングではなくデリスキングという概念に傾いたことだ。さらにアメリカ自身もジョー・バイデン大統領も「雪解けは近い」と発言した。これ自体、米中の首脳会談のための雰囲気作りで、歩み寄りを匂わせるリップサービスとも受け取られるが、空気は確実に和らげた。

G7の足並みの乱れは中国のリアクションにも表れた。例えば、他の国は差し置き日本とイギリスだけに強い不満を向けたことだ。加えて重要なのは、G7が当初、中国やロシアへの包囲網を形成するなかで、その抜け穴となるグローバル・サウスの国々を取り込もうとした試みが不発に終わったことだ。グローバル・サウスの国々の反応が芳しくなかったからである。

インドのナレンドラ・モディ首相は、広島でボロディミル・ゼレンスキー大統領と会談したが、ロシアとの関係を重視する姿勢は崩さず、G7メンバー国との立場の違いをむしろ明らめたのであった。

ブラジルのルーラ・ダシルバ大統領も、ロシア・ウクライナ戦争では「ロシアとウクライナとの停戦に向け、中国やインドなどと取り組んでいく姿勢を強調」。G7が期待するような反応とは程遠いコメントを発した。

その他のグローバル・サウスの国々であるインドネシアやクック諸島、コモロからもサミットを盛り上げるような発言は聞かれなかった。

グローバル・サウスにはそもそも「これまで見向きもしなかった先進国が中国・ロシアにダメージを与えるためににわかに接近してきた」という抜きがたい不信感があると指摘される。資金も技術もある先進国と関係悪化させるのは得策ではないにせよ、警戒心が強く働いていることは否定できないのだ。

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また中ロとの関係を崩したくないという動機も働いたはずで、余計な紛争に巻き込まれたくないという動機もあったはずだ。よほど大きな経済的メリットか政権維持の動機と絡まなければグローバル・サウスの国々の取り込みなど簡単ではないのだ。しかも、その経済的なメリットも中国に一日の長がある。

70年代初めの国連資源特別総会でトウ的な海と陸の道で世界を結ぶ「一帯一路」は、中欧貿易に目が奪われがちだが、実際のところ対途上国では主に交通インフラの建設やエネルギー産業に投資し経済発展の基盤を作る「中国版発展モデルの輸出」でもある。

G7と同時期に中国で行われていた第1回中国・中央アジアサミット(以下、中央アジアサミット=陝西省西安市)の報道の中で、中国と中央アジアの貿易が対前年比で22%増加したことが強調されていたが、これは中国とヨーロッパを結ぶ鉄道の約80%が中央アジアを通過することと無縁ではない。

こうした人々が実感している発展の手応えを、先進国がにわか援助で覆そうとしても簡単ではないのだ。現状、先進国が中国の対グローバル・サウスの影響力を削ぐ方法は、その問題点を指摘するしかなく、キーワードは「債務の罠」だ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年5月28日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:Poetra.RH/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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