日本経済の失速を横目に目覚ましい成長を遂げてきた中国。その中国経済にも減速傾向が見られるとの報道が相次いでいます。ただし、そうした報道も、失速して大混乱に陥ることを期待するかのような論調から、冷静なものへと変化してきているようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂教授が、ブルームバーグが指摘した個人消費の低迷や若年層の失業率の問題について、習近平政権の目下の重い課題と肯定。2年続けて大卒者が1000万人を突破し、就職難に陥っている現状について詳しく伝えています。
中国経済の減速報道があふれる一方で、世界が相変わらず中国の成長に頼らざるを得ない事情
ここ数年、中国に絡むニュースで頻度が高いのは米中対立だ。次いで多いのは中国経済の失速や減速に関するニュースだ。以前は不動産業界の不振を入り口に、隠されていた諸問題が一気に噴出し大混乱するという、いわゆる負の連鎖により世界が混乱に巻き込まれるという予言だ。
コロナ禍では、感染対策に失敗した中国が世界経済のマイナス要因となるとの予測も多かった。こうした報道の裏側にあるのは、中国の経済発展にはどこか「虚」のイメージがつきまとい、何かのきっかけで本来の弱さが露呈するという期待があるからだ。
最近ではさすがに大混乱との予測は減ったようだが、代わり目立つのが「アメリカを抜くというバラ色の未来」の否定だ。理由の代表格が人口減少である。また中国の政治体制が硬直化していることをもって、自由度の欠如が経済発展の足を引っ張るとの指摘も少なからず聞かれる。
いずれも長期的課題だが、一方で短期的な問題も山積している。ブルームバーグ(6月30日)は、それをまとめて中国経済の未来をネガティブに描いている。記事は、「個人消費の低迷や危機的な不動産市場、輸出不振に加え、若年層の失業率は20%を突破し過去最悪を更新。地方政府の債務も膨らんでいる。こうしたひずみは世界中に波及し始めており、商品相場や株式市場などあらゆる面でその影響が見られる」と指摘する。
焦点は大崩壊ではなく、伸び悩みであり、個々に挙げた理由にも違和感はない。ただ不動産市場の低迷は政策としてバブル退治が織り込まれていて、ある種の「生みの痛み」の要素も小さくない。また輸出の不振についても、原因はむしろインフレに見舞われる欧米の市場の需要が弱まったことで中国自身の問題とはいえない。
消去法で考えたとき残るのは個人消費の低迷と若年層の失業率の高さの問題だ。これが習近平政権にとって目下の重い課題だ。
個人消費の低迷は買い控えが原因とされ、いまの中国からはかつての強気な購買力は失われている。その背後に漠然とした将来不安があることは、一方で人々が貯蓄に熱心になっていることからも明らかだ。
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加えて若年層の失業問題。なかでも大学卒業者の就職が困難である現状は、習政権には悩ましい問題だ。2023年の中国の大学卒業生は約1158万人。昨年に続いて再び1000万人を突破し、北京にとって大きな政治圧力となっている。大卒者を作りすぎた反面、大卒に見合う仕事を十分に提供できなくなったアンバランスが失業率が高まっている主な原因だ。
高学歴化の現状は、「北京市の大学・大学院卒業生28万5000人のうち、修士・博士課程の大学院卒業生数が初めて学部の卒業生数を超える」(人民網日本語版 3月31日)という異常なものだ。しかし、学ぶことで一発逆転を狙う農村の学生のエネルギーが高学歴化を支えてきたことを考えれば、「過剰」になったからと単純に減らせばよいという発想にはつながりにくいのも当然だ。
習政権はここ数年、大卒と専門学校卒との間に待遇や賃金の差をつけることを禁ずる法律を制定し、中小企業との待遇の格差を是正する政策も打ち出してきた。学生を中小企業に誘導する措置も講じてきたが、効果的な対策になったとはいえない。こうした問題を数えてゆくと中国経済にうっすらと雲がかかる印象を抱かされる。
だが、問題があるからといって中国の世界における位置づけが大きく変わるのかといえば、決してそんなこともない。人口減少や米中対立が懸念されるなかでも、むしろ中国経済への期待値は今後も一定のペースで上がり続けると考えられているのだ。
理由はいくつかあるが、なかでも重要なのは中国自身が危機感を持ち長期的な目標を確実にこなしながら変化を続けていることだ。例えば、先に不振と書いた貿易についても全体が伸び悩むなか、「新・三種の神器」(電気自動車、リチウム電池、太陽電池)については強さを見せつけているのだ──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年7月2日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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