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安倍なき自民をクソミソ。なぜ竹田恒泰はここまで「LGBT法案」を毛嫌いするのか?

過激な発言で一部の右派から絶大な支持を受ける竹田恒泰氏。そんな「明治天皇の玄孫」が、先日「LGBT理解増進法」を成立させた自民党に対して不満を爆発させています。今回のメルマガ『小林よしのりライジング』では、漫画家・小林よしのりさん主宰の「ゴー宣道場」参加者としても知られる作家の泉美木蘭さんが、竹田氏が同法に反対する理由を紹介。にわかに理解し難い彼の主張を誌面に引きつつ、その男尊女卑的な思考を強く批判しています。

竹田恒泰もLGBT法も。両者が抱える修正不能な問題点

竹田恒泰は、LGBT理解増進法の可決を機に、自民党支持を金輪際やめることにしたらしい。須田慎一郎、井上和彦、居島一平とのYouTube番組では「安倍なき自民党」をクソミソに罵って、次の選挙では下野して欲しい、倒閣だなど息巻いていた。

竹田がLGBT法に反対する理由は、LGBT法が、左派による「皇室潰し」の入り口になるからだという。あちこちの動画番組で竹田が語る主張はこうだ。

LGBT法案?ソレ、完全に周回遅れです!更には皇室潰しにもつながるその理由とは?|竹田恒泰チャンネル2

話を聞いていて、男系固執派は不利な状況だという肌感覚があるのだろうと感じた。LGBT法がきっかけになるかどうかは別として、「時代は変わったよな、女だから天皇になれないなんておかしいよな」という風潮は、いつ巻き起こってもおかしくない時代になっている。生活の実感や様々な社会状況から、そういう意見に自然に賛同する人のほうが多いだろう。

それを竹田自身が感じているからこそ、女性皇族が「内面は男です」と言ったら宮家創設なのか、という子どもみたいな屁理屈を言ってケチをつけようとするわけだ。

もしも内面にジェンダーの悩みを抱えた皇族がいらっしゃって、その方が性の自認をはっきりと宣言されるということがあれば、ゲスい週刊誌はバッシングのネタにするのかもしれないが、色々と苦しい思いをされている部分があったのだろうなと推し量る人は多いだろう。

ただ竹田は、女性皇族が“わざと”「内面は男だ」と宣言し、性を偽って宮家を創設する可能性を言及しているらしい。

別の動画ではこう発言していた。

これまでだったら、汚いオッサンが女風呂に入ってきたら、キャーと言ってすぐ逮捕ですけども、今後、キャーって言った人が差別ですからね。逮捕できないわけですよ。「ワシは女じゃ」と言った瞬間、排除できないわけですから。

 

で、今後どうなるかと言ったら、今世紀の話をすると具体的な顔を思い浮かべる人がいるかもしれませんから、あえて22世紀と言いましょうか。22世紀の女性皇族が「トランスジェンダーで私は男だ」と言い始めたらどうすんだって話ですよ。いやいや、あんたは生物的に女なんだから皇位継承できませんよって言った瞬間、差別主義者ですからね。

汚いオッサンが「ワシは女じゃ」と言いながら女風呂に入ってきたら、普通に逮捕だろ。

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逮捕すべき犯罪者と女性皇族を同列に扱う不敬

その上、逮捕すべき犯罪者と同じ屁理屈を、女性皇族が言い始めたらどうするんだなんて、どこまで女性皇族に対して失礼なことを言っているのだろう。

皇族方がそんなことをなさるわけがない。「やるかもしれないじゃないか」と言われても、私は、日頃から拝見してきた皇族方の誠実なお姿をすっかり信頼しているので、「そんなことなさるわけがないよ」としか思わない。竹田は、皇室を尊敬も敬愛もしていないのでは?

それに、「22世紀の女性皇族」と言うが、現世紀の時点で、すでに皇室は消滅しかかっている状況だ。100年以上も先の空想を語るのは、論点をボカして先送りしてやろうという魂胆しか感じられない。ひたすら女性皇族を下に置きたいという男尊女卑の感情がにじみ出ているヒドイ言い草だった。

竹田が言うような「LGBT法を利用して、女風呂に、女と偽った男が入ってくるぞ」という脅しはネット上でよく見聞きしたが、もしそんな事件が起きたなら、事件を起こした男が問題なのであって、本来は、個別の犯罪として対処する話であり、LGBTに関する理解増進を阻止することとは関係がない。

これまでも、工夫に工夫を重ねて女湯をのぞいたり、女装して女湯に忍び込んだりして、逮捕されてきたバカな男たちはいくらでもいたのだから、同じ刑事罰を受けるだけだろう。

警官は、異常な挙動や犯罪の疑いのある人物に対しては、任意で職務質問したり、任意で同行を求めたりすることができる。任意だから断れるのだが、20代の頃、何もしていないのにたびたび引き留められては無実を証明していた知人男性が、警官に「なぜ俺はいつも疑われるのか」と聞いたところ、

  1. 腕にタトゥーがある
  2. ヒゲがぼうぼう
  3. ロックのTシャツを着ている
  4. 腕時計をしていない(スマホのない当時、社会性のなさと見なされた)

この4つが揃うと、違法薬物所持を疑って声をかけていると教わったらしい。

ほかにも目つきや挙動などいろいろ判断材料があるはずで、ジェンダーの問題に関わらず、状況や外見から判断して疑いをかけることは、警察の職務の1つなのだ。

もしも「疑ったら差別」と騒ぐような言論が出てきたら、行き過ぎたポリコレになると思うが、警察の法的な権限まで縮小することはできないのではないかと思う。

なにより、「性的少数者であるトランスジェンダーへの理解」と「女湯に侵入する犯罪者への対策」とは論点がまったく違う。そこがごちゃ混ぜになっていること自体が、性的少数者に対する理解の低さ、差別心の現れでもあるだろう。

その差別心がさらに劣化すると、井上正康の「家族制度の崩壊につながる。結婚する人がいなくなる。性的倒錯集団をつくるという目的もあるらしい」、馬渕睦夫の「LGBTはディープステートが考えている人口削減策の一環」などの発言につながるわけだ。

ところが、こういった「女湯に侵入する男」をわざわざ危惧してみせる話が、竹田をはじめとする自称保守派のなかでけたたましく叫ばれ、政治家の中でも問題視された。

特に自民党の議員は、統一協会の影響を受けて、LGBTを「病気」と言う八木秀次の講和を聞くなどしてきたから、完全に間違った理解や、差別したい願望がへばりついている。

そのため、与野党で協議が行われ、条文に「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう留意するものとする」という文言が加えられることになった。法案はそのまま可決されたわけだが、この文言に、LGBT当事者団体や法律家たちが猛反発している。

この文言は、LGBT法を、「全ての国民」という多数者の安心を条件にして、圧倒的少数者の人権に制約をかける法律として解釈できるからだ。

差別をなくすための活動を行いたくても、偏見に満ちた周辺住民が「不安だ」と訴えれば制約を課すことができるととれるし、条文そのものに、LGBT当事者たちが国民の安心を脅かす存在であるかのような印象を与える節もある。

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男系固執派が主張する「合理的な理由」

なぜそんな雑な法案が通ってしまったのかと言うと、国会内を「LGBTに理解を示さなければいけませんからね」という空気が支配し、与野党とも「我々、こうして話し合いましたよね」という合意をとることだけが目的となってしまったからだと言われている。

こういうわけで、LGBT法は、差別したい自称保守派からも、差別をなくしたい左派からも、当事者団体からも批判されるという雑すぎるものに仕上がってしまったというわけだ。

結局、LGBTの理解を促進しようと言う国会議員たちのなかに、そもそもLGBTのことも、法律のことも、理解できている人間がほとんどいなかったということでもある。

さて、竹田恒泰はと言うと、動画のなかでこう語っている。

公共の利益に反していれば制限されるんです。これは差別ではないわけです。

 

「なぜ天皇がなんで男なの?」「なんで男系なの?」理由があるわけです。合理的な理由が。だから差別でもなんでもない。

 

そういうことを言うなら、一般国民が天皇になれないことを差別と言うべきですよね。だって1億2,000万人近くが皇族になれない、天皇になれないんですよ。そっちのほうが差別ですよね。女性皇族だけが天皇になれないのを差別というのはおかしな話なんで。

男系固執に「合理的な理由」があるとは知らなかった!

…って、どこにあるの?

ひたすら皇室の未来を先細らせ、まったく皇統問題解決にならない非合理なことばかり言っているのが男系固執派のお家芸なのだと思っていたが。

「一般国民が天皇になれない」ということを差別と言うが、現実には、一切の自由のない状況におかれて、国民のために身を尽くして一生を過ごされる天皇陛下はじめ皇室の方々のほうが、差別されて人権侵害を受けていると言える状況だ。

ほとんどの発言を封じられている天皇と違って、好き勝手なことをYouTubeやらテレビやらツイッターやらで言い散らかして、気に入らない奴が出てきたら、スラップ訴訟しながら生きている竹田は、自分が「天皇になれない」から「差別されている」と感じるのだろうか?天皇になりたいマンなのか?

自分の男尊女卑を矮小化するために、大きな差別の話を持ち出してかく乱しているとしか思えない。

安倍さんの目が黒かったら絶対(LGBT法は)通んないですからね。自民党、おかしいよ。これにひょいひょいと乗っちゃうような人は、「時代が変わった、女性でも天皇になれるよね」と言う人たちですからね。だから、今の自民党に任せていたら、皇室は守ってもらえるとはもう思えないです。

そりゃ安倍晋三は統一協会とベッタリだったのだから、生きていれば、LGBT法は条文の修正どころか絶対に通さないという睨みをきかせたことだろう。女性宮家創設の議論を握りつぶして白紙にしたのと同じように。

しかし、竹田の自民党に対する危機感や、どんどん支離滅裂になっていく屁理屈を聞いていると、逆に、愛子皇太子誕生に動くタイミングが、近く巡ってくるのかもしれないという希望も見えた気がしてきた。

国会議員たちが憲法や法律をまったく理解していないことによって、「旧宮家の男系男子を養子縁組」だの「女性皇族は結婚して民間に下られた後も公務をしていただく」だの実現不能な机上の空論で空転し続けている状態を、早く打破してしまいたいが、男系固執派は、終わりのはじまりを迎えているのは確かなようだ。

(『小林よしのりライジング』2023年7月11日号より一部抜粋・文中敬称略)

2023年7月11日号の小林よしのりさんコラムは「『よしりん辻説法〈6〉 恋愛論・完』とLGBT法」。ご興味をお持ちの方はこの機会にご登録ください。

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【著者】 小林よしのり 【月額】 ¥550/月(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4火曜日 発行予定

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