メーカーは製品を安く作り、低い価格で売ることができます。しかし、価格決定権のない小売店は安く売るということがまず難しいですよね。今回の無料メルマガ『がんばれスポーツショップ。業績向上、100のツボ!』では、著者で経営コンサルタントの梅本泰則さんが、スポーツ用品を例にあげながら、利益を削らずに小売店が安く売ることのできる方法を考えています。
利益を削らずに安く売る方法
メーカーさんは、製品を少しでも安く作ろうとします。その方が低い価格をつけられますので、多く売れる可能性があるからです。
一方、価格決定権のない小売店はどうしたらいいでしょう。利益を削ることなく、安く売る方法はあるでしょうか。
1.スポーツ用品が高いワケ
一般的に見て、スポーツ用品は高いと思いませんか。
例えば、野球用品を見てみましょう。商品によって価格の幅はありますが、硬式グローブは、おおむね5万円ほどします。軟式グローブは2万円ほど、軟式金属バットも2万円ほど。なかなかのものです。学生さんが買うには、少々負担が大きいのではないでしょうか。
テニスラケットにしても、卓球ラケットにしても、決して安くはありません。シューズやスパイクも、それなりの値段がします。スポーツウエアも同じです。ですから、安く売ってくれるお店や、ネットにお客様が流れるのも分かります。
それはともかく、スポーツ用品はどうしてこんなに高いのでしょう。いくつかの理由が考えられます。
・商習慣によって、高くなる
・商品開発費が高い
・マーケティング費用が高い
それぞれ説明しましょう。まずは、「商習慣」です。
スポーツ用品は、必ずしも「買い取り」ばかりではありません。売れ残ったら、問屋さんやメーカーさんに返品されることも多いです。問屋さんも在庫を抱えたくはないですから、いくらかはメーカーさんに返品します。返品された商品は、どこかで処分販売されるのが通常です。
メーカーさんは、この返品リスクの分を、あらかじめ商品価格に上乗せします。つまり、この返品という商習慣が、商品の価格を引き上げるのです。
次に価格が高くなる要因として、「商品開発費」があります。
スポーツ用品は、高機能、高性能を求められるのが宿命です。そのため、開発費が高くなります。特に、一流選手からの要求は厳しいです。その要求に沿った商品を作り出すのは、並大抵の作業ではありません。その開発費の分を含めれば、商品価格はどうしても高くなってしまいます。
そして、商品価格が高くなる要因の3つ目は、「マーケティング費用」です。
メーカーさんは、商品開発や宣伝のために、選手やチームと契約します。この費用がバカになりません。また、メーカーさんは各種のスポーツ大会に協賛します。これも、宣伝のためですが、協賛費は高額です。このようなマーケティング費用を吸収するために、商品価格が高くなってしまいます。
これらが、スポーツ用品が高くなってしまう要因です。
2.商品を安くするためのメーカーの努力
では、メーカーさんは商品を安くする努力をしていないのでしょうか。そんなことはありません。いろいろ手を尽くしてはいます。
一番の努力は、製品原価を低くおさえることです。そのため、労働賃金の低い国で生産をしています。中国、韓国、東南アジアでの生産が増えたのは、そのためです。
ところが、ほとんどのメーカーさんは現地工場を持っていません。その国の生産工場に生産を依頼します。すると、工場側は大量生産でなければ、仕事を引き受けてくれません。交渉の結果、必要以上の量を注文することになります。
海外生産も、そろそろ限界かもしれません。いずれは「ラクスル」のように、国内の工場を調整しながら安い価格で生産するメーカーさんが現れるかも。
次に、メーカーさんが商品を安くするための方法として、「中間マージンを省く」というものがあります。問屋さんを通さないで、小売店さんに直接販売したり、消費者に直接販売する方法です。
この方法は、すでに行われています。とはいえ、それはそれで大変です。中間マージンをとられることはなくなっても、販売員を増やす必要があります。
ネットで販売するにしても、ネットの運用費用は必要です。消費者とのコミュニケーションにも時間を取られます。
こうしてみると、メーカーさんの努力にもかかわらず、スポーツ用品が安くなる要素は、あまり見つかりません。すぐに返品がなくなるわけでもないでしょうし、相変わらずマーケティング費用はかかります。結局、スポーツ用品は高いままです。
では、そんな高いスポーツ用品を、お店で安く売る方法はあるでしょうか。いえ、値引き販売をするということではありません。利益を削らないで、安く販売する方法です。
3.商品を安く売る方法
3つほど考えてみました。それは、
・メーカーさんから直接仕入れる
・有名ブランドに頼らない
・自店オリジナル商品を販売する
ということです。順に説明します。
1つ目の「メーカーさんから直接仕入れる」というのは、まさに中間マージンのカットです。問屋さんを通さないで、小売店さんに直接販売するメーカーさんがあります。
例えば、海外ブランドを扱っているメーカーさん(輸入代理店)の中に、そんな会社を見つけることが出来るでしょう。また、販売規模の小さな中小メーカーさんに、そうした会社があります。それらの会社の商品は、問屋さんを通しているメーカーさんより安く仕入れられるはずです。また、最初から中間マージンを考えずに価格をつけている可能性もあります。
2つ目の「有名ブランドに頼らない」というのは、マーケティング費用の問題です。有名選手やチームと契約しているブランドばかりではありません。そうしたブランドの価格には、マーケティング費用を加えていないはずです。
それに、無名ブランドでも、良い商品はたくさんあります。きっと、有名ブランドよりも安い価格で販売できるでしょう。
3つめは、「自店オリジナル商品を販売する」です。3つの中では、これが一番現実的な方法かもしれません。自社オリジナル商品は、メーカーさんに協力して作ってもらう方法もあります。自社ブラントを立ち上げて販売する方法もあります。
いずれにしても、自店オリジナル商品はメーカーさんとの直接取引なので中間マージンがいりません。しかも、大量に作る必要もありませんので、処分リスクを考えなくても良いです。さらに、マーケティング費用は、必要ではありません。
この場合、商品価格の決定権は、自店にあります。お客様に、安く提供できること請け合いです。
いかがでしょうか。やり方によっては、高いスポーツ用品を安い価格で売ることが出来ます。スポーツ用品が高い理由を取り除いてやれば、安く売れるのではないでしょうか。
■今日のツボ■
・スポーツ用品が高い理由は、商習慣、開発費用、マーケティング費用にある
・メーカーの努力にもかかわらず、商品が安くなることはない
・商品が高くなる理由を除くことができれば、スポーツ店で安く売れる
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