昨年2月の開戦からこれまでの間、長きにわたりウクライナへの全面支援を続けてきた西側諸国。しかし各々の国の状況は、国民の不満がいつ爆発しても不思議ではない地点にまで達しているようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、最新の戦況と「ウクライナ支援疲れ」がますます高まりを見せている欧米各国の現状を解説。さらにロシア国防相が北朝鮮を訪問し成立させた取引の内容を紹介しています。
緊迫の一進一退。カウンター反転攻勢に出るロシアを全面支援する北朝鮮
ウ軍は、バフムト、ザポリージャ州、ヘルソン州で前進速度は遅いが、徐々に成果を出し始めている。
ロ軍は、スバトバからクレミンナ一帯でカウンター反転攻勢に出てきたが、ウ軍は、クラスター弾を砲撃し、かつ高地などの有利な位置まで撤退して、防備を固めている。
スバトバ方面
ロ軍は、カジマジニフカでゼレバッツ川を渡河に成功した後、低地帯を占領した。ウ軍はこの低地帯から高地に撤退して、そこで守備を固めた。27日からウ軍は反撃に転じて、ロ軍を押し戻し始めた。
数日前に占領されたナディーヤを奪い返したようである。ウ軍はそのまま前進して、ライホロトカ方向に進撃している。
ウ軍砲兵隊は、高台から直接観測してロ軍を砲撃している。ロ軍に大きな損害を与えたようである。
しかし、ロ軍は、増援部隊をゼレベッツ川を渡河させて送り込んでいる。
クレミンナ方面
ロ軍は、ディプロバの南からセレブリャンスキーの森方向に攻撃したが、ウ軍に撃退されている。ここでのロ軍大攻勢は止まったようであるが、まだ油断はできない。
バフムト方面
市内北西側では、ウ軍はザリジネンスク、高速道路M03号線付近、ベルキウカ、ヤヒドネで攻撃を継続している。露軍は防御に専念している。
市内南側では、ウ軍は、アンドリウカ街とクリシチウカほとんどを奪還した。クデュミウカも市街戦になっている。ウ軍はアンドリウカとクリシチウカを結ぶ鉄道線路沿いに領土を奪還している。
ロ軍は、このアンドリウカとクリシチウカを結ぶ線の東側に新たな防衛線を構築して、撤退を開始している。
ロ軍がクリシチウカ北の一角で粘っているのは、急造の陣地を構築する時間稼をしているとウ軍は評価している。
ウ軍は、この地域でもクラスター弾を使用したことで、ロ軍の陣地戦では厳しい状況になっている。
ドネツク市周辺
ロ軍は、アウディーイウカ要塞を攻撃したが撃退されている。ロ軍は、マリンカに攻撃したが、ウ軍に撃退されている。まだ、マリンカではロ軍が街を包囲しているが、マリンカのウ軍は撤退しないで抵抗している。
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進捗ペース落ち兵力減少情報も流れるウクライナ正面攻撃部隊
ザポリージャ州方面
1.ベルカノボシルカ軸
中央では、ウ軍はスタロマイオルスクを奪還した。ロ軍も軍隊のローテーションと新たな予備兵力の導入を急いでいるようである。ウ軍はスタロマイオルスクで掃討作戦を実施している。
そして、スタロマイオルスクの次の重要な町は交通の要衝スタロミニブカであり、ここでT0510道路を直進すると、マリウポリになる。
このため、ロミルブロガーによると、ここをウ軍に奪取されるとこの正面におけるロ軍の防衛は困難になるという。徐々に、第1防衛ラインに迫っていくことになる。
この地域は防衛ラインが一重であるので、第1防衛線を超えると、大きな防衛ラインがない。そして、マリウポリまでは100Km弱である。
ロ軍は、スタロマイオルスクの北側マカリウカを攻撃したが、ウ軍守備隊に撃退されている。またビリノピリにも攻撃をしたが、同様に撃退された。
2.オリヒウ軸
ウ軍は、ロボティネでロ軍と戦闘中であるが、ロボティネの東側一帯を奪還して、ウ軍装甲車1両が、最前線から約3.5km奥の、ヴェルボヴェの北西の第1防衛線ロ軍陣地に到達し、龍の歯が並べられている所をウ軍装甲車は突進している。
この装甲車は無人であり、遠隔操作で動かし、龍の歯やその前の溝がどの程度かを調べるために、送り込んだようだ。
このため、この第1防衛線に到達したことになるが、この地点は第1防衛線の次に第2防衛線があり、それを超えるとトクマクである。
そして、ウ軍はロ軍の弱点を見つけたようである。迂回作戦で多くのロ軍陣地を突破したが、街周辺のロ軍陣地は弱兵の可能性がある。
最前線に空挺部隊など熟達部隊を置いているが、動員の弱兵は重要拠点以外にいることで、街周辺では、この弱兵が防衛しているようである。
これに対して、ロミルブロガーよると、ウ軍は26日に機械化部隊による激しい正面攻撃を遂行し、ロボティネの北東方向にあるロ軍陣地を突破したのち、27日もロボティネ付近での攻撃を続けたが、その進捗ペースは落ち、その兵力もかなり少なくなっているというが、事実を見ると、それよりも相当前進しているように見える。
ウ軍も新規に機械化旅団を投入したようである。圧倒的な戦力でロ軍の弱い陣地を攻撃した可能性がある。
どうも、マリャル国防次官によると、ロ軍にパニックが広がり、脱走兵が増えている。ロ軍兵は前線に行くのを避けようとしている。ウクライナ戦場に行くのを避けるために、脱走、命令拒否、自傷行為が増加しているという。
この地域を守るロ軍第58諸兵科連合軍指揮官イワン・ポポフ少将は、「交代要員もいないことで長期にロ軍兵は前線にいることに疑問がある」と予備兵力の不足を問題視していたが、本当であったようだ。
このため、東部に移動させたロ軍空挺部隊を戻す必要になっているとも見える。第1防衛ラインを突破されると、第2防衛線には弱兵しかない可能性がある。南部防御と東部攻勢のどちらを選択するかロシア指導部(プーチン)の判断が重要になるようだ。
もう1つが、国家総動員法を発令して、弱兵を大量に動員して、ウ軍攻撃速度を落とし、早急に停戦交渉を行うことである。この時は南部を捨てる必要がある。
3.カムヤンスク軸
ウ軍は、ジェレビヤンキーの攻撃を継続している。東側のコノバロバ方向に前進している。
それと、ウ軍は、ルホベの2km以内に前進しているし、高速E105号線方向に進んでいる。ウ軍は、ここに1個機械化旅団を投入して攻撃している。
逆にロ軍は、予備大隊と第810独立海兵旅団の分遣隊を投入し、戦線を強化している。
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ウクライナの港湾インフラをミサイルとドローンで攻撃の露軍
ヘルソン州方面
ウ軍は、アントノフスキー橋の橋頭保のほかに、南西側のドニプロ川東岸に橋頭保を構築し、そこからコンカ川を渡りっている。
この位置は、重要地区オレシキーの西4kmの地点で、西と北からオレシキーを攻撃する可能性が高い。しかし、まだ戦車等の重火器を渡河させていない。
中、南部戦線を指揮するウ軍のオレクサンドル・タルナフスキー司令官は、「ウ軍は組織的に敵を押し返しており、一定の成功を収めている」と述べた。
その他方面
トクマクの兵站拠点、ドネツク市中心部などをウ軍はGMLRSで攻撃して破壊した。
クリミア半島西海岸のエフパトリアの弾薬庫、ジャンコイ市の南ノボステポベのロ軍兵器修理基地、シンフェロポリの弾薬庫がストームシャドーで破壊されている。
特にクリミア半島にあるロ軍弾薬庫、兵站拠点、基地などがドローンやストームシャドーで攻撃されているようだ。
そして、クリミアとヘルソン地方を結ぶチョンガー橋が29日朝も砲撃されたとロ報道機関は、伝えている。
ロシア南部ロストフ州のタガンログとロシア南西部サマラ州の州都サマラで、石油精製所が爆発した。ドローン攻撃でしょうね。
24日朝には、モスクワをドローンが攻撃して、軍事研究所が破壊されている。
逆に、ロ軍は26日から27日にかけて夜通し、オデーサ州などのウクライナ港湾インフラをミサイルとドローンで攻撃。ウ軍は「飛来したドローン8機すべてを撃墜した」と主張した。しかしミサイルが着弾し、港湾インフラに被害が出ている模様。
特にオデーサへの攻撃は連日、行われて、世界遺産の大聖堂なども破壊されている。穀物倉庫の被害も大きい。
このオデーサへの攻撃を封鎖するには、パトリオットが必要であり、援助してほしいとゼレンスキー大統領は述べている。
日本は、ウクライナに軍事支援ができるように、武器輸出の制限緩和の法改正を検討しているが、公明党が反対している。自公の連立政権を解消して、自維国の連立政権にする必要があるとみる。
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欧米各国で上がるウクライナ支援過多への不満の声
黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意停止と積み出し港であるオデーサ港湾施設、穀物倉庫の破壊で、世界は危機的な状況になるとみる。
特にアフリカや中南米などの発展途上国の食糧問題が出てくるし、食糧価格の高騰で、再度インフレが高騰することになるとみる。
このため、ドナウ川経由での穀物積み出しを検討しているが、そのドナウ川の港湾施設にもロ軍はミサイルを撃ち込んでいる。
ロシアの条件は、SWIFTへの接続であり、国連はその条件を飲もうとしているが、欧米諸国とウクライナは反対して、代替ルートの開発を考えている。
逆にプーチンに対して、南アのラマポーザ大統領は、「私たちは、黒海経由の穀物輸出の実現を提案しているし、私たちはアフリカへの『プレゼント』を求めてここに来たのではない。アフリカへの穀物の無償供給には敬意を払うが、それは私たちの主目的ではない」と述べて、ロシアも黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意履行に戻ってほしいと述べている。
しかし、一方で、ウクライナへの援助が、いつまで続くのか欧州諸国も不安になっている。ドナウ川経由のコスト上昇分をEU各国が持つことになり、その上国内景気も悪くなり、予算もウクライナ支援が多く、国民の不満もたまっている。早く決着してほしいという感じが出てきている。
米国でも、バイデン政権は「ウクライナにのめり込みすぎ」の声が強まっている。どちらにしても、ウ軍は早く結果を出さないと、欧米諸国は、待てなくなっている。
ウ軍情報総局のブダノフ局長も、「クリミア半島が侵略者から解放されるまでそう長くはかからないだろうし、ベラルーシのワグナー軍は国防軍にとって特に危険な存在ではない。」と述べている。ブダノフ局長も、欧米のウクライナ疲れを気にしているようである。
オースティン米国防長官も、ウ軍の軍事力に自信を表明し、同国は「成功する準備が十分に整っている」し、「彼らにはまだ多くのチャンスがある」と語った。これも、ウクライナ疲れを緩和する米国内向けであろう。
9月には米国の主力戦車「エイブラムス」がウクライナへ到着する可能性があるという。F-16は年末にはウクライナに供与される可能性がある。ウ軍の大攻勢も2023年を越えて、2024年まで続くことになるが、早期に結果を求められている。
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北朝鮮人民軍の全面支援を取り付けたロシア国防相
サンクトペテルブルクで、アフリカの40カ国以上が参加する「ロシア・アフリカ首脳会議」が開催された。
27日に開幕するのを前に、プーチンは、アフリカ6カ国に対し、「2万5,000~5万トンの穀物を無償提供する準備が3、4カ月で整う」と述べた。対象となるのは、中央アフリカ、マリ、ブルキナファソ、ソマリア、ジンバブエ、エリトリアの6カ国。
しかし、アフリカでは食料の安定確保への懸念が強まっており、首脳会議を前にアフリカへの支援をアピールした格好であるが、プーチンは「我々はアフリカ諸国への継続的な食料供給が重要だと理解しているが、米欧が妨害している」と主張した。
これに対して、アフリカ連合(AU)議長を務めるコモロのアスマニ大統領は、首脳会議閉幕にあたり「プーチン大統領は穀物供給でアフリカを支援する用意があると表明した。これは重要なことだが、十分ではない。(ウクライナ)停戦を実現する必要がある」と述べ、また、「ロシアとウクライナの危機が続けば、ロシアとアフリカの将来的協力関係も損なわれる」とも述べている。
そして、ロシアは、アフリカ諸国への230億ドルの債務を帳消しにすると、プーチンはいう。また、プーチンは、ロシアがアフリカ大陸諸国の発展のために追加の9,000万ドルを割り当てるとも述べた。
しかし、この会談は、ロシアにとって失敗したようである。ロシアが期待したのは、「穀物合意などなくともロシアもアフリカもびくともしない」というメッセージを打ち出すことでしたから。
この首脳会談には、プリゴジンも近くの自分が経営するホテルで、アフリカの首脳と会談をしている。
もう1つ、ロ軍にも弾薬の不足があり、ショイグ国防相は、北朝鮮を訪問して、北朝鮮が持つ弾薬を買い取るようであり、穀物とのバーターの可能性もある。
北朝鮮の強純男国防相も、ロシアを全面的に支持すると述べている。両軍は協力関係を促進するようである。ということで、取引成立のようである。
ロシア国内の兵役義務の対象年齢は18-30歳に広げたが、ロ軍が前線で負け始めている。この状況を改善するためには、大幅な増員が必要であり、総動員令を出す必要が出てきたようである。
プーチンをしては、2024年の大統領選挙後にしたいが、とうとう、ウ軍が第1防衛線に迫り、このままにすると、防衛ラインを保持できなくなる。ロ軍も総動員体制で臨むしかないようである。
ロ軍の弱さが際立ち、プーチンはロ軍に期待できなくなっている。このため、戦争遂行に不安をかかえるプーチンは、来年から地方自治体による軍設立を合法化することにした。地方軍閥を認めるということになる。まるで、中世のようなロシアである。
ロ軍の上層部は、汚職が蔓延して、真面な装備が前線に届いていない現実があり、その点、ワグナー軍は、軍事的な利益を求めるので、内部の汚職を認めていないことで、軍装備が確実なのである。
もう1つ、ポーランドのマテウス・モラヴィエツキ首相は、ベラルーシのワグナー軍の100人以上の戦闘員がスバルキ回廊に向かって移動していると述べた。このため、ポーランドとリトアニアは、ベラルーシとの国境を閉鎖した。
さあ、どうなりますか?
(『国際戦略コラム有料版』2023年7月31日号より一部抜粋、続きはご登録の上、7月分のバックナンバーをお求め下さい。初月無料です)
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