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韓国から産婦人科医が“超高速”で減り続けている。原因は「制度と訴訟」か?

韓国では産婦人科の医師が激減していることが問題となっているそうです。今回の無料メルマガ『キムチパワー』では韓国在住歴30年を超え教育関係の仕事に従事している日本人著者が、なぜ産婦人科を目指す医師がいなくなっているのかについて詳しく解説しています。

韓国から産婦人科がなくなりそう

啓明(ケミョン)大学東山(トンサン)病院産婦人科のペ・ジンゴン教授(高危険産婦新生児統合治療センター長)は24日、ニュース1との電話インタビューで、「産婦人科で産婦の妊娠と出産を扱う産婦人科は3D(難しくて危険で汚い極限職業)だが、今のような制度の下で誰が簡単にお金を稼げる皮膚美容を選ばずに産婦人科を選ぶだろうか」と声を高めた。

子供を産む人口も減っているうえ、労働に比べて大金を稼げないため、産婦人科を専攻しようとする医師が急速に減り、韓国は産婦人科が危機に陥っている。

9月1日に、オープンして32年になる蔚山広域市の大型産婦人科専門病院が無期休業に入ったのに続き、光州広域市に位置する大型産婦人科病院が30日に廃業を決めた。

長い間、地域で新生児を受け入れてきたこれらの病院が閉鎖を決めた理由は明らかだ。低い報酬問題と下落をつづける出産率で病院運営がこれ以上耐えられない状況に至ったためだ。病院が閉鎖されて直撃弾を受けることになったのは、結局産婦たちだ。ここに通っていた産婦と患者は新しい病院を探さなければならない境遇となってしまった。

このように地域拠点の役割をする産婦人科が消えれば、結局、高危険産婦や出産が差し迫った場合、子供を受け入れてくれる病院を訪ねてあっちこっちを「ぐるぐる」回るしかなくなる。

国会行政安全委員会所属のある議員が消防庁119救急課に提出された資料を分析したところによると、病院までの移送距離が20km以上の妊婦は最近3年間で4315人と集計された。「ドクター・ヘリ」に乗って産婦人科に移動した産婦も最近5年間で9人に達する。

問題は、これまで地域拠点で産婦を管理し、子供を受け入れてきた病院級規模の産婦人科が消えることにとどまらない。産婦人科医自体が超高速で減っているという点がさらに大きな問題だ。産婦が、山を越え海を渡ってドクター・ヘリに乗って大きな病院に移送されてきても、子供を受け入れてくれる医師がない最悪の状況が非常に近い将来に繰り広げられる可能性があるという話だ。

三星ソウル病院産婦人科のオ・スヨン教授は、「産婦人科を選択してインターン(修練医)、レジデント(専攻医)、チーフ(医局長)、専門医を経てフェロー(臨床医)に至っても、約3年後には産科を辞めるケースが80%~90%に上る」とし、「産科の場合、高危険患者が来ると明け方にも手術をしなければならない状況になるが、がんばって持ちこたえてきても結局、『教授のようには生きられないようだ(すいません)』という話をして去っていく」と話した。分娩という生命誕生の瞬間を助ける医師になるという心構えで産婦人科を選択しても、現実の壁に結局背を向けるという話だ。

彼らが苦労して選んだ産婦人科に背を向ける理由は、いわゆる「ワークライフバランス」を取ることができない産婦人科の特性もあるが、最大の理由は不可抗力的分娩医療事故に対する訴訟にある。

江東慶煕大学病院産婦人科のソル・ヒョンジュ教授が2020年12月から2021年1月まで産科教授120人、4年目の専攻医82人、専任医28人にアンケート調査を実施した結果、4年目の専攻医および専任医の47%が「専門医取得および専任医修練以後は、分娩を担当しない」と答えた。彼らが産科をあきらめる理由の79%は「分娩関連医療事故の憂慮および発生に対する心配」のためだった。

ソル教授は「産科を選ぶと答えた場合にも、現在分娩を行うのに最も心配な部分として75%が分娩関連医療事故の懸念及び発生を挙げた」とし「若い医師の最大の悩みは分娩関連医療事故とこれによる医療訴訟のストレスだった」と述べた。産婦人科を選んで修練病院で大変な時間を耐えて修練をして去る医師の数が多くなるということは、それだけ教授の数も減るということだ。

実際、医療現場ではこのような空白を自ら感じている。大韓産婦人科学会によると、2004年に259人だった新規産婦人科専門医は今年102人と、20年ぶりに半分以下に急減した。全国95の修練病院に勤める産科教授は125人に過ぎない。専攻医を指導する専任教員が修練病院に1.3人しかいないという意味だ。

オ・スヨン教授は「総合病院(修練病院)では産科教授が4人程度でなければ後輩を養成し、医療の質も高めることができないが、現在専任医のいない病院が全国修練病院の3分の2に達する」とし「現場の状況を見ると、ただもどかしい」と吐露した。

産婦人科を専攻し、修練病院で患者を相手に多様なケースを経験し、熟練度を積んでいく医師がいないということは、結局新しく入ってくる医師を教育する医師がないという意味だ。

ペ・ジンゴン教授は「医療行為は単純に本を読んで学ぶことだけではない」とし「熟練した医師がいないという話は本当に危険な問題を解決できる方法を見つけられないという話だが、文字通りめちゃくちゃな状況」と声を高めた。

産婦人科を専攻するという若い医師が日増しに減っているのも大きな問題だ。国会保健福祉委員会所属のイ・ジョンソン国民の力議員が公開した「2023年度下半期科目別専攻医志願率」によると、今年下半期専攻医志願で52人募集人員のうち、たった4人だけが産婦人科を志願した。

このような問題は産婦人科は相対的に高強度労働が必要だが、報酬さえも低すぎて若い医師たちの誘引策として作用するほどの点が全くないということにある。実際、帝王切開の初産費用は40万ウォン(4万4000円)だが、所要時間が似た腹腔鏡下胆嚢切除術は93万ウォン(10万3000円)の報酬が策定されている。その上、帝王切開は時間を決めて進行することもできないだけでなく、事故が起きれば訴訟の危険もある。

オ・スヨン教授は「若い医師たちを来させるためには基本的に報酬の現実化が必要だ」とし「国際学術大会に行って韓国の分娩報酬を話せば、他国の医師たちが『とんでもない』と言うほど恥ずかしい水準」と話した。

それと共に「産婦人科のこのような総体的な問題は10年以上続いたが、解決されず結局このような状況に至ることになり現場では疲れ果てた状況」とし「すでにかなり遅れてしまったが、今からでも政府は真正性を持って特段の対策を用意しなければならない時」と述べた。(ニュース1参照)

(無料メルマガ『キムチパワー』2023年9月25日号)

image by: Shutterstock.com

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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