10月13日の会見で、体調不良のため衆院議長は辞任するものの、議員活動は継続するとした細田博之氏。国民が求めていた旧統一教会との関係性についての納得のゆく説明もなく、一部の識者からは「ジャニーズ以下」との声が上がるほどのお粗末極まる会見となってしまいました。この会見を取り上げているのは、元全国紙社会部記者の新 恭さん。新さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で今回、記者と細田氏との間で交わされた「珍妙なやり取り」を紹介するとともに、そこから見て取れる「細田氏に統一教会との関係への真摯な反省がうかがえない理由」を推察。さらに彼のみならず、自民党全体のあまりの自浄能力の無さを厳しく批判しています。
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安倍氏が死んだからバレた。細田議長「統一教会問題」認識の程度
統一教会(現・世界平和統一家庭連合)との関係について、かたくなに口を閉ざしてきた細田博之衆議院議長が、体調不良を理由に議長を辞任することになり、参加人数と時間が制限された記者会見の場で、統一教会関連の質問にも答えた。
衆議院記者クラブの面々が待ち構える会場に細田氏はおぼつかない足取りで登場した。いかにもよわよわしい声で、耳を澄まさなければはっきり聞き取れない。それでも、議長はやめるが、議員は続けたいので選挙には出ると宣言し、「もう十分お答えした」と会見を切り上げるなど、“枯淡の境地”に達することのできない政治家の“妄執”を垣間見せた。
今年7月に初期の脳梗塞を発症し、血栓溶解薬を飲んでいるため、2年前にレーザーで前立腺肥大の手術をしたところから膀胱内に出血することがある。そうなると入院が必要なので議長を続けたら迷惑がかかるというのが辞任についての説明だ。だが大した病気ではなく、いわば持病を抱えたようなものだから議員はできるのだと弁解した。
なるほど、健康問題なら仕方がない。議長が大変なのはよくわかる。しかし、議員とて真剣にやれば激務のはず。後進に道を譲り、ゆっくりと余生を送るのも世のため人のためである。まさか、あまりにもおいしい“議員特権”に執着しているのではないだろうが…。
それにしても気になるのは、声の弱さである。病人らしく装っているのか、それとも事実そうなのか。
もともと記者会見においては、声をしっかり出力しないタイプの人である。小泉政権の官房長官だった時代から変わらない。それでも、演説やスピーチではけっこう声を張り上げる。
統一協会系の団体「UPF」が2019年10月に開いた国際会議に出席したときが、そうだった。
当時、自民党清和会(現・安倍派)の会長だった細田氏は、韓鶴子UPF総裁が入場すると、他の参加者とともに起立して拍手で迎え、その後、スピーチに立った。
「韓鶴子総裁の提唱によって実現したこの国際会議の場は、たいへん意義深い」「今日の盛会、そして会議の内容を安倍総理にさっそく報告したいと考えております」
このハイテンションのスピーチ映像は、細田氏本人にとってこの世から消し去ってしまいたいほど、統一教会との蜜月関係を裏づけるものだろう。
今回の会見で、統一教会との関係を問われ、わざわざ自らこの発言を取り上げて弁明したのも、怪しさを上塗りするだけだった。
「安倍元首相にもよろしく申します、と言ったが、安倍総理には伝えていない。第一、伝える必要もない。ちょっとサービスで申し上げただけ」
安倍氏に伝えなかったことは、細田氏と統一教会の関係が深かったことと何ら矛盾しない。我々は、事実で判断するしかない。細田氏は過去8回も、教会関連団体のイベントや会合に出席している。それをどう説明するのか。
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なぜ細田氏には統一教会との関係への真摯な反省がうかがえないのか
2016年に統一教会が立ち上げた「世界平和国会議員連合(IAPP)」の創設大会が参議院議員会館で開かれ、当時の閣僚5人を含む63人の国会議員が出席した。日本の議員連合の名誉会長が細田氏だった。
細田氏には、国政選挙において、自派閥に関係する候補者への教会票の割り振りに関与した疑惑もある。
統一教会関連のイベントに2020年から3度参加した伊達忠一元参院議長がHTB北海道テレビの取材に語ったところによれば、2016年の参院選で、伊達氏が担ぎあげた全国比例候補、宮島喜文氏(元参院議員)への統一教会票の割り振りを安倍元首相に依頼し、そのおかげで宮島氏が当選したことがわかっている。昨年の参院選では教会票を井上義行氏にまわしたため、宮島氏は出馬をとりやめた。
細田氏は宮島氏の選挙については「一切関わっていない」と言うが、清和会の会長だった細田氏が、伊達参院議長や安倍首相の関与した集票工作について、まったく知らなかったとは考えられない。かつて細田氏は、選挙通で知られた竹下登元首相に「私の次に選挙に詳しい」と評されたことがある。自派閥に関係する選挙のことなら、なおさら詳しいはずだ。
細田氏は安倍元首相と統一教会の関係については、以下のように語り明確に認めている。
「(統一教会と)長い関係があったのは存じ上げている。安倍晋太郎先生や福田赳夫先生や、そういう流れがあることは知っている」
しかし、細田氏自身とは「特別な関係はない」と言い、「これまでも会合に出てくださいと言われれば出たということだ」と、教会とのつながりをなかったことにしようとする。
それほど自信をもって「無関係」を主張できるのなら、なぜこれまで説明を求める記者たちから逃げ回ってきたのか。国会でダンマリを決め込み、野党から不信任案提出の動きがあってはじめて、A4判の紙切れを数枚出したが、教会関連のイベントに8回出席したことや、選挙支援を受けたことなどを列記しているだけで、とても説明といえるものではなかった。
いつ、どのようなきっかけで統一教会と接点を持ち、どのような判断のもとに選挙支援を受け、そのイベントや会合に出席することになったのか。安倍派(清和会)に統一教会と密接な議員が多いのはなぜなのか。そして、統一教会と自民党との癒着関係が政治を歪め、カルト的な活動を野放しにしてきたことを、自民党の実力者の1人としてどう考えるのか。
そのようなことにいっさい言及せず、「特別な関係はない」とひと言で済ませ
ようとするから、逃げの姿勢ばかりが際立ち、疑念が際限なく深まるのだ。
この会見で、奇妙なやりとりがあった。「教団と関係があったことをどう受け止めているか」と記者から問われたさい、細田議長はこう語った。
「安倍晋三元首相が殺されたのと、旧統一教会の問題は全く関係がない…なぜ安倍さんが死ななきゃならないのか。7年間も支えてきた私が、どうしてここでまだ苦労しなければならないのかと、つくづく考えてきた」
誰も安倍元首相の暗殺事件のことなど聞いていないのに、それを持ち出した真意はどこにあるのだろうか。あの事件がなければメディアが統一教会の問題を取り上げることはなかった。あの事件のおかげで、メディアに説明責任を果たせとうるさく言い立てられ、心労が重なって、体調も崩した。そういう思いが発した言葉のように思える。
ひょっとしたら、細田氏に統一教会との関係への真摯な反省がうかがえないのは、事件のとばっちりを受けているという一種の被害者意識のようなものにとらわれているせいかもしれない。だとしたら、とんだお門違いである。
安倍元首相がいなくなり、清和会と統一教会がどのような付き合いをしてきたのかを誰よりも知っているのは細田氏のはずである。洗いざらいぶちまけ、膿を出し切ることこそ、教会との腐れ縁を断ち切る道である。だが、細田氏の記者会見は病気を“盾”にして、いかに答えないかを意図してのぞんだとしか理解できない内容だった。
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自浄作用なき自民が国民の間に広げる絶望的な政治不信
細田議長の辞任表明会見が行われたのと同じ10月13日、政府は世界平和統一家庭連合(統一教会)の解散命令請求を東京地裁に申し立てた。これ自体は当然のことで、裁判所の賢明な判断を待ちたいが、岸田首相のやるべきことはまだ残っている。
政治の責任について、自民党は何ら答えを出していない。すべて統一教会のせいにして、自分たちの責任を回避しようとしているのだとしたら、由々しきことである。
これまで自民党は、統一教会との間に「組織的関係はない」とシラを切り、安倍元首相と細田氏を対象から外したおざなりの自己申告調査をしただけですませてきた。しかし、自民党のタカ派と岸信介氏以来の深い関係を持つ統一教会が、清和会の支援団体とみられてきたことは、知る人ぞ知る事実だ。
教団の政界工作により、霊感商法に対する警察の捜査は打ち切られ、第二次安倍政権では、悪名の知れ渡った「世界基督教統一神霊協会」から「世界平和統一家庭連合」への名称変更が認められている。そのために、教団が正体を隠して信者を増やすことが容易になり、被害の拡大につながった。
細田氏だけではない。東京・八王子の統一教会施設をしばしば訪れていた萩生田政調会長、文科相時代に教団の名称変更を認めた下村博文氏、ナイジェリアやネパールでの教会関連団体のイベントに参加した山際大志郎氏ら、説明責任から逃げ切りをはかろうとしている政治家は枚挙にいとまがない。
人々の恐怖心を煽り、高額な献金や物品購入によって救われると言って、日本の国民から巨額のカネを奪い取り、韓国の本部に送金してきた統一教会。自民党はそれを問題視しないどころか、選挙活動などを通じて協力関係を続け、教会は議員を広告塔として利用して信者を集めてきた。この相互依存関係は本当に断ち切れるのか。
教団の解散命令請求を出すだけでは、根本的な解決につながらない。解散が確定しても、宗教法人格を失い、税制上の優遇措置が受けられなくなるだけで、宗教活動そのものは禁止されない。
どんな手段を用いてでも集票合戦に勝ちたいという、見境のない政治家の欲望が存在する限り、これからも裏で政治を動かそうという勢力はのさばるだろう。そこに自浄作用がまったく働かない自民党の現状は、絶望的な政治不信を国民の間に広げている。
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