ごく近い将来に15%に引き上げられると囁かれている消費税。防衛費増額や少子化対策のために致し方なしという声も聞かれますが、国民は唯々諾々と従うしかないのでしょうか。今回のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』では元国税調査官で作家の大村さんが、「日本の消費税は世界最悪の税金」としてその理由を専門家目線で解説。さらに低所得者に配慮のない消費税が、日本を「格差の大きい国」にしたと断言しています。
世界最悪の税金。日本を衰退に導く消費税
インボイス制度の導入により、日本はこれまで消費税納税が免除されてきた零細事業者やフリーランサーにも、事実上、消費税の納税義務が課せられるようになりました。
これにより、日本の消費税は、低所得者や零細事業者にまったく配慮のない税金になってしまいました。
世界の多くの国で、消費税のような間接税が導入されており、日本よりも税率が高い国はたくさんあります。
が、日本の消費税のように、低所得者や零細事業者にまったく配慮のない間接税というのは、世界的に稀なのです。このメルマガで何度か触れましたが、消費税というのは低所得者ほど「税負担率」が高くなる「逆進税」です。
たとえば、年収1億円の人は、1億円を全部消費に回すわけではないので、年収に対する消費税負担割合は低くなります。年収1億円の人が3,000万円程度を消費に回した場合、年収に対する消費税の負担割合は3%程度で済むことになります。
が、年収300万円の人は、必然的に年収のほとんどが消費に回ってしまいます。ということは、年収300万円の人は、年収に対する消費税の負担割合は、10%近くなってしまいます。「年収1億円の人は3%で済むけれど、年収300万円の人には10%も課す」それが消費税の実体なのです。
また消費税は零細事業者にとっても負担の大きいものです。消費税は、その建前として「消費者(客)に負担してもらう税金」ということになっています。つまり、事業者は消費税分は価格に転嫁すればいい、というわけです。
が、零細事業者の場合、そう簡単には価格に転嫁できません。フリーランスなどが請け負う料金は、フリーランス側が決めることはほとんどなく、発注側が一方的に決めてくるものです。そして、消費税が上がったからといって、料金が上がるとは限りません。決められた料金の中に消費税も含まれている、という建前になっているので、零細事業者としては文句のつけようがないのです。下手に文句をつけようものなら、仕事を発注してもらえなくなったりします。
つまり、消費税というのは、低所得者や零細事業者にもっとも負担が大きい税金なのです。
その点、間接税を導入している世界中の国々は、承知しています。だから、間接税を導入している国は、低所得者や零細事業者に様々な配慮をしています。
まず先進国では、以前ご紹介したように日本とは段違いに低所得者の社会保障が行き届いています。イギリスでは生活保護を含めた低所得者の支援額はGDPの4%程度にも達します。フランス、ドイツも2%程度あります。が、日本では0.4%程度なのです。
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世界どの国にもない日本の消費税のような乱暴で雑な税金
欧米の先進国では、片親の家庭が、現金給付、食費補助、住宅給付、健康保険給付、給食給付などを受けられる制度が普通にあります。また失業者のいる家庭には、失業扶助制度というものがあり、失業保険が切れた人や、失業保険に加入していなかった人の生活費を補助されるのです。
日本では失業保険は最大でも1年間程度しかもらえず、後は非常にハードルの高い「生活保護」しか社会保障はないのです。だから、日本では他の先進国に比べて経済理由による自殺が非常に多いのです。
しかも、これらの国々では、間接税の軽減税率も細やかな配慮があります。日本でも、今回2019年10月の増税からは、軽減税率が適用されていますが、軽減税率と言っても一部の商品が8%に据え置かれるだけですから、たった2%の軽減しかないのです。が、イギリス、フランス、ドイツでは、軽減税率が細かく設定され、食料品や生活必需品は極端に税率が低いなどの配慮がされています。
イギリスでは標準税率は20%ですが、燃料や電気などは5%、食料品、飲料水などは0%となっています。フランスでは標準税率は20%ですが、食料品などは5.5%、医療品などは0%となっています。ドイツでは標準税率は17%ですが、食料品などは7%になっているのです。
このように、間接税が高い国は、低所得者や零細事業者に手厚い配慮をしているのです。
しかも、こういう配慮は、先進国だけではありません。間接税を導入している国のほとんどで、されています。財政事情が非常に悪い国々でも、ある程度の配慮はされているのです。
世界でもっとも財政状況の悪いとされる国の消費税(付加価値税)を見てみましょう。まずはアルゼンチンです。アルゼンチンは、慢性的に財政が悪化しており、2020年にも政府が債務不履行に陥っています。アルゼンチン政府が政務不履行に陥ったのは、実に9度目であり、現在IMFの支援を受けて財政再建を行っています。財政は世界で最悪レベルと言っていいでしょう。
このアルゼンチンの付加価値税の基本税率は21%です。ですが、生鮮食料品はその半分の10.5%です。そして飲料水、書籍などは0%なのです。
次にスリランカを見てみましょう。スリランカも2022年に財政破綻をし、現在IMFの支援を受けています。スリランカの消費税(付加価値税)は、財政悪化の影響で、2022年9月に12%から15%に引き上げられました。が、スリランカでは、年間売上8,000万ルピー以下の中小企業には、付加価値税の納税が免除されています。8,000万ルピーというのは、日本円で約3,500万円です。この免税制度により、個人商店などのほとんどは消費税の納税を免除されているのです。
このように、世界でもっとも財政事情が悪い国でも、低所得者や零細事業者に配慮がなされているのです。日本の消費税のように、どんな商品にもほぼ一律の税率をかけ、どんな零細事業者にも納税義務を負わせるという乱暴で雑な税金は、世界のどこにもないのです。
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「族議員」が暗躍。真っ当な間接税すら作れぬ日本政府
それにしても、なぜ日本では諸外国のような丁寧な間接税がつくれないのでしょうか?その原因に、日本の政治の貧困さがにじみ出ているのです。
消費税導入の際、日本でも、生活必需品などを非課税にする案がありました。しかし、非課税品目を作ると、いろんな業界が自分の商品を非課税にしろと運動をしてくるのです。日本の各業界には、「族議員」と呼ばれるその業界の利益を代弁する政治家がいます。そういう政治家が暗躍し、「うちの業界は非課税にしてくれ」「うちの業界の税率は下げてくれ」と言っているのです。
それをいちいち受けていると、課税品目がどんどん減ってしまうということになってしまいます。それで、いろんなところから文句が出ないようにほぼ全品目を課税対象にし、税率も一律にしてしまったわけです。「みんな一緒なら文句はないだろう」ということなのです。
この一律税方式はあまりにも批判が大きかったので、現在は食料品などの一部の品目がわずか2%だけ軽減税率が設定されたのです。
他の先進諸国でも、間接税の非課税品目や税率の多寡を決める際は、もめたはずです。しかし、それをやらないと、ゆくゆくは、国民経済に悪い影響が出る、難しいけれども、それをやるのが、政治であり、行政のはずです。世界中のほとんどの国は、日本よりはそれができているのです。日本だけが、それができないのです。
「生活必需品の税率を低くする」ということは貧富の格差の解消にもつながります。収入のうちに占める生活必需品の割合は、低所得者ほど大きくなります。だから、生活必需品の税率を下げることは、すなわち低所得者の負担を軽くすることにつながるのです。しかし、日本ではこれができておらず、トイレットペーパーもダイヤモンドも同じ税率になっているのです。
そして「日本の消費税が低所得者に配慮がない」ということは理論だけではなく、現実の結果ももたらしています。消費税が導入される前の日本は1億総中流と呼ばれ、「低所得者、貧困層がいない国」とされていきました。が、今の日本はOECDの中でも最悪レベルの「貧困者が多く、格差が大きい国」となっているのです。日本は衰退すべくして衰退しているのです。
(メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2023年12月1日号より一部抜粋。続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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