認証試験をめぐる大規模な不正が発覚し、国内すべての生産工場の稼働を停止するダイハツ工業。日本の軽自動車市場で3割ものシェア持つ同社は、なぜこのような事態に陥るに至ってしまったのでしょうか。今回のメルマガ『和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」』では現役の精神科医で作家の和田さんが、その原因を独自の視点で考察。さらに自身の長年の人生から得たという教訓を綴っています。
終身雇用や年功序列は悪なのか。ダイハツ不正問題から見えてくること
ダイハツが認証試験で不正をやっていたことがバレて全車種が出荷停止となり話題になっている。
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同じトヨタグループの日野自動車でも昨年エンジン調査の不正があったのが記憶に新しいが、トヨタがいろいろな意味で、期限とかノルマが厳しすぎるのが問題という話もあがっている。
調べてみると、三菱、スバル、スズキそのほかと2015年以降だけでも、ものすごい数の不正が明らかになっている。
バブルがはじけて以来、日本型経営がやり玉にあげられて、終身雇用や年功序列が古いという話になっている。
ここで不正がいろいろと暴かれるには二つの側面があるだろう。
一つは、終身雇用や年功序列の時代と比べて、圧倒的に会社への忠誠心が薄れたので、内部告発などが横行するようになったということだ。
2017年の日産、2018年のスバルなどは内部調査によるものだ。
ただ、社内調査や国交省からの調査依頼によるもののほうが多い。
ここで、もう一つ考えないといけないのは、終身雇用や年功序列のシステムは、製品の品質管理には正のインセンティブになっていることだ。
このシステムで勤めている人たちは、会社がつぶれては失業するし、会社の評判が落ちると自分たちの給料が減るということがわかっている。
年功序列というのは、多くのエコノミストが批判するものだが、若い頃安い給料でものすごく働いて、中高年になったら仕事が減るのに給料が上がるというシステムだ。
若い頃、安い給料で働いている人たちは「歳をとったら楽になるから」という言葉を信じて一生懸命働く。要するに、この時期に会社に金を貸しているようなもので、それを子どもの学費や家のローンが厳しくなる中高年になって返してもらえるという合理的なシステムだ。
そして、会社がつぶれると、その借金は踏み倒されるし、会社の利益が減っても、予想通りの賃金がもらえなくなる。
だから、社員たちは会社のブランドイメージを守るために必死になる。
もちろん、この手の不正隠しのようなことをやってバレたときの心配もするだろう。
実は、終身雇用、年功序列は、製品のクオリティを守るのに役立つシステムだったのだろう。
実際、このシステムの頃の日本は、国際競争力というのは、値段の安さでなく、製品のクオリティの高さだった。
実際、私のアメリカ留学中、終身雇用で有名だったハーレー・ダビッドソンとホールマークというカード会社は、圧倒的なクオリティを誇っていた。
ただ、日本人というのは、終身雇用で雇用が保証されていてもさぼらないという不思議な信頼があるようだ。
大谷の10年契約に続いて、山本が12年契約でドジャーズに決まった。
長期間、給料が保証されていたら、さぼられたり、故障されても仕方ないし、けっこうそんな選手がいるのも事実だ。
記録的な長期契約のために、記録的な総額になっているが、くそまじめな日本人ゆえの信頼のように思えてならない。
ただ、私は、この手の長い目でみるという発想は嫌いではない。
アメリカ型の株主資本主義は、企業を短期的な利益追求に走らせる。
今回のダイハツの事件だって、そういう背景は否定できないだろう。
この記事の著者・和田秀樹さんのメルマガ
素直に受け入れたほうがよさそうな「今この時点の幸せ」
精神科の医者をやっていると、目の前のことが頭がいっぱいになっていて、先のことが考えられなくなっていることが心に悪いし、結果も悪いことが多いのがよくわかる。
たとえば、中学入試のことで頭がいっぱいになっている親は、ここに合格できないと子どもの将来がないように思ってしまう。
実際は、中学受験に落ちても、志望の大学に受かる方法はいくらでもある。
逆に、親が、中学受験のために教育虐待のようなことをすれば、子どもが勉強嫌いになってかえって大学受験に悪い影響があるなどということはざらにある。
対人恐怖の人などは、たとえば、自分の顔が赤くなるのを治さないと人に好かれることはないと思っている。
しかし、そうやって人に会わないとかえって人に好かれるチャンスを失ってしまう。
顔が赤いのを治す努力をしても、ずっと治らないかもしれない。
その時間を話術を磨くとか、笑顔を作る練習をするとかに使えば、ずっと人に好かれる可能性が高まるだろう。
私は高齢者を専門に診ているために、もっと長い目で見るということが当たり前になっているし、それが身についてよかったと思っている。
たとえば、人に嫌われてでも、出世したり、ある肩書を得たとしても、それは一過性のもので、引退したらただの人になる。
そのときに、近視眼的に出世するために、人に嫌われることが長期的なダメージが大きいことがわかる。あまりにみんなに好かれることを考えるのもメンタルヘルスには悪いが、自分の主張すべきことは主張して、引退してからも慕ってくれるようなファンが増えたほうが長期的には得だと思う。実際、私はその方針で生きている。
不思議なことに、昇進とか、受験とか、顔が赤いこととかには、将来のことをあまり考えずに、今のことに囚われることが多い日本人が、検査データには囚われる。
確かに目の前の検査データをみると、たとえば血圧が200を超えていたり、血糖値が300を超えていたり、LDLコレステロール値が200を超えていたりすると焦るのだろうが、実は、現時点で、ほとんどの場合、何も症状はない。
この値が問題なのは、将来、脳卒中とか動脈硬化が起こるとされているからだ。
先のことを心配するほうが人間として成熟しているのではないかとこれまでの文脈から思うかもしれない。
しかし、こういう検査データの異常は、先になって脳卒中や動脈硬化の可能性が多少高い(ただし、日本人対象の大規模調査はない)だけで、その10年なり、20年の間にがんが起こるかもしれないし、薬の副作用で有害事象が起こるかもしれない。
しかも、多くの人たちが先の心配のために血圧や血糖値やコレステロール値を下げているというより、今の数値が心配で、その値を下げようと焦っているように見える。
いずれにせよ、今起こっていることと、将来起こることについて、冷静な計算ができることは大切だということだろう。
私は出世するために上司に気に入られようとすること自体は否定しない。
ただ、不愉快なのに我慢するのが心に悪いし、先の結果もよくないと言いたいのだ。
歳をとってから人に好かれたいと思って、いろいろな善行を積んでいても、将来期待通りになる保証も、実際のところないに等しい。
今の不安に振り回されるのは感心しないが、今の幸せは素直に受け入れたほうがよさそうだということは、私の長年の人生からの教訓である。
※本記事は有料メルマガ『和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」』2023年12月23日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月すべて無料のお試し購読をどうぞ。12月分のすべてのメルマガが届きます。
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