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恐ろしい「プーチンの野望」は実現化するのか?2024年ロシア大統領選後の世界

開戦から2年にも及ぼうかというウクライナ戦争。西側諸国の努力も虚しく、未だ先が見えない状況が続いています。そんな中で迎える、今年3月のロシア、そして11月のアメリカ大統領選挙。それぞれの結果は世界にどのような影響を及ぼすのでしょうか。安全保障や危機管理に詳しいアッズーリさんは今回、トランプ氏の返り咲きをプーチン大統領が強く望んでいる理由を解説するとともに、ロシア大統領戦後の懸念事項を記しています。

ウクライナ侵攻から2年。ロシア大統領選を控えるプーチンの思惑

ロシアがウクライナへ侵攻してからもうすぐ2年となる。ちょうど2年前ごろ、ロシア情勢や安全保障の専門家の間では、ロシアが侵攻するかしないかの議論が激しくなり、多くの専門家は侵攻によってロシアが被るダメージが大きすぎるので、さすがにプーチンも躊躇するだろうとの見方を示していた。しかし、それは見事に裏切られ、ロシアはウクライナ北部や東部から侵攻し、我々は覇権主義国家ロシアの姿をまざまざと見ることになった。

侵攻当初、プーチンは短期間のうちに首都キーウを掌握し、ゼレンスキー政権を崩壊させ、新たに親ロシアの傀儡政権を樹立することを目指していた。しかし、時間が経過するごとにロシア軍の劣勢が顕著になり、プーチンの描くロードマップが夢物語であることが鮮明になっていった。

そうさせたのが、米国や西欧諸国によるウクライナへの莫大な軍事、財政支援だった。ウクライナに対して高性能な武器や軍事品が提供され、それが戦闘の最前線で活用され、ウクライナ軍の攻勢にロシア軍は多くの兵士を失い、ウクライナ領土に何とか踏みとどまるのが精一杯となった。昨年秋にプーチン政権が国民の部分的動員を強化したのも、ロシア軍の軍事的劣勢を顕著に示すものだろう。

プーチンが侵攻開始後2年で学んだ教訓

だが、昨年になって顕著になったのが、欧米諸国のウクライナへの支援疲れである。時間の経過とともにウクライナへの支援規模は縮小され、今日多くの国でウクライナ支援が国民から評価されるものではなくなってきている。ウクライナ軍は今年大規模な攻勢をロシア軍に仕掛けたが、期待されたような結果は出ておらず、ウクライナ自身の戦闘疲れ、ロシアの既成事実化が進んでいる。このような情勢の中、ロシア大統領選を控えるプーチンは自らに有利な環境が訪れていると自認している。その背景にはいくつかの理由がある。

まず、中国やインド、グローバルサウスの存在である。侵攻から2年が経つが、ロシアを非難し、対露制裁を実施しているのは欧米や日本など40カ国あまりに留まっており、制裁下でもロシアは安価なロシア産エネルギーに接近してくる途上国との関係を強化するなどし、その被害を最小化することに成功している。要は、侵攻しても欧米ができることには限界があり、政治的に孤立せず、経済的には非欧米諸国と関係を強化すればいいというのが、プーチンがこの2年で学んだ教訓だ。

トランプの再選が引き裂くアメリカと西欧諸国の関係

そして、既に上述したが、欧米諸国の支援疲れである。特に、プーチンは米国の行方を注視している。米国議会ではウクライナ支援について共和党から厳しい反対の意見が拡大し、米国民の間でもウクライナ支援の有効性が見えないと批判の声が上がり、支援継続を求めるバイデン政権は苦しい立場にある。

バイデン大統領は秋に選挙を抱えているので、米国は今後内向き化していくことを余儀なくされ、ウクライナ問題への関心はいっそう薄まるだろう。しかも、大統領選の相手はトランプであり、トランプが大統領に返り咲けばウクライナ支援は停止される可能性が高い。米国の支援打ち切りとなれば、米国と支援を継続してきた西欧諸国との間に大きな溝が生じるばかりか、ロシアと距離が近い東欧諸国の対米不信が増すとともに、ロシアの軍事的士気を一気に高めることは避けられない。

プーチンはそのシナリオを強く望んでいる。トランプが大統領になれば、侵攻を拡大しても対露制裁が強化されるかは不透明で、諸外国のロシア非難も限定的だと先を予測し、戦略的に動いている。おそらく、トランプが勝利すればプーチンは真っ先に祝福メッセージを送り、トランプとの関係強化に乗り出すことだろう。第1次トランプ政権時、プーチンとの関係はそれほど悪いものではなかった。

こういった有利な環境を自認する中、プーチンは3月に大統領選挙に臨む。選挙といっても対立候補者はおらず、2030年までのプーチン政権を承認するイベントに過ぎないが、ここで政治的なお墨付きを得れば、プーチンは今後6年という期間の中でウクライナ政策をどう展開していくかを具体的に考えることになる。3月の大統領選が、プーチンの野望を実現化していく好機になることが強く懸念される。

image by: Asatur Yesayants / Shutterstock.com

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

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