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台湾「親中派の敗北」は真実か。日本で報じられない台湾総統選の真相

日本でも大きな注目を集めた、13日の台湾総統選挙。結果は蔡英文総統の後継者である民進党・頼清徳氏の勝利となりましたが、「手放しで喜べない」という声もあるようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんが、その理由を分析。得票率等で明らかになった台湾での「民進党離れ」を指摘しています。

【関連】「中国との距離」に振り回された台湾人の国民感情。総統選の“得票率”が物語る台湾の厳しい現実

国民は蔡英文の外交路線を支持したのか。台湾総統選の「結果」から分かること

選挙イヤーの先陣を切って行われた台湾の総統選挙は、1月13日に投開票され、民主進歩党(民進党)の候補、頼清徳副総統が当選した。

蔡英文総統の外交・安全保障政策の「是非が問われる」と日本でも注目度の高い選挙だった。故に選挙結果は「中国との統一を拒む与党・民進党の頼清徳が、対中融和路線の野党・国民党の侯友宜新北市長らを破った」という「親中派敗北」の視点でとらえられた。

だが、実際にそんな分かりやすい勝利なのだろうか。

地元のケーブルテレビの草分け、TVBSの『選挙特番』は、むしろ「美しくない勝利」と評した。手放しで喜べない勝利という意味だが、番組内では他の多くの専門家も厳しいコメントを発していた。

やや国民党寄りとされるメディアだが、正鵠を射た評価だ。

前立法委員のコメンテーター・李俊毅は「史上二番に低い当選」として「大喜びはできない」と断じた。

今回の選挙では与党・民進党と中国国民党(国民党)、台湾民衆党(民衆党)から、それぞれ頼清徳、侯友宜、柯文哲が立候補し、政党のシンボルカラーから緑と藍と白「三つ巴の戦い」と称されてきた。それだけに前回の選挙(2020年)と単純に比較するのは適切ではないかもしれない。しかし台湾の多くのメディアが指摘するように前回との見劣りは否めないのだ。

例えば前回の選挙で817万票を獲得した蔡英文の得票率は約57%を超える。対抗馬だった韓国瑜(国民党)の38.6%と大きな差をつけての勝利だった。しかし今回は頼と侯の差は約7%で、第三の政党・民衆党にも多くの票が流れた。すべてが与党への不信任票とはいえないが厳しい結果だ。

また県及び市別の勝敗でも、この傾向は明らかだった。前回16対6で民進党が圧倒したことと比べ、今回は14対8。国民党に2つも奪われてしまっている。

頼の勝利には、民進党の特徴である南部での強みが大きく貢献した。そのこと自体には変化はないが、ここにも陰りが目立つ。4年前と比較すると台南市が約67%から51%へ、高雄市が約62%から49%へと、得票はがくんと落ちているのだ。

この傾向は接戦となった北部でさらに顕著となる。台北市、新北市、桃園市、台中市の民進党の得票率は、2020年の50%台半ばから30%台後半へ一気に後退したのだ。

専門家が「手放しで喜べない勝利」といったのもむべなるかな。

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「どこにも投票したくなかった」。台湾有権者の本音

では、その理由何なのか。

よく指摘されるのは経済だ。実際、問題は山積している。だが前回の選挙で蔡を当選に導いた最大の風は香港の民主化デモであり、それは中国のオウンゴールだった。つまり8年前に中国への警戒から蔡英文を選んだ人々が、今回は民進党から離れてしまったという解釈も成り立つ。つまり対中国での民進党離れだ。これでは頼当選を蔡政権の対外政策の支持と安易にはつなげられない。

今回の選挙は、投票率が高く、日本メディアや外国メディアの注目度も高かったが、その一方で、その熱狂に見合うほど台湾の有権者が盛り上がったのかといえば、はなはだ疑問だ。

13日、投票を終えて出てきた30代前半の男性に話をきくと、開口一番「本当は投票には来たくなかった」と、こう吐き捨てた。

「テレビを見ても候補者が相手の悪口ばかり言っていて、うんざりした。外国との関係も対立ばかりで安定しない。だから本当は誰にも、どこにも投票したくなかった」

だが、台湾の若者は中国の圧力を跳ねのけて自由を守る民進党を応援しているのでは?と水を向けてみると「そんな大げさな話はいい。どうせ何もできないんだから。そんなことより生活をよくしてほしい」とにべもない。

街で選挙を話題にしたとき、これと同じような答えが返ってくることは少なくなかった。

投票前日、初二のため土地の神を祀る線香の香りがうっすらと包むなか、供物を並べていたレストランのオーナーの男性に声をかけると、「前回は民進党に入れたが、今回は別の政党にいれる」とその理由を語った。

「新型コロナウイルス感染症対策での迷走ぶりはいまも忘れられない。生活もひどいもんだ。よくなるって兆しがどこにもない」

前回の投票で国民党を熱烈に支持した60代後半の男性は、選挙そのものに関心を失ったという――(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年1月15日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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