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社会の歪みのあおりを受ける弱者。能登半島地震が示す日本の未来

能登半島地震の発生から3週間以上が経った現在も、苦しい避難生活を強いられている被災者の方々。殊に介護やケアが必要な人々を受け入れる「福祉避難所」の多くが開設できない状況にあると伝えられています。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では社会健康学者の河合さんが、福祉避難所を巡る「山積み」とも言うべき数々の問題を取り上げ、その根本原因を考察。さらに自然災害国に住む我々一人一人が徹底的に議論すべき課題を提示しています。

プロフィール河合薫かわいかおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

自然災害国ニッポンと超高齢社会

能登半島地震が発生してから、3週間以上が経過しました。

15日時点で、輪島市の7カ所で福祉避難所が開設されています。市と協定を結んでいる福祉避難所は26カ所あるのですが、事業所も断水などの被害を受けているので、受け入れられる状態にないそうです。

本メルマガでは、「福祉避難所」の問題点を度々取り上げてきました。

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福祉避難所は1995年1月の阪神淡路大震災をきっかけに、地方自治体に設置が義務付けられました。当時、震災を免れながらその後亡くなる「災害関連死」が続出し、その中には日常生活に介護が“必要だった”高齢者がかなり含まれていました。そこで高齢者や障害者など、介護やケアが必要な人たちが、一般避難所に避難したのち必要に応じて移る二次的な避難所の設置が検討され、民間の高齢者・障害者施設と市町村が協定を結び「福祉避難所」を事前指定し、要した費用は災害救助法に基づき国が負担することが決まったのです。

しかしながら、福祉避難所は問題が山積みです。

熊本の震災のときには、ほとんどの福祉避難所が機能不全に陥り、地震発生から1週間たってもわずか70人しか入所できませんでした。熊本市の「要支援者」約3万5,000人(推定)のうち、福祉避難所を利用する人は約1,700人程度と算出されていたのに、たったの70人しか入れなかった。ひと月後でも、300人にしか達しませんでした。福祉避難所も、ケアする人も、被災したことが大きな理由です。結局、176の福祉施設のうち稼働できたのは43施設。被災地だけで対応することのむずかしさが露呈したのです。

そして、今回。高齢化率の高さに加え、断水と停電により一般的な避難所も機能不全に陥ったことはご承知のとおりです。最悪だったのは、国の災害支援が「陸路が使えなくなった場合」を想定していなかったことです。災害時には首相の権限で自衛隊に要請し、高齢者などと搬送することができるのに、岸田首相の対応は迅速とは言い難いものでした。

全国の地方自治体が早い段階で支援に入ったものの、ライフラインが復旧しない状況での支援は厳しく、支援者たちも限界に達しました。

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また、日本では弱者を優先するため、家族が一緒に福祉避難所に移動することができません。不安な状況で、一人になりたくない、家族と離れたくないという理由から、福祉避難所への移動を躊躇する家族も多かったそうです。いつだって社会の歪みのあおりを真っ先に受けるのは、社会的に立場の弱い人たちです。超高齢社会でありながら、介護などの福祉施設に対する国の支援が乏しいことも、災害時の困難な状況を生んでいる。そう思えてなりません。

石川県の7市町の49%の地区で、65歳以上の人の割合が5割を超えていたこともわかっています。最も高齢化率が高かった輪島市西部の山間にある門前町猿橋では、地区の12人全員が65歳以上だったそうです。

輪島市や珠洲市など被害が大きかった地域は、日本の未来であり、「私」の未来です。

避難生活が長期化する中、災害関連死も心配ですし、人間にとって将来の見通しが立たないことは、想像以上に心身を疲弊させます。

自然災害の国日本は、超高齢社会と防災、減災、救助をどうやって両立させるのか?徹底的に議論し、予算を増やし、実行に移してほしいし、「私」の街では、「私」のマンションではどうするのか?一人一人に考えてほしいと思います。もちろん私も「私」の中の一人です。

みなさまのご意見、お聞かせください。

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