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ジャニーズと“同じ轍”は踏まず。吉本興業が松本人志を「文春に差し出す」ワケ

1月31日には文春砲「五の矢」が放たれるなど、松本人志の性加害疑惑を報じ続ける『週刊文春』。松本は個人で発行元の文藝春秋を相手取り訴訟を提起しましたが、そこに勝算はあるのでしょうか。今回のメルマガ『上杉隆の「ニッポンの問題点」』では、かつて『週刊文春』の取材班と行動をともにした経験を持つジャーナリストでの上杉隆さんが、「松本に勝ち目がない」と断言。そう判断する理由を吉本興業という会社の体質を紐解きつつ解説しています。

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松本人志は『週刊文春」に勝てない。元気者がそう断言する理由

文春砲の直撃を食らった松本人志氏だが、芸能活動を休止して裁判に注力する方針を示した。果たして、彼の選択は功を奏するか。かつて文藝春秋や『週刊文春』取材班と取材し、多くの記事を書いてきたジャーナリストの上杉隆が解説する。

ちなみに、上杉は、『週刊文春』の顧問弁護士である喜田村洋一氏とは25年来の知己で、現在も顧問契約関係にある。また、松本人志の個人弁護士の田村政弘氏は、2009年から始まった『週刊朝日』誌上での東京地検追及の取材時、並びに検察取材のまとめ『暴走検察』(朝日新聞出版)での取材対象であった。その上杉が松本人志が文春に勝てない3つの決定的な理由を示した。

吉本興業の「組織の論理」と政府・メディアとの不健全な関係性

松本人志氏の所属する吉本興業は、長年にわたって政府やメディアと密接な関係を築いてきた。とりわけ、2012年12月の第二次安倍政権以降の10年間は、その不健全な関係がさらに強化されたといっていい。

日本全国の自治体イベントや観光PRでは、吉本の芸人が独占的にキャスティングされ、税金を原資とした「おいしい利権」を恣にしてきた。大阪万博でダウンタウンがアンバサダーに就任したのはほんの一例にすぎない。過去にもクールジャパン機構からの100億円融資や、NTTグループとの教育ビジネス構築でも吉本興業には莫大な税金が流れている。

大阪で開催されたG20の最中にも、世界的なウェブメディアである株式会社NOBORDERの取材班(8名)の取材を事実上排除しながら、一方で、ジャーナリストの訓練も受けていない吉本興業のタレントを優遇したのはそうした癒着の背景があったからにほかならない。

吉本興業といえども所詮ビジネスである。お笑いを通じた社会貢献や文化事業などと耳障りの良い言葉を羅列しているが、そもそも興業として成長してきた吉本に公共性を求める方がどうかしている。よって、松本氏以外の個々のタレントの活動や生活、端的にいえば、長年かかって作り上げた利権構造を維持するために、松本ひとりを差し出し、犠牲になってもらうのは経営の観点からいえば妥当な判断だろう。

吉本興業の歴代社長が、ここ三代連続してダウンタウンのマネージャー経験者だったということが当初、会社としての判断を鈍らせたのも事実だろう。

吉本興業からしてみれば、ここ数年の間、蜜月関係にもあった文藝春秋と本格的な全面戦争だけは避けたいところだ。文藝春秋が本気を出せば、どのような結末が待っているか、経営陣は百も承知だ。いまや守護神で口利き役の安倍晋三元首相もいない。

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組織防衛を優先する吉本興業のビジネススタイル

果たして、ジャニーズ事務所のように、組織もろとも崩壊する道を選ぶのか、あるいは、松本人志という大功労者を切ってでも、これ以上の被害拡大を食い止めるのか、その判断はそれほど難しいものではないだろう。

実際、「事実は一切ない」と強調していた吉本興業は、すぐに「聞き取り調査を進めている」と発言を転換し、松本の訴訟にも事実上関与しない方針を示した。

今年(2024年)で112年の歴史を数える吉本興業が、たったひとりのタレントのために、会社を潰すような判断をしないのは当然といえば当然なのである。

実は、過去の事件やスキャンダルでも、吉本は組織の論理を優先させてきた。中田カウス(吉本興業特別顧問)や島田紳助(司会・タレント)などの不祥事の際にも、組織防衛を優先している。その理由は、ここ10年来の吉本興業のビジネススタイルにある。

いまや芸能プロダクション最大手の株式会社である吉本興業は、パソナも驚きの「公金ビジネス」漬けになっている。古来、お笑いは権力から距離を置くことで支持を得てきた。権力を笑い飛ばすことで、一種の社会的な清涼剤となり、庶民の快哉を代弁する形になっていた。

だが、今日、価値紊乱であるべき吉本興業が、政府の下請けに成り下がっている。悲しい限りではないか。

政府の君側の奸に成り下がっただけではない。いまや吉本興業は、メディア、とくにテレビメディアの下請けにも成り下がってしまった。吉本興業のそうした不健全な関係はなぜメディアの批判に晒されないのか?それは、吉本興業の株主構成をみれば、こたえのひとつが見えてくる。

12.13% フジ・メディア・ホールディングス
8.09% 日本テレビ放送網
8.09% TBSテレビ
8.09% テレビ朝日ホールディングス

上記民放4社の大株主を筆頭に、他にも「テレビ東京」「朝日放送」「ソフトバンク」「Yahoo!」「電通」「毎日放送」「ドワンゴ」「松竹」「ドワンゴコンテンツ」「関テレ」「読売テレビ」「角川ホールディングス」「博報堂」「テレビ大阪」「博報堂DY」などのマスコミ各社が株主に名を連ねている。

吉本興業は政府のみならず、徹底したメディアコントロールによりその利権を守られてきた。これはもはやひとり吉本の問題ではなく、政府やメディアも含めた日本の社会の病理そのものだと指摘せざるを得ないだろう。これで、テレビやマスコミに吉本興業の問題を追及せよというのがどだい無理な話なのだ。そうした意味で週刊文春はひとり奮闘していると言っていいだろう。

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「スパイに注意しろ」。先輩ジャーナリストから受けた忠告

さて、吉本興業の存在において不可解なのは、メディアだけではなく、個人の知識人や文化人たちからの批判が皆無だったということだ。年間売上が500億円を超えているにも関わらず、中小企業扱いで税法上の優遇措置を受けている吉本興業が、政府や記者クラブメディアと密接な関係にあるのは想像に難くないが、なぜ個別のジャーナリストや評論家まで彼らを擁護するのだろうか?実はその仕掛けはいたってシンプルだ。

筆者は、かつて文藝春秋社員で『週刊文春』編集部にも所属したジャーナリストの勝谷誠彦氏とよく番組で共演したものだった。『たかじんのそこまで言って委員会』(読売テレビ)や『ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日)では、局入り前後に、同じジャーナリストとしてよく意見交換をしたものだった。とくに、私が、テレビ・ラジオのレギュラー時代には、官房機密費と記者クラブ問題に触れる際の注意点を、評論家の宮崎哲哉氏とともに親身になってアドバイスしてくれたものだった。

今は亡きその勝谷さんが、吉本興業についてだけ、次のように忠告してくれていたのが印象に残っている。

「上杉さん、吉本もマスコミとつながっているんですよ。そこは批判できないような番組構成になっている。ぼくは上杉さんのことが好きだから、宮哲さんとはテレビに出てほしいといつも言っている。だからこうして注意するんだけど。政治家もジャーナリストも吉本興業所属や関係者が、たくさん上杉さんの周りにはいますよ。結果としてスパイ活動をさせられています。上杉さんはニューヨークタイムズ出身だからわからないだろうけど、日本のテレビ、とくに関西では吉本の力は絶大です。吉本の批判はタブーですよ。そこは本当に注意してください」

実際に、中野寛成、松沢成文、林久美子など、与野党関係なく国会議員も吉本所属であったし、驚くことに、当の勝谷氏自身も吉本興業所属のジャーナリストだったのだ。

『週刊文春』報道を、各社が扱いだした途端に、勝負はあったのだ。吉本興業が、政府とマスコミのすべてを敵に回してまで、守る人物はひとりも存在しない。

次回は、松本人志が『週刊文春』に絶対に勝てない二つ目の理由、2023年7月の法改正について、解説する。

(次回配信号に続く)

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image by: Hideto KOBAYASHI from Machida, Tokyo, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

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