バイデン大統領による機密文書の持ち出しを巡り捜査を進めていた米特別検察官は8日、「責任能力の低下と記憶違い」を理由に大統領を不起訴とする最終報告書を発表。その後に行われた記者会見でバイデン氏は「記憶力に問題はない」と猛反発するも、ここでも記憶力の低下をさらけ出す発言を行うなど、検察の判断が正しかったことを証明する形となってしまいました。そんなバイデン氏に「大統領の仕事が務まるのか」との疑問の声を上げるのは、ジャーナリストの高野孟さん。高野さんはメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で、バイデン氏のこれまでのさまざまな「記憶力に問題があると思わざるを得ない発言」を紹介するとともに、なぜ民主党が彼を大統領候補として担ぎ続けるのかについて解説しています。
※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年2月12日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
「責任能力なし」で不起訴。米国検察が認めたバイデンの記憶力の低下
バイデン米大統領が副大統領時代に機密文書を私邸に持ち出していた事件を捜査していたロバート・ハー特別検察官は2月8日、バイデンを刑事訴追することを断念するとの結論を明らかにした。
裁判の被告にもなれぬ記憶能力で米大統領が務まるのか
バイデンは、自分の回顧録を作家に執筆させる必要から資料を持ち帰りその作家と共有し、その中に対アフガニスタン政策に関する最高機密文書が含まれていたことが問題となったのだが、ハーはバイデンが故意にそのような文書を持ち出したと判断する十分な証拠は得られなかったと述べた。
しかし検察官は、その時に発表した最終報告書の中で、大統領が聴取の中で自分の長男ボーが亡くなった年を思い出せなかった事実を指摘、大統領の「責任能力の低下と記憶違い(diminished faculties and faulty memory)」を不起訴の理由とした。
diminished capacityというと法律用語で「限定責任能力」すなわち心神衰弱などのため犯罪者の責任を軽減することを意味する。つまりバイデンの記憶力の衰えが明らかで、この件で裁判を行なおうとしても彼は被告たり得ないと宣告しているのである。ということは、一体どういうことなのだろうか。裁判の被告たり得るだけの記憶能力しかなくても米国大統領の仕事は務まるのだろうか……。
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緊急記者会見で露呈したバイデンの「記憶力の低下」
ハー検察官の発表に対し、当然、ホワイトハウスは緊急の記者会見を設定した。バイデンは「私を訴追しないという結論を下したことは大変喜ばしい」としながらも、記憶力の低下という指摘に対しては怒りの声を上げ、「私の記憶力は大丈夫だ」と胸を張った。ところがその直後に同じ会見の中で彼は、12月に3選を果たしたばかりのエジプトのエル・シーシ大統領のことを「メキシコ大統領」と言い間違え、まさしく記憶力の低下を曝け出してしまった。
メキシコとエジプトの世論は敏感に反応し、たまたま両国とも鷲をデザインした国章を3色縞の国旗の中央にあしらっていることから、その鷲を入れ替えたパロディ画像がSNS上でたちまち広がって、バイデンが国際的な恥晒しの対象となった。
しかもこれは彼にとって珍しいことであるどころか、人前で語るたびに起きているほぼ日常茶飯事である。7日にはバイデンは資金集め集会での演説で、21年1月に起きた米議事堂への暴徒乱入事件に触れ、同年6月のG7サミットの席上メルケル独首相(当時)から「仮に英紙タイムズが『英首相の就任を阻むため1,000人が議会のドアを蹴破って突入し、死者も出た』という記事が出たら、何とおっしゃいますか」と言われたとのエピソードを紹介したが、その時彼はメルケルのことをヘルムート・コールと言い間違えた。コールはもちろん1998年に首相を引退し、2017年に亡くなっている。
その3日前の2月4日にはネバダ州の選挙集会で同じく21年サミットに触れたが、その時はマクロン仏大統領のことを「ドイツの、いや、フランスのミッテラン大統領」と言い間違えた。フランソワ・ミッテランは1995年まで同職を務め、翌96年に亡くなった。
言い間違いなら負けてはいないトランプ
ほとんど支離滅裂の連続で、81歳という実年齢に照らしても平均よりヨボヨボ状態と言える。3年前の就任時からすでにその傾向があったので、側近らは出来るだけ記者会見などの露出機会を少なくするよう腐心し、過去3年間で33回と月に1回以下。さらにそこから外国首脳との共同記者会見などを除いた単独会見となると、何と14回。年に5回を切っている。そんな状態であることはワシントン政界のみならず米国内にも世界にも広く知れ渡っているというのに、民主党指導部は「バイデン再選」を目指す以外の大統領選への選択肢を示そうとしない。
どうして?トランプと戦って勝てるかもしれない候補は彼しかいないからで、つまりは米民主党それ自体が瀕死状態であることの象徴がバイデンの有様だということである。
もっとも、言い間違いなら77歳のトランプも負けてはいない。去る1月19日のニューハンプシャーでの集会では、21年1月の議事堂乱入事件に関して下院議長だったナンシー・ペロシが適切な保安措置をとらなかったことを口汚く罵ったが、その演説の間中、彼はペロシのことを民主党予備選の有力候補であるニッキー・ヘイリー元国連大使と混同し続けた。
言われたヘイリーは数日後、「大半のアメリカ人はバイデンとトランプのどちらの再戦も望んでいない。80歳前後の候補を最初に降ろした政党がこの選挙に勝つだろう」と言い放った。誰もがそう思っているのに、共和党もまたトランプ以外に民主党に勝てそうな候補を見出すことが出来ないでいる。世も末の米大統領選の様相である。
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