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安倍すごい 米国すごい 俺すごい。成蹊大出・Z世代ネトウヨ青年の悲願と「保守の再定義」にのけぞった話

伝説のテレビ番組『マネーの虎』が、『令和の虎』としてYouTubeで復活し人気を集めています。考えの甘い起業志願者が「虎」たちから激しく叱責されるパワハラスタイルは昔と変わらず、しかしコンプラにうるさい昨今だからこそ逆に面白いと評判に。ただ、そんな『令和の虎』が、学生向け身の上相談シリーズを展開するように。こちらは学生への批判は御法度らしく、大人たちが「よくわかってるね」「逆に学ばせてもらった」と若者をベタ褒めするスタンス。そこに出演したのが、安倍元首相の『美しい国へ』に感化され、母校の成蹊大学に入学したというZ世代のネトウヨ青年でした。小林よしのり氏主宰「ゴー宣道場」の寄稿者で作家の泉美木蘭さんも思わず「のけぞった」という、彼の悲願と歪んだ保守観とは?(メルマガ『小林よしのりライジング』より)

令和時代の花形はテレビでなくYouTubeから生まれる

私の弟夫婦(40代半ば)は、家にテレビを置いていない。大型モニターをネット回線につなげて、AbemaTVやYouTubeを見るのが常なので、アンテナケーブルを撤去したそうだ。災害が発生すると、以前は「テレビでNHK」だったが、今はネットでも中継しているので必要ないという。

私はというと、コロナの時は、「モーニングショー」を批判するために、毎朝8時にタイマーを鳴らし、責務としてテレビをつけていたが、もともと20年近く夜は外で働く生活をしていたのもあって、テレビを見る習慣が根付かない。

一方、ネットの動画配信サービスは、自分の都合に合わせて好きな時間に見られるので、毎日見ている。特にこの3年ほど、YouTubeの世界にプロの制作会社が入って、大きなチャンネルが増えたのもあり、ますますよく見るようになった。

でも、テレビの「マス」の影響力とは違って、同じYouTubeチャンネルを見ている人と出会うことは滅多にない。そこで、自分が面白いと思ったチャンネルを身近な人々に教えて、後日「あれ、見始めたけど面白いね」ということになれば、ものすごく盛り上がってマニアックな話をして楽しむようになる。

ネット配信で特定の番組を見る習慣ができている人は、まだそう多くないと思うが、それぞれ小さな狭い空間の中で、ごく一部の人しか知らないものをすごく楽しんでいるという状態だと思う。

で、この小さな空間のなかでも、「エッ!?」と思うことと行き当たることがある。そこで、今後たまに、私が興味を持っているYouTubeの中の世界について書いてみたいと思っている。

『令和の虎』は確かに面白いのだが、しかし──

22年前、まだテレビをよく見ていたころ、「ノーマネーでフィニッシュです」というセリフが有名になった『マネーの虎』(日本テレビ)という番組のファンだった。

起業を志願する一般人が、必要な資金を投資してもらうために、成功したオーナー社長たちの並ぶ前で、自分の考えた事業計画を説明するというリアリティ番組だ。経営のプロたちが、ありとあらゆる角度から志願者の事業内容や人間性をチェックし、手厳しく叱責したりして、滅多に交渉成立することはなく、いつも異様に緊張感が漂っているのが面白かった。

出演している社長たちはノーギャラで、本当に自分のおカネを出資していたので、予定調和がなく、ピリついていたらしい。

最近、その番組の出演者だった人がはじめた『令和の虎』というYouTube番組をよく見るようになった。

20年前に見ていた社長たちは、ヤクザと区別のつかないような威圧感強めの顔面を構える男性が多かったが、現在の社長たちはホストっぽい風貌の人が多い。20代、30代で年商数十億という女性経営者も何人かいて、出資を志願する挑戦者にも、女性は多い。

起業志願者の甘いところをガチで詰めていく様子は面白くて、白熱すると

「なめんじゃねえよ!」
「おまえ、頭どうなってんの?」
「男らしくねえなあ」
「女性は数字に弱い人が多いけど、そんな態度だと『どうせ後ろに男がいるんだろ』って思われるのよ!」

など、イマドキの社会では、一発でパワハラ・性差別認定されるような言葉も、普通に飛び交っている。

起業しても、失敗して個人で借金を背負うハメになる人がほとんどなのだから、甘い考えのまま大金を出資してもらおうと思っている志願者に対して、傷つけないように優しく接するなんてことはできないのだ。

とはいえ、成功者が寄ってたかってこんなきつい言葉で志願者を怒りまくっていたら大炎上するのでは……と思いきや、志願者に対して手ぬるかった回は、逆に番組に対して厳しいコメントが並ぶこともある。このチャンネル空間の中だけは、「誰も傷つかない社会」「強者が弱者を圧迫するな」という、世間で流行りの風潮とはまったく真逆の世界が成立しているというのも、不思議な感覚だ。

「安倍晋三になりたい」ネトウヨ大学生が登場

さて、そんな『令和の虎』、登録者数が100万人を超える大きなチャンネルになり、起業だけでなく、学生専用の身の上相談シリーズを展開するようになったのだが、そこに「大学卒業後に安倍晋三元首相のような総理大臣になりたい!」という大学生が登場したので、のけぞった。

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『美しい国へ』に感化され成蹊大へ。新世代ネトウヨの危険思想

この学生は、色白の痩せたH田という20歳の若者で、小学6年生の時に、安倍晋三の『美しい国へ』を読んで感動し、それ以来、安倍に憧れ、「総理大臣になりたい」と考えて、安倍の母校である成蹊大学に入学。

小6で政治家の新書を手に取って読むこと自体、すでに普通の子供でない利発さを感じさせるのだが、残念ながら手に取った『美しい国へ』に感化されて、あっという間に安倍に心酔してしまったらしい。

総理大臣になったら、どんな政策を掲げるのかと質問されると、H田は、「美しい国、日本を取り戻す。まずは憲法改正です」と答えた。

だが、安倍の『美しい国へ』を手に持ち、「憲法改正」を述べるH田は、なぜか胸に星条旗のプリントされた真っ赤なTシャツを着用。

「Tシャツはアメリカなんだ?」と指摘されると、「はい、アメリカがすごい好きで」「安倍さんもアメリカが好きなんです」と答えた。そして、続いて繰り出された言葉が、これだ。

保守と言う考え方自体が、そもそも親米という考え方なので。保守=親米ということですね

2月10日の「ゴー宣道場」で、「親米保守」の抱える泥のようなニヒリズムが話題になったばかりだが、20歳の若者には「保守=親米」がすっかり知識として摂取されてしまっており、「アメリカ大好き」なTシャツをさわやかに着ながら、憲法改正を目指すという凄まじいアベコベスタイルが誕生していた。

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若きネトウヨが「憲法改正をめざす」ハチャメチャな理由

では、H田は、憲法改正について具体的にどう考えているのか?

「日本国憲法は、約80年間1字も変わっていない。それゆえに、鳩山一郎という自由民主党初代総裁が『自主憲法の制定』を唱えて自由民主党という政党を立ち上げた。それから、歴代自由民主党総裁の念願としては、憲法改正が根底に常にあるということになりますね」

よりにもよって星条旗のTシャツ着ながら、それ言うか~!

鳩山一郎の言う「自主憲法の制定」は、アメリカからの押し付け憲法から脱却するぞという意味だと思うけど、そこまでは考えていないらしい。

で、そんなH田が考える改正案はというと──

憲法9条に『自衛隊』明記です
自衛隊の人たちの権利が保障されるとともに、憲法改正は史上初になる。アポロ13号のアームストロング船長が、月面に星条旗を突き立てたように、自分は日本国憲法のアームストロング船長になりたい

「偉大なアメリカ」に憧れていることはとてもよく伝わってくるが、20歳の若者の口から50年以上前のアポロ13号の例え話が出てくること自体がすごく変だった。安倍が本に書いているのか、演説で言っていたのか? とにかくH田自身の言葉ではないなということも伝わってきた。

そして、親米保守のねじくれたニヒリズムの先に絞り出された「自衛隊明記」という最悪手のバトンをしっかり引き継いだ上に、「自分がレジェンドになるために憲法改正したい」という感性が、そっくりそのまま安倍晋三の神髄だというのもまたスゴイ――(メルマガ『小林よしのりライジング』2024年2月20日号より一部抜粋・敬称略。自称保守のウソを斬る、真の保守をサポートしませんか? 旧世代ネトウヨと新世代ネトウヨの違いやH田青年と安倍昭恵のツーショット写真に踏み込むこの記事の続きや、小林よしのり氏のゴーマニズム宣言・第524回「被害者側に立たない言論は許されないのか?」、読者Q&Aコーナーなどメルマガ全文はご登録の上お楽しみいただけます)

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【著者】 小林よしのり 【月額】 ¥550/月(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4火曜日 発行予定

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