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自民の根回し妖怪・森喜朗を討ち取る裏金疑惑。清和会崩壊で放たれた刺客の名は「田崎史郎」ってどういうこと!?

自民党裏金政治の中心として政界トップに長年君臨してきた森喜朗元首相が、四方八方から疑惑追及の矢を浴び、今まさに壮絶な政治的頓死を遂げようとしています。百パーセント身から出た錆とはいえ、自民お抱えジャーナリストとして政局を鋭敏に嗅ぎ取る田崎史郎氏すら公然と『モーニングショー』で“森叩き芸”を披露しはじめた状況を、私たち国民はどう受け止めればよいのでしょうか。森氏は今度こそ命運尽きるのか?今、永田町で何が起きているのか?メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが詳しく解説します。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題「森元首相が真実を語るべき2つの重大疑惑」

裏金の切れ目が縁の切れ目、森喜朗王国の落日

御年86歳の元首相、森喜朗氏は夫人とともに都内の高級介護施設で暮らしていると聞くが、心休まるヒマがないのではないかと拝察する。

なにしろ、出てきて本当のことを言えと、世間が喧しいのである。

一つは清和会(安倍派)の裏金問題について森氏を国会へ招致すべしという声。もう一つは、東京五輪汚職事件の間違った供述を法廷に出て訂正してほしいという五輪組織委員会元理事、高橋治之被告の訴えだ。

裏金事件と東京五輪汚職。異なるこれら二つの問題、実は根っこでつながっているように思える。

「90年代の証言」(朝日新聞、2007年発刊)という本に、森氏が政治資金について語ったくだりがある。

司会者が、森氏の政治資金収入が年間5億円をこえていることをあげ「どういう政治活動に使うのか」と質問すると、森氏はこう答えた。

「やっぱり若手議員への色々な支援でしょうね。お金を貸してほしいとか、支払いができないと相談してくれば、それはやっぱり何かしてあげなきゃいかんでしょう」

司会者はさらにたずねる。「それがまた自分の派の中の仲間づくり、グループづくりにもなるわけですね」。森氏は「まあ、そういうことでしょうね」とうなずいた。

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裏金キックバックシステムの創設者

若手への支援、仲間づくり。お世辞にも政策通とはいえない森氏の政治活動の根幹はそこにある。

安倍晋太郎元外相に仕え、派閥内で力をつけた森氏は1998年から2006年まで、首相在任の1年間を除いて、清和会の会長をつとめた。その集金活動の前に立ちはだかったのは、政治家個人や資金管理団体への企業団体献金をいっさい禁止した1999年の法改正だった。

各派閥はそれ以降、政治資金パーティーの開催による資金調達に血道をあげる。企業がパーティー券を買っても献金(寄附)とみなされないという法の抜け穴を利用するためだ。

なかでも、2000年代以降に勢力を拡大した清和会の政治資金パーティー活動は派手だったが、そこにパーティー券売り上げのノルマ超過分を裏金として各議員にキックバックする仕組みが隠されていた。

その起源は森氏が会長だった時代にさかのぼるとみられていたが、このほど自民党が議員ら計91人に実施した聞き取り調査の結果でも、20年以上前からその悪しき慣行が続いてきたことが裏づけされた。

清和会の事務総長経験者たちが東京地検特捜部の事情聴取を受けながら、無罪放免になったのは、全員が「還流は会長案件であり、自分たちはあずかり知らない」と口をそろえたからだが、それが事実だとすると、森氏が最初に指示し、歴代会長に引き継がれてきたという疑いが俄然、濃くなってくる。

清和会崩壊は森喜朗氏の「終わりの始まり」

派閥のパーティー券を数多く売りさばき、できるだけ派閥の収入を増やすため、キックバックというインセンティブを設け、その気になれば議員個人のフトコロも潤うようにした芸の細かさは、親分肌の森氏ならでは、という感じがしないでもない。

最初は、集金に功のあった者への褒美のようなつもりで開始したのかもしれないが、カネの出入りを収支報告書に記載しないのは明らかに反則であり、便利な裏金としての使用を企図したものと思われても仕方がない。

それでも「みんなで渡れば怖くない」とばかりに常習化したため、今になって裏金事件として表面化し、森氏が資金と情熱を注いで育んできた最大派閥は、岸田首相の「派閥解消」の掛け声とともに、一夜にして崩壊してしまった。

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森喜朗氏に次々と降りかかる「攻撃の矢」

森氏の言動に特徴的なのは、自分は他人や組織のために一生懸命尽くしているのに、政敵や世間は一向にそれを認めないばかりか、なにかにつけ、自分に攻撃を仕掛けてくるという感情がしばしば奔出することである。

1月25日の読売新聞に掲載された以下の記事は森氏のそうした被害意識に火をつけた。

自民党執行部が、派閥による政治資金規正法違反事件を巡り、立件対象とならなかった安倍派幹部について、自発的な離党や議員辞職を求めたことがわかった。自ら身を処さない場合、党として厳重な処分を科すことを検討している。

茂木幹事長が親しい記者に書かせたとされる記事である。茂木氏の意図はわからないが、森氏にしてみれば、自分が派閥の後継会長候補と見込む“五人衆”を党から追放し、清和会を根絶やしにする動きだと受け取ったに違いない。

安倍元首相亡き後の自民党は、麻生副総裁が岸田首相と茂木幹事長を操って主流三派連合を形成、森喜朗氏が背後で最大派閥・清和会を牛耳るといった勢力図を描いていた。

攻撃の矢が自分に向けられていると森氏が感じたのもやむをえまい。

その後、森氏がどのような行動に出たかは、現代ビジネス(2月11日)の記事が詳報している。

麻生が裏で糸を引いていると見た森は、新聞が出たその日に、麻生事務所にやって来て、怒鳴り散らした。
「アンタの派閥は存続させるとか言ってるけど、勘違いしないほうがいい。アンタもすでに終わってるんだぞ!」
森の剣幕は尋常ではなかった。

麻生氏は黙ったまま聞いていたというが、たしかに派閥のパワーバランスを力の源泉としてきた麻生氏自身も、岸田首相の「派閥解消」作戦で深手を負っている。長老二人が織りなす光景を想像しながら、古き自民党が音を立てて崩れていくさまを思った。

二人とも、もうそろそろ悠々自適に暮らせばいいのだろうが、権力争いの後始末はよほど難しいとみえる。

とりわけ森氏のほうは、東京五輪汚職の裁判の成り行きも気がかりなことだろう。

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五輪ワイロ問題の責任は「自分ではなく森会長」

先述した五輪組織委員会元理事、高橋被告が、このところ「週刊文春」やTBS「ニュース23」といったメディアを通じて、森氏に求めている内容はけっして生半可ではない。

高橋氏は電通の元専務で、スポーツマーケティングのコンサル会社代表だが、東京五輪のスポンサー契約などをめぐる受託収賄事件で企業から1億9800万円のワイロを受け取ったとして起訴され、裁判が続いている。

裁判の最大の争点は、組織委理事(みなし公務員)だった高橋氏にスポンサー集めについての「職務権限」があったかどうかだ。

検察は「高橋氏にスポンサー集めなどマーケティングを担当してもらった」という当時の組織委会長、森喜朗氏の供述調書を根拠に職務権限があったとし、受託収賄罪を適用した。

これに対し高橋氏は次のように主張する。

「理事会で、マーケティングは会長に一任することに決まった。森先生にマーケティングを担当してと頼まれたことはなく、職務権限はなかった。森先生が勝手なことを言っているだけ。企業からもらったのは賄賂ではなく、コンサル料だ。森先生に法廷ではっきり間違っていたと言っていただきたい」

要するに、権限は自分ではなく森会長にあったと言いたいのであろう。

高橋氏は第2次安倍政権がスタートしてまもなく、当時の安倍首相から五輪招致活動への協力を頼まれたさい、いったんは断った。巨額のカネが動くオリンピックの裏側を熟知していたゆえだが、「絶対に迷惑がかからないようにします。それは僕が絶対に保証します」と安倍氏に言われて、東京五輪の招致にかかわるようになり、五輪組織委員会の理事におさまった。

その代償として、逮捕され、法廷に引きずり出される身となってしまった。森氏に対する強い要求には、そうした経緯にまつわる思いの全てが凝縮されている。

森氏は供述の間違いを指摘されている以上、反論なり訂正なり、法廷ではっきりした態度を示すべきであろう。

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田崎史郎氏の「手のひら返し」が意味するもの

一方、清和会の裏金問題については、意外な人物がテレビ番組を通じて森氏の国会招致を煽りはじめた。

政権との距離の近さをウリにする政治ジャーナリスト、田崎史郎氏。2月14日にはテレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」、同16日にはTBS「ひるおび!」に出演して、次のように語った。

「この問題にいちばん詳しいのは森喜朗元総理なんですよ。自民党は聞き取りをやるべきだと思うけど、やっていない。現職ではないので政倫審には呼べないが、参考人招致をぜひとも野党にはお願いしたい」

田崎氏が、森元首相の国会招致になぜこれほど熱心なのか、奇異に思われた方もいるだろう。

少なくとも、最大派閥「清和会」がしっかりと存在しているならば、森氏にもっと気を遣うはずである。だが現実に派閥は解散し、引退後も森氏に隠然たる力を与えてきた基盤は崩れ果てた。

オモテには出てこないが、おそらく自民党内では森氏に対する批判の声が強まっているのだろう。だからこそ、田崎氏が安心して“代弁”できたのに違いない。

東京五輪の負の後始末からも、派閥の裏金作りの責任からも逃げ、ひたすら他人のせいにしているのが、今の森喜朗氏の姿ではないか。

カネを集め、人の世話を焼き、仲間内の和をなにより尊ぶけれど、困ったことができると、エゴを剥き出しにして遁走する。そういう人物に、この国の権力集団だった清和会は長く支配されてきたのである。

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image by: 首相官邸ホームページ

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