MAG2 NEWS MENU

日本の「失われた30年」は本当か?経済“低成長”時代に得ていた大切なモノ

日本中が異常とも言える好景気に沸いたバブル経済が崩壊し、その後訪れた「失われた30年」と呼ばれる時代。マイナスのイメージで語られることがほとんどですが、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは「失われてばかりではなかった30年」と言います。坂口さんは今回、自身のメルマガ『j-fashion journal』で、日本が経済低成長時代に得たものを具体的に列挙。その上で、「失われた30年は日本を良い方向に導いた」と結論づけています。

失われてばかりではない30年

1.空気と水がきれいになった

バブル崩壊後、日本経済は低迷した。1990年代初頭から2020年代初頭までは、失われた30年と呼ばれている。しかし、失われたことばかりではない。

第一に、空気と水がきれいになった。バブル崩壊後、急速に日本の製造業は淘汰が進んだ。工場が減少したことは残念だったが、一方で、大気汚染、水質汚染もなくなった。全国の河川、海の水質も大幅に向上した。

一方で、中国経済は急激に成長すると共に、中国の大気汚染、水質汚染も急激に進んだ。日本企業は低価格の商品を発注し、中国企業は環境保護より低コスト経営を優先した。日本企業が法律に違反していないし、環境を汚染したのは中国企業だ。だから、日本企業に責任があるわけではない。

しかし、結果を見る限り、製造業の移転と共に環境汚染も移転したといえる。

空気と水だけではなく、日本全国の道路もきれいになった。タバコの吸殻やゴミが消えたのだ。経済成長時代は、仕事優先、お金優先であり、お金を稼ぐことが社会貢献と考えていたし、町を汚しても、お金を払って清掃してもらえばいい、という発想だった。

経済低成長時代は、頑張っても収入は増えない。社会貢献は助け合いであり、公共道徳を守ることだという認識が広がった。ごみ箱を維持するお金がないのなら、ゴミは持ち帰ればいい、と考えるようになったのである。

2.日本人のセンスが向上した

1998年、FIFAワールドカップフランス大会が開催された。あまり知られていないが、当時のパリでは「最近、街中でお洒落なアジア人が増えたね」と評判になっていた。日本人サポーターのファッションが評価されていたのだ。

高度経済成長時代のファッションはブランド全盛であり、有名ブランドの高額な服を着ていることがお洒落だった。バブル景気のジャパンマネーでパリのブランドショップの商品を買いあさっていたのだ。しかし、当時の日本人は人気がなかった。趣味の悪い成金と思われていたのだ。

しかし、バブル崩壊後、日本でもブランド離れが起きた。センスの良い若者は、古着、スポーツウェア、デザイナーズブランド等を組合せた、個性的なスリートカジュアルを楽しむようになった。そして、先進国のセンスの良い若者の共感を集めるようになったのだ。

一方で、中国が経済成長を遂げ、かつての日本人のようにパリのブランドショップで商品を買いあさるようになった。そして、成金のアジア人となったのだ。

経済の中心が日本から中国に移転し、バブリーな成金趣味のライフスタイルも日本から中国に移転した。

失われた30年の中で、日本人は謙虚な姿勢を身につけ、他人の気持ちを気づかう優しさを身につけた。そして、日本は世界から高い評価を受けるようになり、インバウンドの観光客も増加している。

この記事の著者・坂口昌章さんのメルマガ

初月無料で読む

3.オタク文化が海外にも広がった

経済成長時代は、自分の富を他人に自慢することに喜びを見いだすことが多い。高級車に乗ったり、高級なお酒を飲んだり、高級なレストランで食事をしたり。これらの行為の多くは、他人の目を意識した行動だ。また、単独の行動ではなく、カップルの行動が基本となる。異性にもてたいという欲求が強く、異性にもてている自分を他人に自慢したいのだ。

経済の低成長時代になると、他人と行動を共にするより、自分一人で趣味の世界に没頭することを好む人が増える。それがオタクだ。バブル時代にもオタクは存在したが、当時のオタクという言葉は、根暗で、コミュニケーション能力がない変人というイメージが強かった。

現在のオタクには、「自分の好きなことに熱中する純粋な人」というプラスのイメージがある。このオタクの良いイメージは世界に広がっている。

オタクは社会の価値観にとらわれず、個人の価値観を大切に考える。オタクを認めるということは、多様性を認めることにもつながる。カップルでなくても、個人が自立して生活を楽しむことも良い評価になっているのだ。

そして、オタクを許容する社会は全体主義ではなく、個人を尊重する社会でもある。

4.人に喜ばれるために働く

経済成長時代は、金を稼ぐことが正義と考える。景気の良い時代は、ビジネスチャンスも多く、当たり前のことをしていても成功できる。勿論、努力すれば、更に成功するチャンスがある。

逆に、不景気になると、努力しても簡単には稼げなくなる。チャンスは少なく、挑戦することさえ困難だ。一度失敗すると取り返しがつかない。だから、挑戦しないという空気が支配的になる。

簡単に稼げないのなら、人に喜んでもらったり、感謝されることが嬉しいと考えるようになる。人に優しく接することで金は稼げないが、感謝されることはあるのだ。

災害時には、人々の連帯が高まる。そして、人と人との絆が大切になる。日本人は、皆が困っている状況の中で自分さえ良ければいいとは考えない。それと同じように、不景気の時代も人から感謝されることを望むようになる。お金のための仕事から、人から喜ばれるための仕事へと変わっていくのだ。

社会起業家を目指したり、ボランティアに参加することは、経済が低迷してからの方が増えている。

そういう意味では、景気が後退し、失われた30年と呼ばれる時代は、日本を良い方向に導いたとはいえないだろうか。

編集後記「締めの都々逸」

「金で全てを 計るのやめて 清く正しく 生きましょう」

ひねくれた性格のせいなのか、日本が景気回復すると聞いても、またバブルの頃の下品な時代が来るのかと不安になります。最近は、バブル時代の良いことばかりが強調されますが、モラルのない時代でもありました。中国が景気後退していますが、こちらは貧すれば鈍するになりそうです。

現在、日本が世界中から高く評価されているのは、失われた30年間、日本人が謙虚になり、お金に流されなかったからだと思います。良いところを失わずに、経済が良くなれば最強ですが、さて、どうなることでしょう。(坂口昌章)

この記事の著者・坂口昌章さんのメルマガ

初月無料で読む

image by: Shutterstock.com

坂口昌章(シナジープランニング代表)この著者の記事一覧

グローバルなファッションビジネスを目指す人のためのメルマガです。繊維ファッション業界が抱えている問題点に正面からズバッと切り込みます。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 j-fashion journal 』

【著者】 坂口昌章(シナジープランニング代表) 【月額】 ¥550/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 月曜日 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け