ドジャースの大谷翔平選手と元専属通訳の水原一平氏との関係を引き裂いた違法賭博を巡る問題。一連の騒動により、アメリカ国内でもスポーツベッティングが合法の州、許されない州が存在することが広く知られることになりましたが、なぜこのような「差」が生じているのでしょうか。今回のメルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』では著者の伊東さんが、アメリカのスポーツベッティングの歴史と現状を詳しく解説。さらに日本におけるスポーツベッティング導入の動きについても紹介しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです
大谷翔平の通訳・水原一平氏が陥ったスポーツ賭博とは? 2018年、最高裁判決により解禁 「スポーツベッディング」日本にも波及
MLBドジャースの大谷翔平の通訳である水原一平氏が、大谷翔平の資金を違法なスポーツ賭博に使用したという「大規模な盗難」の疑いで解雇される。
この問題は、南カリフォルニアのブックメーカーであり、連邦捜査の対象となっているマシュー・ボウヤー氏との関連が指摘された後に明らかとなった。
大谷から水原氏への少なくとも450万ドル(約6億8,000万円)の送金が発見され、これが事件の調査につながる。最初、水原氏は大谷が、賭博の負債を返済するためにこの送金を行ったと語っていたが、後にこの主張を撤回。
メジャーリーグベースボール(MLB)も、この問題に関する正式な調査を開始。IRS(アメリカ合衆国内国歳入庁)も、水原氏とボウヤー氏が犯罪捜査の対象であることを確認している。
水原氏は2018年に大谷とともにMLBに参加して以来、通訳としてほぼ不可欠の存在となる。
二人は公の場でも常に一緒にいることが多く、深い絆で結ばれていると見られていたが、しかし、この事件によってその関係に終止符が打たれる。
そして、この問題は、スポーツ界における賭博問題の深刻さと、そのような行動がスポーツ選手やその周辺の人々に与える影響の大きさを浮き彫りにした。
スポーツ賭博とは?
アメリカでは、首都ワシントンD.C.を含む38の州でスポーツ賭博が合法。2023年、スポーツ賭博の売上は前年比で44.5%増加し、約109億ドル(日本円で約1兆6,000億円)に達した(米ゲーミング協会の報告によるもの)。
しかし、カリフォルニア州などの西部の一部の州では、ギャンブル依存症のリスクを懸念して、これを違法としている。
1992年、アメリカではスポーツ賭博を基本的に違法とするプロ・アマスポーツ保護法(PASPA)が成立。
これは、1989年に大リーグの有名選手ピート・ローズの賭博疑惑が浮上し、八百長や依存症の問題が社会的に注目されたことによる。
ただし、この時点でスポーツ賭博やスポーツくじに関する法的枠組みを既に設けていたネバダ州など西部の4州は、規制の適用外となる。
結果として、スポーツ賭博は実質的にネバダ州ラスベガスのカジノに限定され、アメリカンフットボールのNFLスーパーボウルや大学バスケットボールが佳境を迎える「マーチ・マッドネス(3月の熱狂)」と呼ばれる時期には、多くの賭け客がラスベガスに殺到した(*1)。
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2018年、最高裁判決が引き金に
一方、ニュージャージー州は、東海岸にあるアトランティックシティーを有し、スポーツ賭博を合法化するための法整備を進めていたが、PASPAの制定前に間に合わせることができない。
その後、州の財政問題や非合法賭博が問題視される中で、多くの人々がスポーツ賭博の合法化を望み、これが住民投票を経て州憲法が修正されるきっかけとなり、2012年にはスポーツ賭博を許可する法律が制定。
これに対して全米大学体育協会(NCAA)やプロスポーツ団体などがPASPA違反を理由に訴訟を起こし、初審と二審では彼らが勝利する。しかし州が上告し、この問題は最終的に2018年5月、最高裁判所の判断に委ねられた。
最高裁は、憲法修正第10条に基づき、「憲法が連邦に委ねた権限や州に委ねることを禁止した権限を除き、各州や国民が権限を持っている」として州の自治権を尊重。最高裁は修正10条に基づき、連邦政府がスポーツ賭博に関して州を規制するのは「違憲だ」と判断。
これにより、州による賭博解禁に道を開いた。この最高裁の判決時、ニュージャージー州以外にも5州がスポーツ賭博を合法化する法律を既に制定しており、さらにその判決を受けて十数州で同様の法律が提案。
その後、多くの州が税収増加を目指して賭博を解禁し、アメリカ全土の38の州でスポーツ賭博が合法化された(*2)。
「スポーツベッディング」日本にも波及
アメリカでは現在、首都ワシントンDCを含む38の州でスポーツ賭博が合法。米メディアによると、スポーツ賭博が合法かどうかは、賭けが行われる州によって決まる。
合法の州であれば、年齢制限を満たす人はどこに住んでいても賭けることができる。
一方、オンライン賭博の場合は、利用者の位置情報がGPSを通じて確認され、合法の州内でのみアプリで賭けることが可能。
水原氏の場合、スポーツ賭博が認められていないカリフォルニア州で、違法なブックメーカー(賭け屋)を利用していたことが問題に。
合法の州で、自分が関わる野球以外のスポーツに賭けていたなら、問題視されなかったとも(*3)。
スポーツ賭博は「スポーツベッティング」ともいい、日本にも波及。経済産業省は2021年に、地域スポーツの振興資金としてスポーツベッティングを検討するための研究会を開催した。
2017年、サッカーJリーグの放映権はスカパーからDAZNへと移行したが、DAZNの運営会社パフォームは、そもそも「スポーツベッティング」の運営者に対し、動画配信を行うことで急成長を成し遂げた企業だ(*4)。
■引用・参考文献
(*1)秋山信一「スポーツ賭博、大半の州で合法 最高裁の判決を引き金に続々解禁」毎日新聞 2024年3月21日
(*2)秋山信一 2024年3月21日
(*3)浅井俊典、鈴木龍司「大谷翔平選手も巻き込まれた、アメリカのスポーツ賭博の実態は 券売所で聞くと…若い男性ほどハマるワケ」東京新聞 2024年3月23日
(*4)「Jリーグの放映権について|DAZN一強の理由とは?」HALF TIME 2020年1月1日
(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2024年3月30日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
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image by: Embassy of the United States in Japan, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で, Moto “Club4AG” Miwa from USA, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons