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2人だけでは「自由」は生まれない。人気ドラマ『三体』を観て心理学者が考えた考えた“3P問題”

3月21日からネットフリックスで全世界配信がスタートした大作ドラマ『三体』。中国人作家によるSF小説が原作ですが、配信からわずか10日で視聴者累計が1,100万人を超えるなど大きな話題となっています。そんなドラマにすっかり心惹かれてしまったというのは、心理学者の富田隆さん。冨田さんは自身のメルマガ『富田隆のお気楽心理学』で今回、原作者がタイトルに選んだ物理学上の命題「三体問題」について解説するとともに、人間関係における「3P問題」について深く考察しています。

※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:三体問題

三体問題

【『三体』】

ネットフリックスのドラマ『三体』が評判を呼んでいます。私もシーズン1の8つのエピソードを一気に見てしまいました。今から、シーズン2が楽しみです。

原作のSF小説は中国人作家 劉慈欣(リウ・ツーシン 1963- )による世界的ベストセラーです。

『三体』は、2006年の雑誌への発表以来、評判が評判を呼び、次々と世界中で翻訳が出版され、累計発行部数は2,900万部(2019年時点)に及んでいます。

2015年には、SF界の金メダルとも言うべき「ヒューゴー賞」と「ネビュラ賞」にも輝きました。

学生の頃、華僑の文筆家が「中国の古典文学にはSFの題材が山のようにあります」「その内、中国人の作家が面白いSF小説を書きますよ」と話してくれたのを思い出しました。

今回は、ネタばれになってもいけませんので、物語の筋書きに触れるつもりはありません。作者の劉氏がタイトルに選んだ「三体問題(3 Body Problem)」について考えてみたいのです。

「三体問題」とは物理学上の命題です。

互いに重力が影響を及ぼし合っている3質点(例えば3つの天体)の運動がどのようなものになるのか、という問題です。ちょっと聞くと簡単そうですが、実はこれが、滅茶苦茶に難しいのです。

18世紀以来、多くの物理学者や数学者が挑戦してきましたが、あまりにも複雑すぎるので、特定の「条件」の下でのみ一般的な解が求められるというのが現状です。

ですから、天体の軌道計算や宇宙飛行の軌道計算などで「三体問題」が関わってくる場合は、数値シミュレーションや「近似手法」を用いることが多いのです。

「三体問題」はこれほどややこしいのに、質点をひとつ減らして「二体問題(二つの質点の運動)」になると、非常にスッキリと問題が解決してしまいます。

それは、「ケプラーの法則」という名前で有名になっています。17世紀、ドイツの天文学者ケプラー(Johannes Kepler 1571-1630)は、天体の運動に関する新しい法則を発見し、火星などの正確な軌道を予測することに成功しました。

ケプラー以前には、惑星の軌道は円であると信じられており、実際の観測結果との食い違いが生じていました。

ところが、「ケプラーの法則」によれば、2個の質点(物体)が影響を及ぼし合って運動している場合には、それらの軌道は「楕円」か「放物線」「双曲線」のいずれかになることが知られているのです。

たとえば、地球や火星などの惑星は、太陽を焦点のひとつとする楕円軌道を描いています。

この法則は、地球と月など、惑星とその衛星の軌道に対しても当てはまります。

2個だと、こんなにもスッキリ解決するのに、1個加えて3個になると、矢鱈めったら複雑になって、場合によっては「予測不能」な「カオス状態」になる、というのが、何とも面白いではありませんか。

そして、これは、天体などの質点といった物理現象だけの話ではないと思うのです。

ひょっとすると、人間関係にも当てはまるのではないでしょうか。

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【3P問題】

「3P問題」と書くと、ちょっとエッチなことを連想してしまうかもしれません。

それはそれで面白いテーマですが、ここではあくまで一般論として、3人の人物が生み出す人間関係上の問題、すなわち、「3 Persons Problem」について考えてみましょう。

たとえば、「三角関係」。

2人の人間の間で生じる恋愛であっても、既に充分複雑怪奇ではありますが、ここにもう1人加わって「三角関係」になると、事態は飛躍的に複雑で予測不能な状況へと発展するのです。

小説家や脚本家はこのあたりの機微を心得ていますから、自分が創り出す物語の世界にしばしば「三角関係」を持ち込みます。

恋愛において何が決着かは分かりませんが、一応、物語の上では、結婚というハッピーエンドを迎えるか、あるいは失恋の涙で一区切りつけるか、といった具合に「決着」をつけることが可能です。

ここに、もう1人加えて三角関係の恋愛ということにすれば、決着の数も飛躍的にふえるはずです。

3人の内、誰か1人が泣きを見る設定も可能ですし、3人が全て失恋の涙に暮れるといった設定でさえ可能です。

当初から愛し合っていた2人が破局して別の1人と深い仲になってしまう可能性もありますし、2人の異性の間を行ったり来たり、ズルズルといつまでも迷い続ける贅沢な悩み?状態にハマってしまうこともあるでしょう。

恋愛の結末だけでも、何通りものバリエーションが生まれます。

さらに、3人の人物にはそれぞれ他にも人間的なつながりがあるわけですから、三角関係の3人を介して、これらの人たちの間にも新しい関係が発展する可能性があり、「友だちの友だちは友だちだ」というわけで、ともすれば「2人だけの世界」つまり「閉じたシステム」になりがちな恋愛関係が、世界へと広がる「開いたシステム」に変容する可能性さえ秘めているのです。

要するに、「複雑」さが飛躍的に増し、「予測不能」な展開も期待できるのですから、ストーリーテラーにとってはたまりません。

このあたり、「3P問題」は「三体問題」に似ていると思いませんか?

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【共依存は固定的な関係】

よく社会学の先生が、「人間が3人集まるとそこに『社会』が生まれる」と言うことがあります。

1人ぼっちの存在を「社会」と呼べないのは分かりますが、面白いのは2人でもまだ社会とは呼べないという点です。

人の集団を「社会」と呼ぶためには、複数の人々が関わり合い、共通のルールに従って行動するという条件が満たされる必要があります。

たとえば、何人かの人が同じ地域に存在しても、彼らがバラバラに孤立していて、連絡も取り合わず、共同で行動することがなければ、それは社会とは呼べません。

2人の場合は、たとえ彼らが仲良しこよしで密接な関係にあったとしても、それは「相互依存」的な関係であり、2人の行動や感情は一つに結びついていて切り離すことができないわけで、その点が社会と呼ぶには難ありなのです。

たとえば、母子関係や熱愛カップルなどはいずれもべったりと結びついた「相互依存関係」にあり、これは特殊な人間関係と言うべきでしょう。

2人っきりの関係は、このように限られた「枠組み」で成り立っていますから柔軟性に欠け、融通が利きません。ですから、社会的なルールに基づいて役割行動を分担することはできないのです。

また、2人の間でトラブルが生じた場合、解決方法は限られるので、それが機能しなければ簡単に関係が崩壊してしまうのです。

先に書いたように、物理学における「三体」の挙動が複雑で、予測不能であるということは、それだけ可能性に満ちているわけです。

ですから、2人が3人になった途端、相互作用のあり方も行動も複雑になり、予測不能、つまり自由な可能性がそこに開けて来ました。

つまり、社会には、自由に意味を追求できるという機能が備わっているのです。

これに対して、二つの天体の軌道が「ケプラーの法則」でスッキリと予測できるということは、2つの質点の関係性は「限定的」であり「固定的」であると言い換えることもできるわけです。

固定的なので、軌道の予測もし易いのです。

つまり、2人の人間の「共依存的」で密接な関係性は、太陽の周囲の楕円軌道を延々と回り続ける惑星の動きのように「固定的」なのです。

固定的なものは融通性に欠け、同じことの繰り返しであり、ほとんど「自由」はありません。

共依存的な関係における自由は極めて限定的です。

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【三人寄れば…】

日本には古くから「三人寄れば文殊の知恵」という諺があります。独りでは解決のできない問題も、三人集まって考えれば、文殊菩薩(もんじゅぼさつ:知恵を司る仏様)のような妙案が生まれて来るものだ、という教えです。

これはまさに「3P問題」と申しますか、3人3様の知恵が引き起こす相互作用の可能性を分かりやすく述べた諺と言えるのではないでしょうか。

個人のプライバシーばかりが妙に尊重される(かのように印象操作された)現代の管理社会にあって、ともすれば個人は孤立していることが自由であると勘違いし、他者からの「干渉」を極端に嫌います。

これに伴い、「個性」や「独自性」といったものが他者との関係を断ち切ったところから生まれるという自閉症的誤解も広がっています。

ところが、引き籠り状態で、ネットさえあれば生きていけるという思い込みは、個人をバラバラのアトムに分解して支配しようとする管理社会の思う壺なのです。

つまり、それは共依存関係的な蜘蛛の巣(管理社会)に自ら飛び込む自殺行為です。これでは、特定個人と2人で作る共依存関係(たとえば恋愛、結婚)すら確立することができません。

ですから、小難しい理屈を並べ立てた挙句、結局は「結婚できない」「子供が作れない」というていたらくです。これでは、「陰謀論者」が言う通りで、どこぞのパラノイア集団がたくらんだ「民族浄化」戦略にまんまと踊らされていると言われても仕方ありません。

この期に至っては、古き良き時代のお伽噺として聴いていただくしかありませんが、まあ許していただきましょう。

たとえば、ハリウッド映画のような大恋愛の末めでたく結婚した2人にも、やがて倦怠期が訪れます。しかし、そんな時に、2人の間に玉のように可愛い赤ん坊が生まれて、育児休暇も取れ、3人の共同生活が始まります。

かつてのホームドラマのように、新米両親にとってはトラブルの連続ではあっても、子供という第3の新風が2人の関係をリフレッシュして、「家族」関係は新たなフェイズを迎え、バージョンアップが成されます。

このような更新を繰り返しながら、人間関係は発展的かつ創造的に進化して行き、その系(システム)の構成要素である個人もまた創造的に成熟することができるのです。

成熟は「個性化」であり、かつてユング(Carl Gustav Jung 1875-1961)が述べている通り、個性化とは「その人らしくなる」ということなのです。

「個性」や「独自性」が育まれるのは他者との濃密な人間関係を通してであり、それらが孤独な闘いや苦悩、努力などとセットになってはじめて豊かな創造性が発揮されるのです。

家族が無理なら、お友だちでも同好の士でも結構です。

「3バカトリオ」でも、「お笑い3人組」でも、「3匹の子豚」でも、何でも結構。

仲間との相互作用が生み出すケミストリーが個人の限界を突破し、本当の意味で自由への可能性を拓いてくれます。

こうしてみると、3という数字は実に不思議な数字です。

天才ニコラ・テスラ(Nicola Tesla 1856-1943)もかつて、「3、6、9という数字の素晴らしさを知れば、宇宙への鍵を手にすることができる」と語っていました。

広大な宇宙も精神の内に広がる内宇宙も、私たちの宇宙は神秘に満ちています。

その一方で、造物主は、私たちに様々な暗号あるいはヒントを与えてくれました。

「三体」「3P」「三位一体」…。

「3」という数字だけでも、私たちの好奇心を刺激してワクワクさせるのには充分です。

(メルマガ『富田隆のお気楽心理学』4月18日配信号より一部抜粋)

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