昨今メディアなどでもたびたび取り上げられるようになった「ガチ中華」なる飲食店。高級中国料理店や町中華と異なり本場の味のみを提供するガチ中華は、なぜ今日本で急激に増えているのでしょうか。今回のメルマガ『j-fashion journal』ではファッションビジネスコンサルタントでコロナ禍以前は頻繁に中国を訪れていたという坂口昌章さんが、その背景を解説。中国の経済崩壊との深い関わりを指摘しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:私をガチ中華に連れてって
私をガチ中華に連れてって
1.愉しい食事とガチ中華
ガチ中華とはガチンコ中華の略で、日本人に忖度せずに本場と同じ味の料理を出す中華料理店、あるいはその料理を指します。中には、店内は中国人だけで日本語が通じない店もあります。
私はコロナ以前は定期的に中国に出張に行っていました。最初の頃は、高級な店に連れて行かれましたが、次第に現地の人達が美味しいという店に行くようになりました。中国はとにかく食事が重要です。出張でも、何回食事ができるか、どんな料理を食べるか、どんな人に会えるか、を考えます。食事の間に仕事をするという感じですね。
中国側の人達も食事を大切に考えています。食事をしながら、仕事の核心に迫ることも珍しくありません。仕事は仕事、食事は食事という態度は信用されません。
中国の食事が好きでしたが、政治的な様々な問題、人権問題等が生じ、最早、中国とは仕事ができなくなりました。
私は中国が嫌いなわけではありせん。むしろ、中国も中国人も好きです。嫌いなのは、現政権の政治です。
よく、他人に迷惑を掛ける中国人が取り上げられますが、中国人全体が他人に迷惑を掛けるわけではありません。私は個人の問題だと思っています。人種の問題ではありません。
中国には行けませんが、中国の食事は楽しみたい。そんなことを考えている時に、ガチ中華の店が増えているという話を聞きました。
2.ガチ中華が増えた背景
日本も中国も、コロナ禍の営業制限により、多くの飲食店が倒産しました。
私は最初から飲食店の営業制限には意味がないと思っていました。そもそも日本では感染症による死亡者も一部専門家の予測ほど多くはありません。超過死亡の減少がその証拠です。
最初は未知のウイルスということで不安でしたが、次第にデータが揃ってきました。それでも、マスコミは科学的な分析より恐怖を煽る予測を優先していました。政治家も国民の生活を安定させることより、自らの権力をアピールすることを優先しました。飲食店は強制的に営業を制限され、多くの店が閉鎖され、空き店舗が増えたのです。
一方、中国でも多くの飲食店が倒産しました。仕事がなくなり、腕のよい料理人も余ってきました。こうしてガチ中華が成立する環境が整いました。居抜きで店舗を借りて、中国から料理人を呼べばいいのです。
中国の経済破綻は、富裕層、中間層の海外脱出を加速しました。日本にも中国人の移住者が増えています。中国人が高級マンションを購入しているという話も聞きます。中国人人口が増えるにつれ、故郷の味を楽しみたいというニーズも高まります。需要も供給も条件が揃ったのです。
ガチ中華は、中国人による中国人のための店でした。最初から日本人の顧客を呼び込もうとか、日本人の舌に合わせようという気持ちはありせん。
それを中国マニアの日本人が見つけ、通い始めました。日中友好の時代があり、中国生産依存の時代があり、多くの日本人は中国に通っていました。大多数は日本人向け、観光客向けの高級レストランに行っていましたが、中には現地の人と一緒に現地の料理を食べていました。
そんな日本人にとって、懐かしの味がガチ中華です。
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3.中国の食事に学ぶ
ガチ中華の店にいると、店内に飛び交う中国語の意味が分からず、疎外感を感じることもあります。自分のような客は店にとって迷惑ではないのか。周囲の中国人も自分を場違いな奴と感じているのでは、と心配になります。
でも、そんな心配は杞憂です。金払いが良く、美味しいと言って、楽しそうに食事を楽しむ客なら、国籍がどこでも悪く思うはずがありません。しかも、日本人は酒を飲みながら食事をする習慣があります。ですから、日本人の客は客単価が高いのです。
日本のガチ中華の店では、アルバイトの留学生も多く見かけます。彼らにとって、日本人の客は日本語の良い話し相手です。[
ということで、日本のガチ中華で日本人が嫌われることはありません。安心してください。
考えてみると、私が中国ビジネスが楽しいと思ったのは、中国での食事が楽しかったからです。仕事の時は話が通じなくても、食事を一緒にするだけで距離が近くなったような気がします。
また、面識もない人でも食事で一緒になることがあります。中国では食事となると、「一緒に食べましょう」となるのです。これは日本企業ではあり得ないことです。
食事の時のおおらかさと賑やかさ。とにかく明るく飯を食うというのは、日本人が学ぶべき文化ではないでしょうか。
4.ガチ中華のグループ始めました
フェイスブック上に、「私をガチ中華に連れてって」というグループを作りました。
実は、私が皆さんをガチ中華に誘っているのではなく、本当に誰かに連れて行って欲しいのです。
その理由は、ガチ中華を楽しむには、4~6人程度が最も良いから。1人とか2人では、多くの料理を楽しめません。少しずついろいろな料理を食べたくても、少人数では食べきれないからです。逆に、10人以上となると、全体で話ができません。2~3人ずつにグループ化し、勝手に話し始めます。
全体に目が届き、大鍋料理も頼める人数となると、4~6人がベストだと思います。
とりあえず、良さそうな店をリサーチするところから始めたいと思います。まずは、下見をして味や雰囲気を確認しす。予約が取れるか否かも重要な問題です。その上で、日程調整をして、募集、予約、当日集合となります。
この会の運営には、協力者が必要です。できれば、中国人留学生かOBで、性格の良い人。日本が好きで日本に溶け込もうとしている人なら最高です。
別に、ガチ中華に行くのに通訳は必要ないのですが、やはり、話せる人がいると楽しくなります。例えば、店の人の出身地を聞くとか。周囲の中国人客とコミュニケーションを取るとか。軽いコミュニケーションこそ重要なのです。
グループを作ったら、何年もご無沙汰していた人から連絡があったりと、少し手応えを感じています。昔は、勉強会やセミナーを企画し、二次会で飲むというスタイルでしたが、今回は会って食べて飲んで話して、という感じです。
定期的に会うことで、そこから何かが生れるかもしれません。
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編集後記「締めの都々逸」
「仕事忘れて 飲んでる時も 腹の大きさ 見られてる」
私から見ると、中国の繊維業界、アパレル業界の人たちは、皆、後輩のような存在です。歴史がないので、専門家がいない。それでも、社長は会社の独裁者であり、社員からは万能の神のように思われています。
中国では技術やノウハウでは人は動きません。人間的なスケール、腹の大きさが問われるのです。社長と社員は、親分子分の関係であり、社員は社長にほれ込んでいます。社長も社員に腹の大きさを見せます。社員全員を連れて宴会をやったり、場合によっては臨時のお小遣いを渡します。もちろん、すべて社長のポケットマネーです。
現在は景気が悪くなったので、そういう場面もなくなっているかもしれませんが、それでも、親分子分の関係はなくならないでしょう。(坂口昌章)
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