イノベーションの歴史をまとめあげた一冊が話題となっています。無料メルマガ『毎日3分読書革命!土井英司のビジネスブックマラソン』の著者である土井英司さんが、その読みどころを詳しく紹介しています。
【読み応えアリ。】⇒『イノベーション全史』
木谷哲夫・著 BOW BOOKS
こんにちは、土井英司です。
本日ご紹介する一冊は、イノベーションの歴史を「全史」としてまとめ上げた注目作。
著者は、マッキンゼーで自動車、ハイテク、通信等のコンサルティングを経て、ウォートンスクールでMBAを取得、現在は京都大学イノベーション・マネジメント・サイエンス特定教授を務める木谷哲夫氏です。
オビには、大前研一氏、『ファイナンス思考』著者の朝倉祐介氏、『読書大全』著者の堀内勉氏の推薦文が載っています。
『ファイナンス思考』
『読書大全』
本書の内容は、6つに分かれています。
時代を、「イノベーション『前史』」「特別な世紀」「大企業病」「資本主義のオリンピック」「ソフトウェアが世界を食い尽くす」「『超』イノベーションの未来」の6つに分けて、イノベーションがどのように進化し、世界を変えていったのか、主要なプレイヤーとともに紹介しています。
それぞれの時代にイノベーションを担った歴史的人物の紹介もあり、書き方がまたドラマチックでいい。
ざっくりとイノベーションを概観する内容のため、不足する部分はおすすめの名著で補っており、そのエッセンスも読み応えがあります。
正直、これだけで主要ビジネス書の要諦は押さえられると思います。
最近紹介した、デイヴィッド・ベイカーの『早回し全歴史』も、早回しと言いながら本質を突いていましたが、本書もその点がよく似ています。
『早回し全歴史』
教養と実務経験のある人が書くと、本ってこんなに面白くなるんだなという見本のような本でした。
さっそく、気になるポイントを赤ペンチェックしてみましょう。
イノベーションには「普及」の側面があるということが、科学技術と異なっているということです。科学的な発見や新技術の発明だけではイノベーションになりません。普及し世の中にインパクトがあること、人々の生活を変えること、経済的な価値を生み出すことで、初めてイノベーションとなるのです
イノベーション=新しさ×経済的価値
イノベーション=エミュレーション(模倣)×ディフュージョン(普及)
「スケール」というのは規模の拡大、つまり、世の中に広く普及させることであり、そのためにコストを下げたり、使いやすく実用的な改良を行ったりすることです
「新しさ」を担うのは科学者や発明家ですが、「普及」を担うのはアントレプレナー
アントレプレナーシップとはしたがって、単に会社を設立することではなく、「高い不確実性の中で意思決定できる能力」と、「新しいアイデアを世の中に普及させるための行動力」
イノベーションが起こるための前提条件
(ウィリアム・バーンスタイン)
1 私有財産制
2 科学的合理主義
3 資本の入手可能性
4 通信と移動のコスト低下
サラリーマン経営者が統治する大企業では、社会主義的な労働慣行が一般化し、アメリカ経済にはかつてのような下剋上の活力が失われてきていました
正しい判断を積み重ねることが競争力の喪失につながる
「大企業」から「個人」へ、「集権化」から「分散化」に、アメリカ社会の潮流が大転換します。シリコンバレーがその震源地でした
ゴールドラッシュは、どんな食い詰めた人間にも同じようにチャンスがあり、早い者勝ち以外全く規制のない世界でした
開発と活用を一社で完結するのではなく、開発と活用を分離すること。そして、技術の活用には既存大企業よりもベンチャー企業が向いている
都市において農業を高層ビルで何層にも積み重ねれば、必要な土地の面積は少なくてすみます。垂直農業と呼ばれるこうした構想では、直接各家庭に宅配しても運搬コストは小さく、新鮮度は損なわれなくてすむでしょう
誰もやっていない分野にいちばん初めに本格的に資源を投入すると、それだけで優位性を獲得することができます
学者が書いた本なのに、不思議と起業家精神を刺激される内容で、読んでいてワクワクしてきます。
昔勉強したはずの産業革命の歴史も、教科書以上にわかりやすく書かれており、これは良い本だと思いました。
イノベーションを起こし、社会を変えていきたいすべての人に、ぜひ読んでいただきたい教養書です。
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