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中国メディアが喝破。ウクライナの要求に応えられないG7サミットの欺瞞

6月13日から15日にかけて、イタリア南部プーリア州で主要7カ国首脳会議(G7サミット)が開催されました。居並ぶ首脳の顔ぶれについて「数カ月後にはいないかもしれない人たち」と皮肉を放ったのは、中国中央テレビ(CCTV)でした。伝えるのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、今年のサミットの主要議題2つについて解説。中国の過剰生産については選挙イヤーゆえの議題、日本メディアが前向きに報じたウクライナ支援の協定については、米大統領選後に変更される可能性があるとの見方を示しています。

いよいよEUも保護主義色と政経のネジレに彩られ始めた イタリアG7サミット

6月13日から15日まで主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)が開催された。ホスト国はイタリア。いまや欧州政治の台風の目とも言われるジョルジャ・メローニ首相が各国首脳を一人ずつ出迎え、そのシーンは世界中に配信された。

中国中央テレビ(CCTV)も複数の番組内でそれを報じたが、いくつかの番組で、「集まった首脳のなかでメローニ首相以外、誰一人数カ月先の地位が確定している人はいない」と皮肉ったのが印象的であった。

支持率の低空飛行から抜け出せずにもがく日本の岸田文雄首相は言うまでもない。7月に総選挙を控えるイギリスのリシ・スナク首相が率いる保守党は、ライバルの労働党に支持率で大きな差をつけられ、調査会社によっては第3位との結果もあり苦戦は必至だ。

6月9日の欧州連合(EU)欧州議会選挙で、極右政党の躍進を許したフランスのエマニュエル・マクロン大統領は、突然「無謀」とも評された議会の解散に踏み切り、大きな賭けに出た。ドナルド・トランプ前大統領に支持率で後れを取るジョセフ・バイデン大統領も、「もしトラ」が「ほぼトラ」になったという声が高まるなかでの政権運営を余儀なくされている。

こうした各国首脳の事情が国際情勢の先行きに不透明感を与えていることは否定できない。選挙の背後にある民意は、従来推進してきた政策や各国指導者たちの決意を揺るがす要因にもなりうるからだ。つまり、いまやG7首脳の合意や約束は一時的なものと解釈されても仕方がない。

そして、その影響が避けられないのが、G7サミットの主要議題の一つ、ウクライナ支援なのだ。会議に招かれたウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はバイデン大統領と会談し、10年間の安全保障協力協定に署名した。このニュースを前向きに報じた日本とは対照的に、中国の扱いは冷やかだった。

CCTVの番組では、安全保障協定は、「EU加盟やその先にある北大西洋条約機構(NATO)加盟を望むウクライナに、応えられないことへのエクスキューズ」という見方を示し、その上で「これはあくまで短期的な約束にしかならない」と喝破したのだ。

アメリカの外交政策に厳しい見方をする「中国ならではの解釈」と切り捨てることは簡単だが、そうではない。実際、11月の米大統領選挙でトランプが勝利すれば、外交政策は大きく変更される可能性が高く、なかでもウクライナ支援が見直されることは既定路線とも言われる。

同様に俎上にのせられた中国の「過剰生産の問題」も、選挙イヤーの国際情勢がもろに反映された議題だった。メイド・イン・チャイナをターゲットに、「過剰生産」という錦の御旗を掲げ、国際的な包囲網を築こうとするアメリカの動きは、自国の技術覇権の維持という目的のほかに、大統領選挙を見据えた「中国叩き」という要素が多分に含まれている。このことは過剰生産のメインターゲットが中国製EVである点からも明らかだ。

中国製EVは、現状、ほとんどアメリカには輸出されていない。入っていないものに「高関税をかける」と息巻くのは有権者向けの「マッチョ」アピールだ。だが、これに「EUも同調しろ」と呼び掛け、EUが応じれば話は違ってくる。中国には明らかな「痛み」が生じるからだ。そしてEUは、暫定的ながら中国製EVに最高で38.1%の関税を上乗せすると発表した。

中国製EVの価格競争力が政府の補助金で支えられているとの認識は、自動車産業界ではほとんど共有されていない。例えばドイツの三大メーカーなど、多くの自動車メーカーはこれまでに何度も公式の場で中国製EVへの関税上乗せに反対の声を上げてきた。

経済界が望まない障壁を政治が率先して作るという魔訶不可思議な現象は、アメリカでも見られる特徴的ネジレで、そこでは利害の不一致も見られる。

EU内部でも軋轢は深刻だ。EUのなかではフランスとスペインが関税上乗せに賛成し、ドイツとイタリア、スウェーデンが反対の立場をとっている。だが、東・中欧各国が関税に前向きな態度を見せているなかではドイツの声は少数だ。ただ賛成の立場のスペイン内部でも閣僚によって意見はまちまちだというように、賛否はモザイク模様で、投資家を悩ませている。

ここに今回、G7の新たな議題としてアメリカが持ち込んだ、半導体での新たな「中国排除」の動きが重なると、サプライチェーンの未来はさらに不透明感を増してくる。

半導体では、従来アメリカが掲げた「スモールヤード、ハイフェンス」という一部のハイテクを対象とした「排除」から、その範囲を大幅に広げるという。つまり、14ナノメートル以下の高い技術の製品から28ナノメートル以上も対象にするという議論だ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年6月16日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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