パリ五輪の出場権を手に入れた、バレーボール女子日本代表。監督の眞鍋政義氏が語った、選手たちの「能力の引き出し方」を無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』が紹介しています。
バレーボール女子日本代表 躍進の秘訣
パリ五輪の出場権が決定したバレーボール女子日本代表。代表監督の眞鍋政義氏はいかに個々の能力を最大限引き出しているのでしょうか。
2008年の代表監督就任から2012年のロンドンオリンピックで銅メダル獲得へと導いた歩みを振り返っていただき、世界の舞台で勝利を掴む人材・組織を育てる要諦を探ります。
※対談のお相手は、柔道全日本女子をメダルラッシュに導いた増地克之氏です。
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〈眞鍋〉
2008年の北京オリンピックでは、男子は11位、女子は5位という結果に終わりました。私は解説者をしていたのですが、もう居ても立ってもいられないといいますか、日本代表のプレーを見ながら自分ならどう戦うか、どんな指示を与えるか、自然と感情移入していました。
その中で北京オリンピック終了後、日本バレーボール協会が次のロンドンに向けて代表監督を公募することを知り、すぐ手を挙げたんです。そしてプレゼンテーションとコンペを経て、女子日本代表の監督に選んでいただきました。
当時、日本女子バレーは1984年のロサンゼルスオリンピック以来、20年以上メダルから遠ざかっていました。ですから、最初に「ロンドンオリンピックでメダルを獲る」という明確な目標を掲げました。ところが、バレーボール男子日本代表監督を務めた松平康隆さんに呼ばれた時に、目標はメダルを獲ることだとお伝えすると、こうおっしゃったんです。
「その目標を達成するのであれば、非常識を常識にするしかない」
〈増地〉
非常識を常識にする。
〈眞鍋〉
この言葉にはものすごく衝撃を受けました。
あとは、「5つの世界一をつくれ」「セッターの竹下佳江、エースの木村沙織のサーブは既に世界一、リベロの佐野優子は世界で3本の指に入るがまだ世界一とは言えない。残りは自分で考えろ」と。それで3か月くらいずっと戦略を考え、いろんな本も読みながら、サーブレシーブ、ディグ(スパイクレシーブ)、失点を少なくするディフェンスの強化など日本オリジナルのバレーを追求していったんです。
〈眞鍋〉
そのためにブロックコーチ、サーブコーチ、戦術・戦略コーチ、メンタルコーチというように、女子バレー界では初めて専門別の分業制を取り入れました。
それまで女子バレーは、伝統的に強いカリスマ性を持つ指導者が監督を務めてきたのですが、それを思い切って監督、選手、コーチが共に協力して目標に向かっていく風通しのよい組織に転換したんですね。これまでの経験からも、上からの一方通行の組織では世界で勝つことはできないと思ったんです。ミーティングでも、監督に指示されたことをやるのではなく、選手たちが自分自身で考え、行動するような風土をつくっていきました。
まあ、一部の方に「眞鍋は女子バレーを分かってない」などと随分言われましたけれども……。
〈増地〉
常識に囚われずに、組織改革を推進していったのですね。
〈眞鍋〉
あと、メディアのカメラが入ると、どうしても記者の方は私に話を聞きに来るのですが、「それはサーブコーチに聞いてくれ」というように、各担当コーチが取材を受けるようにしました。選手にしても、エースだけじゃなく、この若手にも取材してというように頼んで、皆のモチベーションを高めると共に、チーム内に不公平感が生まれないよう心掛けました。
ですから、私は監督、指導者は目標に向かってチーム全体のモチベーションを高めていくモチベーターだと言っているんです。
〈増地〉
ああ、指導者はモチベーターである。私も全く同感です。
※本記事は月刊『致知』2024年3月号 特集「丹田常充実」より一部抜粋・編集したものです
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