中国の蘇州市で6月24日に発生した、日本人学校スクールバス襲撃事件。刃物で襲いかかった男から日本人母子を救おうとした中国人のバス添乗員女性が亡くなり、日本でも大きく報じられました。今回、台湾出身の評論家・黄文雄さんが主宰するメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では、この事件が習近平政権に与える影響を考察。中国政府が今後表立って反日路線を貫くことが困難になったとして、その理由を解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:【中国】反日ができなくなった中国の焦り
中国の焦り。「日本人学校バス襲撃事件」で不可能となった反日政策
● 中国、日本人母子を不審者から守って死亡した女性に「模範称号」追叙
6月24日、中国蘇州市で、下校する子供を待っていた日本人の母子が、不審な中国人男性に襲われ、それを阻止しようとした中国人女性が死亡するという事件が起こりました。
日本人学校のスクールバスがバス停に着いたところ、近くにいた中国人男性が突然、日本人母子に刃物で襲いかかりました。これに対し、バス案内係の女性陣女性・胡友平さんは、日本人母子を身を挺して守りましたが、胡さんは刺されて重症を負い、病院に運ばれましたが、2日後に亡くなりました。55歳でした。
日本でもこの事件は大きく報じられ、胡さんに対する感謝と哀悼の声が高まりました。在中国日本大使館も哀悼声明を出し、弔旗を掲揚しました。
蘇州といえば上海から近く、呉の都であり、「呉越同舟」時代のゆかりの地でもあり、呉王の闔閭、夫差、そしてその臣下である伍子胥らが活躍した土地でもあります。
張継の漢詩「楓橋夜泊」で歌われた「姑蘇城外寒山寺」、あるいは「蘇州夜曲」でも有名で、日本人にとっても馴染みの深い都市です。
そのような場所で悲惨な事件が起こったわけですが、日本人母子が狙われたということで、当然ながら、反日感情による凶行であることが疑われました。また事件後、中国のインターネット上では、「殺されたバスの乗務員は日本のスパイだ」と中国人女性を中傷したり、日本を非難したりする書き込みが投稿されたそうです。
● 中国のネット企業が反日感情あおる投稿を規制 蘇州事件めぐり
こうした投稿が相次いだため、中国のIT大手「テンセント」や「百度」などのネット企業が反日感情をあおる投稿を取り締まると相次いで発表しました。
● 中国のネット企業が反日感情あおる投稿を規制 蘇州事件めぐり
今回の事件では、日本人が狙われましたが、死亡したのは中国人女性です。しかも日本人をかばって亡くなりました。
最近の習近平政権は、景気悪化に伴い、再び反日教育や反日機運が高まりつつありました。福島第一原発の処理水を「汚染水」と呼び、中国メディアは日本の対応を一斉に批判し、さらには日本の役所や個人店まで、中国からの嫌がらせ電話が頻発したことは記憶に新しいところです。
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中国当局が日本への悪意を煽った結果、今回の事件が起こったとしても不思議ではありません。しかし中国当局は早々に、「偶発な事件であり、世界のどの国でも起こりうることだ」と、反日教育や反日政策が原因ではないと主張しています。
しかし、ネットでは「『日本人はどうでも良いがバスと中国人女性が無事なら良かった』『なぜこういうことが起きたか、日本はよく反省しろ』など、冷淡な意見が目立っているそうです。今回の事件が直接的に反日教育が関連しているかどうかはわかりませんが、こうした罵詈雑言はどう考えても、反日教育の賜物でしょう。
● 中国・蘇州の日本人学校「バス襲撃事件」で警戒される“模倣犯”と反日運動の活発化 「以前から標的になるリスクはあった」の指摘も
この記事の著者・黄文雄さんのメルマガ
証明された「反日教育が善良な自国民を殺す」という事実
現在の中国政府は、今回の事件で非常に困った事態に陥っていると思います。表立って反日路線を貫くことができなくなったからです。反日を煽れば、日本人母子をかばって亡くなった中国人女性は、まさに当局の反日教育によって犠牲になったことになるからです。
つまり、彼女を殺したのは中国共産党だということになります。そのような声が広がれば、それは政権批判へと拡大していく可能性があります。ある意味で、これまでの中国当局による反日政策は、限界を迎えているということでもあります。
「日本鬼子」といえば、中国人を虐殺した残酷な日本人のイメージとして、反日教育ではさかんに喧伝されました。しかし中国当局がいくら日本人への嫌悪を煽っても、インターネットもあり、また、海外旅行も比較的自由な現代において、いくら日本人を悪魔のように印象操作しても、ほとんど効果がなくなりつつあります。
今回の事件は、中国による反日教育が、むしろ善良な自国民を害する結果になるということが明らかになった好例になったと思います。これからますます経済の悪化が見込まれる習近平政権にとっては、反日で人民の不満をそらすことができないのは、かなりの痛手であり、その不満は習近平政権に向かう可能性もあります。
中国は、すべてが政治の国です。スポーツ、文学、芸能、ありとあらゆるものが政治なのです。そして、それは人の生死においても同様です。
政権から見放された者は、悲惨な死が待っています。劉少奇や彭徳懐など、政治のトップにいた者でさえ、末路は悲惨でした。
今回、胡さんには「模範称号」が与えられました。しかし、いつ「親日売国奴」の汚名が着せられるかわかったものではありません。時代が変われば、すぐに評価が変わるのが、共産主義の独裁政権です。現在では中国政府が「孔子学院」を海外に数多く設立していますが、その孔子ですら、毛沢東時代には「批林批孔」ととして批判され、多くの孔子廟が破壊されました。
胡さんにしても、いずれ中国が反日活動にとって邪魔な存在だと思うようになれば、きっと「漢奸(売国奴)」として、吊し上げの対象になる可能性は低くありません。中国とはそのような国であり、共産党政権の思惑により、評価が一変するということを、再認識しておくべきなのです。
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※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2024年7月3日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込660円)。
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