深刻化する教員による児童や生徒への性加害。6月には子供に関わる仕事に就こうという人間の性犯罪歴を確認する「日本版DBS」の導入が決まりましたが、それだけでは不十分という声も多く上がっています。今回のメルマガ『伝説の探偵』では、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、学校内で性加害や暴力を受けた場合に迅速に取るべき行動を紹介。さらに現在の法制度に対して抱く率直な感情を記しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:教職員等からの性暴力などを防止する法律について
教職員等からの性暴力などを防止する法律について
NPO法人相談窓口の実態
相変わらず、NPO法人ユース・ガーディアンには相談が多い。
要はそれだけいじめ問題が多く、学校や教育委員会がそれに対応せず、放置状態になっているということだ。ただし、相談の中には全く関係が無いもの、子どものいじめ対応なのに大人のいじめも対応しろと迫るもの、相談者を装った他団体からの調査、精神を病んでいるのかいじめ被害がないのに被害者を装うものもある。
特に、被害保護者を装う相談と対象外の相談に対応しろと迫る者は厄介だ。対応できない旨を伝えると、ネットで酷いところだと拡散してやると脅されたり、事実として、書き込みをされたりコメント欄を荒らされるということもあった。この相談対応をしてボランティアスタッフを辞めたいとスタッフから言われてしまうこともある。だから、私は相談スタッフや受付をしたスタッフが所属や名前を名乗ることを禁じ、担当者という概念はないと決めたり、あまりに酷い場合は警告書の発行を行うなど、したくはないがせざるを得ない状況になるケースもある。
相談窓口を持っている友好団体の方々にも聞いてみたが、大なり小なりどこも同じような状況のようだ。
ある団体の長は、社会貢献活動をするとどうしても発生する付き物のようなもので、どこに目を向けるかが大事だと世間には言っているが、モチベーションが著しく下がるのは人間だから仕方ないと話していた。それについては私も同感だ。
一方で、児童生徒間のいじめ問題ではないが、不適切指導や体罰問題は深刻なものが多く、一部相談対応するケースもある。教員加担のいじめやいじめを誘発する指導など、普通の感覚で被害者の話を聞いたら、そんなこと起きるはずないと想像がつかない被害も現実として起きている。そして、これらは相談したり被害を申告するところがあまりに少なく、特に性被害などは時折加害教師が逮捕されたりするが、それは氷山の一角であろうし、その後なぜか不起訴になるものも多い。
私が代表を務めるNPO法人ユース・ガーディアンの6月中旬から7月第1週において、性被害の疑いがある相談が相次いだ。センシティブな問題であるため詳細は控えるが、下は小学生から男女問わずの相談であった。
よって、今回は、当然我々に相談してくれてもよいのだが、令和3年に公布され、令和4年4月1日から施行された現在運用されている法律である「教育職員等による児童生徒性暴力の防止等に関する法律」があることを、まずは多くの方々に知ってもらいたい。
これは、大人だけでなく被害当事者となるこどもたちに広く知ってもらいたいのだ。
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東京都では
東京都教育委員会は、2022年に児童生徒を教職員等による性暴力から守るために第三者相談窓口を設けた。各記事などによると、第三者が相談を受けるというのが画期的で、弁護士さんが相談をうけてくれるようだ。
さて、2024年6月下旬に2023年度の相談数などの報告があったが、2023年度は1,011件で初年度のおよそ4倍となった。
4倍になった理由としては、「体罰や不適切な指導」として、生徒らが教職員に関する不安など「傷つく言葉を言われた」などの項目を追加したためだろうとし、性暴力が疑われる事案自体は減少していると都教委は発表している。
● 児童・生徒を教職員等による性暴力から守るための第三者相談窓口(東京都の相談窓口)
これは、東京都教育委員会の取り組みであるから、他県にこのような相談窓口が無ければ管轄外となり、東京都に千葉県のことを相談しても東京都は動きようもない。吉野家の牛丼をつゆだくで頼んだのにつゆだくではない牛丼が出てきたと松屋に文句を言いに行くようなものだからだ。
ただし、令和3年に「教育職員等による児童生徒性暴力の防止等に関する法律」が公布され、令和4年4月1日から施行されているはずだから、何らかの窓口が各都道府県にあるはずなのだ。
検索してみるとだいたいの都道府県には相談窓口はあるようだった。不適切指導や体罰、性暴力やセクハラに悩むのであれば、まずは公共の相談窓口に相談するのがよいだろう。
報道される事件をみて、ハナから信用できない、どうせ隠蔽されるんでしょと相談しない選択をするのは賢い選択とは言えない。まずは相談する、これはおよそ記録され、いつ誰に相談したか、どのような内容であったかは表に出ないのは当然だが、記録されるはずで、後に何らかの隠蔽にあったとしても記録自体を消すことは原則できないだろう。
事実として、東京都の相談窓口のケースでは、性暴力が疑われる相談から2件について事実確認があり懲戒処分をしているとのことだ。
だからこそ、被害を受けたらまず正規のルートに相談することは、回り道でも無駄な事ではなく、記録を残すという意味では意味のある事になるのだ。
私学は期待できない
ただし、私学についてはあまり期待できない。私学は主に学校法人がその設置者で独自の教育機関となり、教育委員会とは別となる。結果として、その私学自体に窓口が無ければ、有効な相談先は都道府県などの私学部や私学課、学事課など私学を監督する部署に相談するなどになるだろう。
私学については、文科省の見解でも「私学の問題は都道府県の担当であり、文科省が動く場合は学校経営などの問題、性暴力などは各都道府県の学事課が担当のはず」としている。つまり、教育行政は地方自治が原則であり、これを超えて権限が薄かったり、そもそも権限がない国が口出しをすると越権ということになりかねないという側面もあるのだ。
一方で、こうした空洞を埋めていくのが特定非営利活動法人などの役割となっているが、その全てを埋められるわけではないし、そもそもの権限がないのが現実だ。
いじめ問題で全国を飛び回る身として実感として思うことは、各県の教育委員会におけるいじめ問題や不適切指導、体罰についての対応に差があり、担当者によっては、全く知識がないと感じることがあるなど「当りが少ないくじ引き」状態だということだ。
ただし、それでもまだマシだと感じざるを得ないのは、私学を取り巻く環境はもっと悪いということだ。まず、私学自体が問題の隠ぺいに走ることが多く、監督部署などがほぼ動かないことが多く、例えばいじめ防止対策推進法というと、話し合いに、そのまっさらな教本を手にしてくることもあるということだ。
つまり、関連法を知らず、ちょっと前までは別の部署で全く別の業務をしており、問題自体に詳しくない素人が監督部署の担当という、とんでもなくお粗末なことが起きやすいのだ。これであれば、まだ「当りの少ないくじ引き」にかけた方がいいではないかと思えてきてしまうわけだ。
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性被害・暴力は学校内だろうが迷わず警察に相談
それでも、各都道府県の相談窓口や文科省が言うように各都道府県の学事課に相談するのは記録を残すという意味でも意味がある事だし、性被害や暴力の場合は、迷わず警察に相談すべきだろう。
「学校で起きた事ですから学校で」と窓口で私も言われたことがあるが、絶対に公言できない発言だろう。学校が治外法権だという法はない。人によっては大事になるのを避けたいという気持ちもあるだろうが、大事にしないと動かないという問題もある事を認識してほしい。
それに、性被害や暴力は犯罪行為だ。いじめでも同様だが、少年法の壁があろうが、行為は犯罪行為であるのだから、それに対応する機関は警察となるだろう。さらに、これら犯罪行為を大人である教師が児童や生徒に行ったのであれば、当然に犯罪だから学校内で起ころうが、教師と生徒の関係であろうが、警察に相談すべき問題だ。
ゆえに、各都道府県に「教育職員等による児童生徒性暴力の防止等に関する法律」によって相談窓口が設置されているはずだということを周知しようとする私がこれを言うのは矛盾かもしれないが、容赦はいらないだろう。
被害を受けたら警察には絶対に相談してほしいのだ。
ちなみに、通報ならば110番、犯罪被害の相談は「#9110」だ。
編集後記
ニュースでは、公立校での問題が取り上げられていることが多いですね。だから、教育委員会がどういう発表をしたとか教育長の発言などが取り上げられていいますが、記憶に新しい長崎の海星高校いじめ事件のように隠ぺい工作をしたり、第三者委員会を自ら設置しておきながら報告書の受け取りを拒否する悪質なケースもあります。
私学は注目を浴びないだけで、その実、いじめや性被害、体罰や不適切指導においては、環境がいいとは言えないと私は経験則として断言できます。
公立校、私学の区別なく、また日本版DBSがあっても網から逃れている者がいるということを理解した上で、相談する場所などはしっかり知っておくべきだし、家族などで予防策を持っておくべきだと思います。
一方で、司法に関わる皆様、立法に関わる議員の方々、今一度被害者の声に耳を傾けてはもらえないでしょうか。今の法制度は甘過ぎます。これでは被害者地獄、加害者天国ではないかと率直に思います。
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