前回の記事でも紹介した、李日圭元駐キューバ北朝鮮大使館政治参事へのインタビュー。その内容をさらに無料メルマガ『キムチパワー』の著者で韓国在住歴30年を超え教育関係の仕事に従事している日本人著者が、詳しく紹介しています。
金正恩が「反統一」を打ち出した理由
キューバ駐在北朝鮮大使館で勤務していた李日圭氏のインタビュー記事の第2弾。(こちらのほうが先のものでした)。
ソウルのあるホテルで朝鮮日報のインタビューに応じた李日圭(イ・イルギュ、52)元キューバ駐在北朝鮮大使館参事は、物静かで穏やかな印象。平壌の方言がなかったら、わずか8か月前に死線を越えて亡命してきた北朝鮮官僚だという事実に気づきにくいほどだった。しかし、北韓の金正恩国務委員長の「反統一2国家政策」を「民族の魂を抹殺する行為」と批判するときは断固とした顔つきだった。
──なぜ脱北を考えたのですか。
「直接的なきっかけは努力に対する不平等な評価、それに対する挫折感と怒りでした。北韓外務省は権勢のある家柄の子どもたちが集まっています。私の出身成分、社会成分は「事務」で「労働者」や「軍人」に比べて良くない。最下位の職級に入職し、誠実に努力してきました。
ところが、2019年8月にキューバに北韓のレストランを出すために平壌に行くと、外務省代表副指導課副局長が少なくない賄賂を要求しました。資金の余裕が足りなくて「後で会おう」というふうに延ばしたら恨みを抱いてしまったらしく私を召還しようと試みた。」
──それで決心したんですか。
「そんな中、昨年、私が頚椎損傷による神経損傷症を患い、メキシコに行って治療を受けられるようにしてほしいと外務省に提起(要請)した。キューバは制裁を受け、医療機器がないからです。24時間も経たないうちに許可しない」という電報が送られた。その時激怒し、『北朝鮮を離れようとする私の考えは正しかった』と確信しました。『金正恩表彰状』を居間にかけておいた両親、義父・義母がすべて亡くなったことも決心に一役買った」
──脱北をどう計画しましたか。
「2023年7月中旬から脱北を深刻に悩み、11月初めに実行しました。その3か月余りで7キロ痩せました。『米のごはんが砂を噛んでいるようだった」ということを実体験しました。飛行機のチケットまで買っておいて、脱北6時間前に妻と子供を呼び出して決心を知らせた。『韓国』とは言わず、『外国に出て暮らそう』と言いました。」
──北朝鮮はパスポートをすべて大使館に保管させますが、飛行機にどのように乗ったのですか。
「具体的に説明すれば、北韓当局がそのやり方を事前に遮断するでしょう。私の後を継いで脱出しようとする方々の被害になる可能性があって言えません。(キューバ)空港の搭乗口の前で搭乗を待っていた1時間が、数年に匹敵しました。初めて家族の加護を神様に祈り、また祈りました。なぜ人間が宗教を信じるのか痛感しました。」
──金正恩氏に会ったことがありましたか。
「お茶も一緒に飲みましたよ。金正恩第1書記も向かい合って座ると、ただの平凡な人間だったです。近くで見ると『血圧がとても高いだろうな』という気がしました。いつも顔がお酒を飲んだように真っ赤なんです。画面に出るよりもっと赤いです。」
──2022年11月、娘のキム・ジュエを公開しましたが?
「金正恩第1書記がジュエ(周愛)氏を連れて回ったのは(マスコミ公開より)かなり前のことです。平壌で第2自然科学院のアパートに住んでいたときの話です。住民の80%以上が核やミサイル開発に携わっていた人たちです。
彼らによると、抱っこしなければならないほどの子供の時からキム・ジョンウンが気分は良ければ『私が姫を見せてあげるぞ』と言ってジュエを連れてきたということです。
キム・ジュエを初めて公開した時は不思議だったけど、閲兵式のような公式国家行事まで連れて行くと拒否感が次第に高まってきた。私が一生あの人たちの足下であらゆる侮辱を受けながらやってきたけれど、今は私の子供がまたあの幼い子の前で頭を下げながら生きなければならないという考えにあきれてしまいました。少なくない北韓の人がこんなことを考えたことがあるはずです。
──後継者と見ますか。
「個人的には難しいと思います。絶対権威、絶対崇拝を受けるためには神秘性がなければなりません。今のように露出させる通りにすべてをさせたら、何の神秘性があり、崇拝感がありますか。」
──北朝鮮から女性指導者が出ることがあり得ますか。
「2012年の韓国の大統領選挙で、朴槿恵大統領が当選したじゃないですか。金正恩があれを見てとても衝撃を受けました。その時、金正恩第1書記が金平海党幹部部長兼担当秘書に『私たちも女性を大々的に使ってこそ、これからは国際社会で正常な国家になる』という趣旨で話をしました」
──韓成烈(ハン・ソンリョル)アメリカ担当次官と李容浩外相が失脚しましたが?
「ハン・ソンリョルは米国のスパイだという疑いで公開処刑されました。2019年2月12日か、(平壌順安空港近くの)剛健軍官学校に外務省副局長以上の幹部を集め、銃殺の現場を見させた。私はその時キューバの発令を受けるために抜けました。
銃殺現場を見た人たちは何日かご飯を食べられなかったと言っていました。リ・ヨンホは2019年12月、不正疑惑を受け一家が政治犯収容所に行きました。駐中大使館書記官の横領が摘発されたが、賄賂を受け取った上級者を調査しながらリ・ヨンホの名前が出てきた。
キム・ジョンウンが「こいつが後ろでこんなことをするから仕事がまともにできないんだな」とどれほど怒ったことか、2019年12月28~31日の党中央委全員会議中に3日目にリ・ヨンホ批判を半日やった。そこに行った人たちが『外務省がなくなると思った』と言ってました。」
──北韓住民は統一を望んでいます。
「北韓住民は韓国国民よりも統一を切望し、熱望しています。その理由は簡単です。生きていけないからです。幹部であれ一般住民であれ、自分の子供の未来を心配する時、何か良い人生にならなければならない、答えは統一しかない、これは誰もが共有する考えです。韓国の大企業が入ってきて投資し、雇用を創出すれば、少なくとも今のように乞食のように生きることはないのではないでしょうか」
──金正恩第1書記はなぜ「反統一」政策を打ち出したのですか。
「最も基本的な理由は、北韓住民の統一への渇望を遮断することにあると考えます。韓流はいくら強い統制と処罰にも少しも衰えていません。少なくとも先代は統一を第1国策に策定し、統一路線や南北対話なども引き続き設け、住民の統一に対する希望だけはあえて奪うことができなかったのですが、金正恩はこれさえも無残に奪ってしまった。これほど残酷なことがあるでしょうか」。
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