かつてと比して充実化が進む事業再生へのサポート。しかし現場に身を置くプロフェショナルは、むしろ再生が困難になったと感じる場面も多々あるといいます。そんな現状を綴っているのは、事業再生コンサルタント、作家、CTP認定事業再生士の顔を持つ吉田猫次郎さん。吉田さんは自身のメルマガ『『倒産危機は自力で乗り越えられる!』 by 吉田猫次郎』で今回、事業再生の現場で起きている変化を記すとともに、具体的な再生への道のりを紹介しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:事業再生と事業承継とM&Aの境界線が無くなってきた
事業再生と事業承継とM&Aの境界線が無くなってきた
私が事業再生コンサルタントと名乗り始めたのは2003年からですが、当時の事業再生はどちらかといえば、「資金繰り改善(リスケなど)」と、「BS改善(債務超過解消のために、必要に応じて外科手術などもする)」が主でした。
現に、私が受ける相談の多くも「借金が重い」「資金繰りがキツイ」という類のものが大部分でしたし、都道府県の中小再生支援協議会の一次対応、二次対応の受付内容も金融調整(リスケ等)が約9割を占めていました。
そして、あの時代は、資金繰り改善あるいは債務超過解消さえ実現できれば、本業の収益改善(PL改善)のほうは自力で何とかなることが多く、私たちはあまり介入する場面が多くなかったように思います。
しかし、二十数年経った今は、だいぶ様相が異なります。金融調整(リスケなど)は、法制度が整い、だいぶやりやすくなりました。債務超過解消も、私的整理による新たな選択肢が増えました。第二会社方式との組み合わせによる事業再生も、すっかり定着しました。しかし、20年前より事業再生が難しくなったと感じる場面が多々あります。なぜでしょうか?
- 経営者の高齢化がどんどん進んでいる
- PL改善(本業の黒字化)が難しい
理由は、この2点に尽きると思います。
高齢化については、私が2003年に再生コンサルを開業した時、私の年齢はまだ34歳でした。相談に来られる方も、年齢層としては30代~50代が大部分を占めていました。ところが、2024年現在は、私も55歳になりましたが、相談者の年齢層も一緒にスライドしてきたような感じで、30代の方は少なく、最も多いのは50~60代です。70代の方も増えました。30代の相談者と70代の相談者が同じくらいいます。80代の相談者と20代の相談者も同じくらいいます。ボリュームゾーンは60歳前後です。
こうなると、たとえ5年先10年先の経営改善計画を描いても、計画終了後の社長さんの年齢は60代後半かそれ以上になってしまうことも多いですから、単なる資金繰り改善計画だけでは不十分です。銀行も必ず訊いてきます。「後継者対策はされていますか?」と。
この記事の著者・吉田猫次郎さんのメルマガ
PL改善については、もっと深刻です。昨今では、仕入原価、人件費、家賃、水道光熱費など、あらゆる経費が高騰しています。これに合わせて値上げを実行しても売上が下落しなければ良いのですが、現実には、そうはいかない中小企業が数多く存在します。
「値上げしたら売上が落ちた」
「賃金アップしたら、社会保険料もそれに比例して負担が重くなった」
「原材料費の高騰ぶりが予想以上で、見積が大幅に狂った」
「いろいろな均衡が崩れて、もはや従来の組織体制では黒字化は無理」
など。
高齢者なら尚更です。経営の合理化・省力化を推進しようとしても、なかなかついていけないでしょう。最新のビジネスモデルに変革させようとしても、若い頃と違って、感性も鈍いし、身体も思うように動かないし、しがらみも多いでしょうから。
そこで冒頭のタイトルとつながってくるのですが、現在の事業再生は、リスケ交渉や借金カットなどの単品メニューだけではダメで、後継者対策や、他社との合併などによる経営合理化も視野に入れなければなりません。事業承継とM&Aです。
一例をあげれば、このようなイメージです。
- 初期対応としては、資金繰り改善のために、借り換えやリスケなどの処置を
- 資金繰りが一息ついたら、本業の見直し
- それと並行して、後継者対策を。後継者対策は親族・社内で見つからなければ、外部からも探す。会社を売却するという選択肢も
- こうして(何年かかかるが)、資金繰り改善とPL改善と事業承継と組織再編をじっくり進めていく(社長が高齢の場合はやや急いで結論を出す必要あり)
(メルマガ『『倒産危機は自力で乗り越えられる!』 by 吉田猫次郎』2024年7月20日号より一部抜粋。
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