2021年1月6日、トランプ氏の大統領選敗北を頑なに認めようとしない暴徒によって引き起こされた米国議会議事堂襲撃事件。「アメリカ民主主義史上最悪の日」として世界中の人々の記憶に刻まれるこの暴動ですが、11月に行われる大統領選の結果如何ではそれ以上の大混乱が巻き起こる可能性があるようです。安全保障や危機管理に詳しいアッズーリさんは今回、カマラ・ハリス氏の勝利がアメリカに「パラレルワールド」を誕生させかねないとしてその理由を解説。その上で、トランプ氏を「大統領」にいただくパラレルワールドの住民たちが現実世界に対して武装闘争を激化させる可能性を危惧しています。
カマラ・ハリスが勝利した場合の最悪シナリオ。トランプ支持派による暴力やテロで米国は内戦に突入か
現職のバイデン大統領が選挙戦からの撤退を表明し、共和党VS民主党の戦いは振り出しに戻ったと言えよう。トランプ氏が7月、東部ペンシルベニア州での選挙集会で演説中に銃で撃たれた直後、右耳から血が流れ落ちながらも拳を高々と掲げ、暴力には負けないという姿勢を印象づけたことで、選挙戦の流れは完全にトランプ氏に傾いていた。
しかし、苦境に立たされるバイデン大統領がその直後に選挙戦のレースから撤退し、時間が過ぎないうちにハリス副大統領が後任者となったことで、トランプ陣営は改めて気を引き締めて選挙に臨む必要に迫られた。大統領選の本番まで3ヶ月となったが、今後はトランプVSハリスの罵り合いが積極的に展開されていくことになろう。
現在のところ、CBSニュースの世論調査ではトランプ支持が51%、ハリス支持が48%となり、ロイターによる調査ではハリス氏がトランプ氏を2ポイント上回る状況となっており、現時点でどちらが勝つかは読めない状況だ。
トランプ支持者による民主党党員への脅迫や暴力が増える恐れも
そして、今後の展開で最も懸念されるのが、トランプ氏の敗北だ。トランプ氏は勝てば、ハリス氏は潔く敗北を認め、米国は民主党と共和党が一体となって協力する必要があると前進的な発言をすると思われる。しかし、トランプ敗北となれば、トランプ氏は簡単に敗北を認めるどころか、投票結果に不備があったなどと新たな政治的混乱を助長し、トランプ支持者たちが暴力をエスカレートさせる恐れがある。
3年半前の出来事を覚えているだろうか。2020年の大統領選でバイデン氏が勝利し、同政権発足直前の2021年1月6日、敗北を認めないトランプ支持者たちがワシントンにある米国連邦議会を襲撃し、治安部隊と衝突するなどして5人が死亡、60人以上が逮捕される全体未聞の事件が起こった。それを実行したのは白人至上主義組織のメンバーや関係者、陰謀論「Qアノン」の信奉者、プラウド・ボーイズやミリシアなど極右勢力のメンバーなどだったが、カナダは2021年4月にプラウド・ボーイズをテロ組織に指定するなど、欧米政府の間でもこういった極右勢力への警戒が広がっている。
今日、こういった勢力は暴力行為を各地で続けているわけではないが、組織としての日常的な活動は続いており、ハリス氏優勢が顕著になれば、こういったトランプ支持の極右勢力が民主党の選挙集会を妨害し、破壊行為に及ぶ可能性があろう。また、民主党党員への殺害まがいの脅迫や暴力なども増える恐れがある。
トランプを“大統領”とするもう1つのパラレルワールドの誕生
そして、本選でハリスの勝利となれば、トランプ支持派による暴力が決定的となり、“第二の米国連邦議会襲撃事件”が避けられないだけでなく、米国は内戦状態となり、パラレルワールドとなる可能性があろう。
7月のトランプ銃撃事件によって、トランプ支持者の中では“トランプは神から守られた神の子”というトランプ氏を神格化するような現象が広がっており、こういった神格化が“トランプは選挙戦で敗北していない”という陰謀論を芽生えさせ、トランプ支持者たちによって構成され、トランプを“大統領”とするもう1つのパラレルワールドが米国に誕生する恐れがあろう。
こういった支持者の中には前述したような過激なメンバーも少なくなく、こういったトランプワールドに身を置くメンバーらが、ハリス大統領を指導者とする現実世界との武装闘争を激化させる可能性を排除するべきではないだろう。
米国は以前の米国ではない。以前の米国は、世界の超大国としてグローバルなリーダーシップを発揮し、あらゆる紛争に政治的に介入することで、自由や民主主義など米国流の価値観を世界に普及させようとしてきたが、その姿は今日どこにもない。アメリカファーストを掲げるトランプ氏がこれほどにまで支持を拡大しているが、それは純粋な米国民の素顔なのだ。不介入主義を徹底するだけでなく、リベラルな価値観の創造と普及で先頭に立ってきた米国自身が、リベラルな価値観に背を背けようとしている。
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