目標としていた五輪2連覇が叶わず、試合後に泣き崩れた柔道女子52キロ級代表の阿部詩選手。人目をはばからぬ号泣は賛否両論を巻き起こしましたが、健康社会学者の河合薫さんは彼女を含む悔しさをとことん吐き出す選手たちの姿に「新しい風」を感じたと言います。河合さんはメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で今回、自己受容の観点から「徹底的に悔しがる」ことの重要性を説くとともに、「真の強さ」とは何かについて論じています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:“悔し涙”の生かし方
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
“悔し涙”をどう生かすか。成長する人とできない人の差
始まってみれば盛り上がる。メダル、メダルと言いたくないけど、取った!と聞いて喜ばない人はまずいない。はい、そうです。歴史上はじめてスタジアムの外での開幕式でスタートしたパリオリンピックです。
賛否両論渦巻いた開会式については、本日公開の日経ビジネスに書きましたのでそちらをご覧いただくとして、本メルマガでは「成長する人しない人」をテーマにお話します。
オリンピックでは、日本選手たちの躍進が目立った一方で、期待通りにいかず悔しがる選手たちの「素直な言動」に感動しました。
2連覇を期待されながら2回戦で一本負けした阿部詩選手の号泣、初の五輪個人種目で決勝進出を逃した池江璃花子選手の「これまでの努力は何だったんだろう」発言、個人戦でも団体戦でも勝てなかった柔道の斉藤立選手の「今日勝たないでいつ勝つんだという場面で勝てなくて…顔向けできない」発言などなど。
いつの時代も思い通りの結果が出せなかった選手たちの言動には胸打たれるものがありますが、昭和時代は過剰なまでに「日本」を背負い、平成時代はまるでその反動のようにめったやたらにポジティブな言葉を使う選手が目立ちました。
しかし、今回はこれまでの選手たちのような「定型」じゃなく、いい意味で「自分」があった。それぞれが、自分なりのカタチ=言葉で、とことん悔しがっている姿はとても新鮮で。新しい風を感じました。
これって、結構いい風だな、と思うわけです。
彼ら彼女らが感じた悔しさを、次につなげることができれば、人間的に強くなるだけでなく、充実感を得られ人生の幸福感も高まっていきます。誰に気遣うわけでもなく、心の声をアウトプットすることは、困難や危機を成長の糧にする最初の一歩です。
この記事の著者・河合薫さんのメルマガ
鋼のような強靭な心をもつことでは決してない「真の強さ」
「私」たちも同じです。そまるで呪文のように「失敗は成功のもと」「挫折は人を強くする」などと繰り返したり、マイナスを何とかプラスに転じようとしがちですが、まずは徹底的に悔しがる。誰に何と言われようと、とことん吐き出したほうがいい。時には誰かのせいにするのも「あり」だし、逃げたっていいのです。
そして、もうこれ以上悔しがれない、となったら、そこで「私」と向き合う。「自己受容=self-acceptance」を高めるのです。
自己受容はナルシズム的な自己愛や過剰な自尊心とは違い、目をつむりたくなるような不甲斐ない自分であっても、正面から向き合うことで高まる感覚であり、ありのままの自分と“共存”する覚悟です。
その覚悟ができてこそ、なすべきことが明確になり、自ら運命をも切り開く真の強さがもたらされます。
そして、自分と向きあったあとは、周囲に目を向け、「自分の足りないもの探し」をする。他者と共に過ごし、他者の動きに目を凝らし他者の言葉に耳を傾け、すべてを学びに変えるのです。
真の強さとは、鋼のような強靭な心をもつことではなく、スポンジのような柔らかさと、多少ひっぱられても切れることのないしなやかな心を持つこと。
そうすれば「私」の可能性は無限に広がります。
オリンピックも終盤に入りますが、アスリートたちの汗と涙に心を震わせてください。
いくつになっても「私」は成長できる!と信じて。
みなさんのご意見、お聞かせください。お待ちしています。
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