8月12日に岩手県大船渡市付近に上陸し、東北地方に甚大な被害をもたらした台風5号。近年、経験則では測れない台風がたびたび各地を襲う事態となっていますが、その原因はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では、気象予報士として『ニュースステーション』のお天気キャスターを務めていた健康社会学者の河合薫さんが、温暖化による海水温の上昇と台風の進路や勢力の変化との関係性を解説。その上で、災害対策にどのように当たるべきかについて説いています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:「りんご台風」はどうなった?
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
東北地方で増える雨。なぜ台風の進路は激変しているのか
また、また、東北地方に台風が上陸しました。2016年、21年に次いで3回目です。
2016年8月30日の台風10号は、10日以上迷走したあと岩手県大船渡市付近に上陸。気象庁が統計開始した1951年以降、史上初めての出来事でした。
2021年7月28日には台風8号が、宮城県石巻市付近に上陸し、東北を横断。東京五輪開催中で、サーフィン競技やボート競技などで日程が変更されました(…覚えてます??)。
そして、今回の台風5号です。12日に大船渡市付近に上陸し、沿岸を中心に記録的な大雨をもたらしながらゆっくりとした速度で県内を横断。2,000人を超える人たちが避難し、各地で土砂崩れや冠水、床上浸水などの被害が相次いでいます。
また、台風7号が16日にかけて、関東から東北地方に接近することが予想されていますが、かなり微妙な動きをしていますので心配です。関東もさることながら、台風5号ですでに地盤が緩んでいる東北地方で災害が起きないことを祈るばかりです。どうかみなさま。最新の天気予報を確認して、大雨、暴風、高波に十分に備えてください。
東北地方で雨が増えた――。こう感じている人は少ないでしょう。かつて台風が東北に進む進路は、91年9月に東北に甚大な被害をもたらした「りんご台風」に代表される「西日本→日本海→東北地方」が一般的でした。
しかし、この数年で台風の進路は激変。何でもかんでも「温暖化」と結びつけるのは好ましくありませんが、この10年あまりで台風はさまざまな側面で確実に変化し、それが温暖化の影響であることは間違いありません。
その原因となるのが、温暖化による「海水温の上昇」です。
日本近海の海面水温は、過去100年に年平均で1.14℃上昇しました。さんまが取れなくなった~、とか、取れる場所が変わった~、という報道が毎年繰り返されていますよね。これも水温の上昇によるものです。お魚さんにとっての海水温1℃上昇は、人にとって気温10℃上昇に匹敵するダメージだそうです。
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避難遅れの原因にもなる過去の経験が役立たない大雨や暴風
一方、10℃もの「海水温の上昇」で勢いづくのが、台風です。海水温が上昇すると大気中の水蒸気量が増え、台風は発達するエネルギーを得やすくなります。勢力は増大し、発達のピークに達する地点も北上しより強く、より遠くまで生き延びるようになっていくのです。
これは世界的な傾向で、北西太平洋でも熱帯低気圧が発達のピークに達する地点が北上していると報告されています。最近の別の研究では、24時間以内に風速が時速104キロ以上に達する「非常に急速に発達する嵐」の数が世界的に増えていることもわかっています。
怖いのは、予想された発達速度をはるかに上回るケースが多いってこと。それは結果的に、上陸が予測されている沿岸部が暴風雨に備えたり、住民が避難する時間を短くし、危機にさらされるリスクを高めてしまうのです。
問題はそれだけではありません。
台風は水蒸気をエネルギー源に「勝手に自分で熱くなる!」のですが、自分の力で動くのが苦手です。逆に「大きな流れに身を任せる」のはとてもうまく、偏西風に乗れば一気に速度をあげ、日本から離れていきます。その偏西風が、温暖化の影響で南北の蛇行が大きくなったり、蛇行の位置が変化したりしていますので、台風はなかなか偏西風に乗れません。
すると日本近海で迷走したり、日本接近・上陸後も動きが遅かったりで、長い時間雨が降るようになる。「こんなの初めて」というような過去の経験が役立たないような大雨や暴風は、避難が遅れる原因にもなります。
もちろん気象庁のスーパーコンピューターの精度も上がっていますが、どんな正確に予測されようとも、「人」が意識的に動かないと減災はできません。
「天災は忘れた頃にやってくる」とは科学者で随筆家の寺田寅彦の戒めですが、「天災ははるかに想像を超える」と思って、災害対策をしてください。
みなさんのご意見、お聞かせください。お待ちしています。
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