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第2期トランプ政権は「カオス状態」必至。ど素人&出来損ないのトラブルメーカーで溢れかえる米ホワイトハウスの絶望

4年前に起きた襲撃事件の記憶が生々しい米連邦議事堂での就任式を経て、ついに発足した第2次トランプ政権。今後4年間の国際社会は「トランプ2.0」に翻弄されるのは避けられそうにありませんが、ホワイトハウス自体も「大混乱」に陥る可能性が高いようです。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野孟さんが、新政権内部が恐怖と不信に塗れる可能性が極めて高いと指摘。そう判断する理由を、米有力紙のホワイトハウス主任担当記者らによる著作の内容を引きつつ詳しく解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:恐怖と不信に塗れたホワイトハウスなど誰も見たくない/トランプ第2期政権の傷だらけのスタート

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

傷だらけのスタート。トランプ政権発足で恐怖と不信に塗れるホワイトハウス

1月20日に発足する第2次トランプ政権のホワイトハウス・スタッフ、閣僚、長官など人事はほとんど出鱈目で、適材適所という常識的判断とは正反対。トランプの異常な主張や嗜好に賛同するばかりか賞賛し忠誠を誓う者のみを登用するという基準で政権の編成が進められつつある。

全省庁で吹き荒ぶ破壊的な人員リストラや予算削減の嵐

その象徴が、FOXニュースの元キャスター=ピート・ヘグセスの国防長官への登用で、性的暴行疑惑で捜査対象となったり過度の飲酒癖が報じられたりした過去があるにも拘らず、これまで政権発足時の高官指名に当たって慣例となってきたFBI(連邦捜査局)による事前身体検査が今回は省略されたため、辛うじて指名を得ることが出来た。

しかし、14日に上院の公聴会に呼ばれたヘグセスは、民主党議員からASEAN加盟国の数を訊かれて答えられず、「日本、韓国、オーストラリア」と数え始めたが詰まってしまい、「その3カ国は加盟国ではない。あなたは少しは宿題をするべきだ」と揶揄された。

ハーバードの行政大学院を出て、FOXニュースのコメンテーターや司会者を務めた人物がこの程度の世界地理知識も持たないというのは驚きである。それでもトランプが彼を、年間に日本円で120兆円もの予算を費やす「世界史上最強の軍隊」のトップに据えようとするのは何のためかと言えば、(首席補佐官に就くスーザン・ワイルズの説明によれば)「破壊者」の役割を期待するからである。

ヘグセス自身、公聴会の席上、同省の組織改革が重要政策だとして「無駄な手続きを排除し、官僚主義を廃し、技術革新を奨励する」「同省はあまりにも内向きになり、新技術の導入を妨げている」と述べていて、つまりは天辺から組織を引っ掻き回して思い切った人事や予算の組み替えを断行することを求められているのだろう。

そんな乱暴なことをして軍は大丈夫なのか。スーザンは「業務や組織に精通した人材を周りに配置して補強する」ので心配ないと答えている。

トランプの指名どおりに長官の任命が進んでいけば、国防総省だけなくすべての省庁で破壊的な人員リストラや予算削減の嵐が吹き荒ぶことになるだろう。そのためにトランプの手助けをするのが、新設の「政府効率化省」(と言うが法律に裏付けられた省庁ではなく単なる諮問機関だが)の長となったイーロン・マスクである。

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発足直後から相互不信の塊だった第1次トランプ政権

それと同時に、すぐにでも始まるのは政権内部の対立抗争、足の引っ張り合いである。ピーター・ベイカーとスーザン・グラッサーの『ぶち壊し屋』(白水社、24年10月刊)は、上下巻合わせて1,000ページ近く、しかも2段組で小さ目の活字がびっしりという大著だが、トランプ第1期政権の4年間に「ほとんど呆れるしかないほどのならず者の大統領」の下で「その闘争本能、気まぐれなやり方、それに国家の利害と私的な利害とを混同する性癖のおかげで」ホワイトハウスがどれほどの大混乱に陥り、「アメリカがあと一歩で危機に直面するところ」にまで追い込まれていたことの詳細なドキュメントである。

政権は最初から相互不信の塊だった。同書は述べている。

▼「誰もが嘘をついていましたからね。いつもです。それにほぼ何ごとに関しても」(発足時の補佐官)。「トランプ政権ではどんどん人を裏切らないと、気づいたときには自分がまんまと裏切られていたという羽目になるんですよ」(ある閣僚)。

▼このような混乱は偶然の産物ではなかった。それは何十年も前からトランプのビジネス手法であったし、テレビのリアリティー・ショー「アプレンティス」でもトランプが説いていたものだ。トランプは「人の世は残忍な場所だ。ジャングルと少しも変わりやしない」と述べた。トランプの政治手法は野放しの弱肉強食型で、まさに万人の万人に対する闘争であり、その経営スタイルは教科書どおりの分断統治だった。トランプは政権を従来どおりのやり方で構成することを拒み、内部抗争を踏み台にし、結果的に自分が唯一の権威ある決定者となるように仕向けたのだった。

▼「トランプは一致団結をめざすようなチームを率いるつもりはありませんでした。内紛や内輪揉め、つかみ合いの喧嘩を防ごうともしませんでした。まるで出演者たちが熾烈に競い合う『アプレンティス』めいた世界でしたよ。トランプは配下の連中が張り合い、互いに抗争することを好んだのです。要するにトランプの歓心を買うための競争です」(ある政権幹部)〔以上、P.46~47〕。

▼トランプにとって、人生は勝つか負けるかのゼロサム・ゲームだった。相手の方が成功していれば、それはその分だけトランプがしくじっていることを意味した。「私はウィン・ウィンというものを信じない。私が信じるのは、私が勝利することだ」と、トランプは伝記作家に語ったのだった……。〔P.40〕

このような恐ろしい人生観を彼はどこで身につけたのか。1月17日に都内で封切られた映画『アプレンティス/ドナルド・トランプの創り方』では、若きトランプが伝説の弁護士ロイ・コーンから教え込まれた「3つのルール」、すなわち、

第1に攻撃、攻撃、攻撃。攻撃あるのみ。
第2に絶対に非を認めるな。
第3に常に勝利を主張せよ。

――に由来すると描かれているらしいが(私はまだ観ていない)、ピーターとスーザンの『ぶち壊し屋』では、父親の教えとされている。

▼「おれは勝ちたいんだ」と。トランプはいつでもその一点にこだわってきた。父親のフレッド・トランプは「殺し屋」になれと。息子は生涯を通してその言葉を崇め、実践したのである。トランプは何事でも優位に立ち、決して譲らないことを身につけた……。〔P.40〕

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リーダーとしての素質が皆無の「ぶち壊し屋」トランプ

大好きなゴルフでも、スコアと無関係に常に自分が勝ったと宣言し、それにクレームをつけるような者は2度とプレーに誘われることはないのだそうだ。安倍晋三がトランプのお気に入りだったと言うのは、単にそういうことだったのだ。

この憎悪に満ちた攻撃一本槍が父親から叩き込まれた人生観なのだとすると、78歳にもなった今更、変えられるはずもなく、今回の第2期政権のホワイトハウスもまた「ど素人とトラブルメーカーの出来損ないであふれかえ」り〔P.64〕、「あっというまにカオスに陥」〔P.45〕ることは必然である。

原理的に言うと、これはすべての矛盾を和解不能な「敵対矛盾」と捉えてしまう誤りである。毛沢東が『矛盾論』で説いたように、物事の内には矛盾があって、その矛盾こそが物事の発展の原動力である。

形式論理学では矛盾は互いに食い違って相容れないことを指すが、弁証法論理学では「敵対矛盾」と「内部矛盾」とを区別した上で、なおかつ局面によってその両者が互いに転化し合うことをも視野に入れつつ、その内部矛盾を上手く成熟させ、やがて弾けて新しい局面に移行したり新しい物事が誕生したりするよう、矛盾をマネージすることを目指す。

それこそがリーダーの資質として最も求められることだが、その正反対のところにいるのがぶち壊し屋のトランプである。

トランプには多動性障害があって本を読んだことがなく、書類もA4で2ページを超える長い文章を座って読んでいられないとのことだが、習近平主席がトランプに会う時に『矛盾論』の英訳本を手土産にし、「読まなくてもいいですが、ここにはこういうことが書いてあります」と口頭でレクチャーしてやったらどうだろうか。

ホワイトハウスが人間不信と疑心暗鬼、恐怖と虚偽で充満し、それが外に向かって溢れ出して米国社会がますます引き裂かれていくのを、もう世界は見たくないのだから。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2025年1月20日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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