石丸伸二氏が結成した新党「再生の道」が世間の評価を二分している。批判の声は左派・右派双方からあがっており、とりわけ「具体的な政策がない」点が疑問視されているようだ。政策を掲げずして、石丸新党はまともな「政党」と言えるのだろうか。これに関して、「理解しようと努力する気があるかないかで評価は大いに異なってくる」と指摘するのは元全国紙社会部記者の新 恭氏。「政策を並べるだけなら誰でもできる」ところ、あえて政策を引っ込めることで別の景色が見えてくるかもしれないと期待をにじませる。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:石丸新党「再生の道」旗揚げ。今夏の都議選は劇場化する
石丸氏が地域政党「再生の道」旗揚げ
今年6月の東京都議選はかつてなく面白くなりそうだ。何かとんでもないことをやってくれそうな雰囲気を漂わせる石丸伸二氏が、このほど都議選に候補者を擁立するための地域政党「再生の道」を立ち上げた。
これといった具体的な政策はない。「広く国民の政治参加を促すとともに、自治体の自主性・自立性を高め、地域の活性化を進める」と設立目的が定められているだけだ。そして党の約束ごとは、ただ一つ。2期8年以上の多選を禁止する。
「これまで政党というと、国政政党のことを言ったが、ここでは国政は関係ないと割り切っています」(1月15日、新党結成記者会見)
既成概念に囚われていてはけっして理解できない。これで政党といえるのかと疑問が湧くだろう。それでも、政治の何かが壊れ、何かが生まれるワクワク感がとまらない。
斬新すぎる「候補者選考」にケチをつける人たち
何歳だろうが、どんな職業であろうが応募の資格はある。それはまあ常識的だ。驚くのは、既成の国政政党に所属していてもエントリーできること。地域政党にイデオロギーは必要ないといい、自民党でも、立憲民主党でも、共産党でもOKなのだ。
ただ一つの条件は「即戦力となる人材」であること。そのために、書類選考や適性検査を通過したあとの三次選考で一人15分ずつプレゼンをしてもらい、石丸氏自身が面接する。そして、その模様をそっくりそのままユーチューブ動画で配信するというのである。まるで、タレント発掘のオーディションのようだ。
視聴者は、地域政党「再生の道」から立候補すべく応募した人たちの緊張した顔の表情や声音、プレゼンの中身を面接官のような気分でながめ、能力や人柄、好感度を測ることができる。
選ばれた人たちが実際の都議選でどのように活動し、何票を集めるのか、当落はどうなるかと考えれば、もはや全くの他人事とは思えない。都議選への興味はがぜん上昇し、選挙後は都議会への関心がグッと高まるだろう。
だが、当然のことながら、新しい挑戦には必ずケチをつけるメディアや識者、専門家が現れる。とくに、政策を打ち出さないというのは、何も考えていないからだと言われやすい。そして、批判は左右どちらからも出てくる。
左寄りの日刊ゲンダイが「石丸新党を気に入らない」理由
1月16日、日刊ゲンダイが一矢を放った。記事の見出しは「早くも見えた石丸伸二氏『再生の道』の“ポンコツ化”…政策への言及なし、新党参加にこれだけのリスク」。下記はその一部だ。
石丸新党への参加を検討中の政界関係者が言う。
「石丸さんは候補への支援として60万円の供託金の負担や、石丸さんの応援演説などを掲げていますが、平時の政治活動への援助はない。また、最も重要な落選した場合のケアについても言及がない。リスクが高すぎるため、民間企業を辞めてまで手を挙げる人は少ないでしょう。結果、落選を繰り返して行き場のない有象無象ばかり集まるのではないか。(後略)」
“ポンコツ政党”化は避けられそうにない。
たしかに、この新党、党自体に金がかからない建て付けになっている。党から候補者への支援は、供託金60万円の負担▽情報発信で協力・協働▽選挙運動のアドバイス▽選挙中の応援演説▽選挙後の勉強会等▽任期後のキャリアを支援。これだけである。
だから、もちろん立候補者は選挙事務所などの諸経費を自力で負担しなければならない。既成政党がやっているような援助を期待する人はエントリーしないほうがいい。
ただし「平時の政治活動」というのが新年会や忘年会に出たり、地域のイベントやサークル活動などに参加して「会費」「意見交換会費」といった名目でカネをばらまくことを指すのなら、そもそも「再生の道」がめざす世界ではない。
記者会見の質疑応答で、石丸氏はこう言っている。
「日本では有為の人材がいても選挙に出て通るとは限らない。カネや組織票が幅をきかせるから。めざすのは政治屋の一掃。大した能力もないのによくわからない力学で議員になっている。そして議員の椅子にしがみつく。これこそ諸悪の根源。日本が衰退している原因だと断言できます」「組織票や看板のない人が選挙に出て通りやすい環境をつくるためにこの装置を置いてみた。それが今回の試みです」
安芸高田市長だったころから、石丸氏は議場で居眠りする議員に対して「恥を知れ、 恥を」と発言するなど、議員のやる気や能力に疑問を呈してきた。日刊ゲンダイは、そう言う石丸新党こそポンコツ化が見えていると一撃を食らわしたわけだ。
右派の日本保守党・有本香氏と竹田恒泰氏も「石丸新党にノー」
一方、右側からも、「政治屋養成政党だ」などと、この新党を批判する声が上がった。日本保守党の有本香事務総長と政治評論家・竹田恒泰氏だ。ユーチューブの日本保守党拡散チャンネル(1月17日)での一コマ。
竹田氏「会見で石丸さんは、党として実現する政策はここでは出さないと答えている。ていうか、ないんじゃないかと思うんだけど。なんか選挙当選互助会みたいな感じですよね」
有本氏「いやもうはっきり申し上げて話にならない。昨日、とあるメディアの方が言っていたけど、党の政策を掲げないって、それは何ですかね、全然わかりませんでしたと」
「再生の道」については、理解しようと努力する気があるかないかで評価は大いに異なってくる。これまでの日本の政党のありようからみて、この新党が異様であるのは間違いないのだから。
しかしあえて、そんな批判を覚悟で、新しい地域政党の形を世に問うた石丸氏の意図はどこにあるのか。そこに深い興味を抱く人々もまた多いはずである。
「各候補者が各選挙区内で主張すべきことを主張してもらう。同じ東京都でも各地域で環境が違う。同じ主義主張、政策判断の軸を示すのは無理だと思う」と石丸氏は言う。
地方議会の議員が選挙の集票や資金などで国政政党と密接につながり、国政政党のイデオロギーに縛られると、地域の実情に合った政策判断がしにくいということもありうるだろう。
だが、石丸氏は理屈だけの人ではない。現実的で、したたかだ。以下の例外規定をどう考えるべきか。
<現職の応募があった場合は当該選挙区の候補とする。ただし、次の選挙から2期8年を超えない。首長・副首長経験者の応募があった場合は候補とする。多選の制限を遵守する限りにおいては国政政党等への所属も許容する。>
現職の都議、あるいは首長・副首長経験者が応募すれば「即戦力」とみて、選考なしに「再生の道」から立候補できる。しかも、すでに国政政党に所属している人が掛け持ちしても大丈夫というのだ。
既存政党は石丸新党の「スピード」についていけるか?
日本の法律に、地域政党と国政政党の二重所属についての定めはない。多くの国政政党が重複所属を禁止する内規を設けているが、地域政党「大阪維新の会」と国政政党「日本維新の会」の場合は曖昧だ。表向きにはどちらか一方への所属を明示して立候補するが、事実上の区別はつきにくい。
「大阪維新の会」の代表であり「日本維新の会」の代表でもある吉村洋文・大阪府知事は、維新所属議員の「再生の道」との掛け持ちについて「『腹をくくってやる』という議員がいれば賛成したい。東京維新の会と協議をする」と前向きだ。
ここで、大いなる疑問が湧く。たいして能力のない“政治屋”が跋扈している現状を嘆いて新党を旗揚げしたはずなのに、現職や経験者なら無条件に受け入れるというのは、いささか矛盾しているのではないか。
むろん、そんなことは承知の上だろう。今後、世間の注目度が高まっていけば、2月16日の応募締め切りに向けて、現職のなかからも「再生の道」に参加する動きが出てくるに違いない。2期8年で都議をやめなければならないが、都議の経験を活かして国政選挙・首長選挙・市区町村議選挙に出ることは党として推奨するという。現職や経験者の取り込みは、変革のスピードを上げるのに合理的な方法といえる。
東京都議会は定数127で、与党である都民ファーストの会は27議席だが、小池都知事の三選を支援した自民党(30)、公明党(23)を合わせると80議席に達する。野党は共産党(19)、立憲(14)を中心として46議席にすぎない。首都圏に弱い維新たるやわずか1議席だ。
ここに石丸新党「再生の道」が乗り込もうと、都議選に候補者を立ててくる。全42選挙区に擁立し、定数4以上の区は各2人を目安とするため、最大55人の擁立が目標だという。おそらく、この影響をいちばん強く受けるのは、国政に続いて裏金問題が発覚した自民党だろう。むろん、与党・都民ファも安閑としていられない。
政策を「並べるだけ」なら誰でもできる
石丸氏は二元代表制のあるべき姿として、議会の過半数が知事を支持するいわゆる「知事与党」の体制をつくるべきではないと主張している。議会が安定的に知事側に与するのでは、首長と議会がアクセルとブレーキの役割を果たす関係になりえないという考えだろう。
能力と発信力のある候補者たちがカネのかからない選挙戦を展開して「再生の道」が躍進すれば、政界は地盤・看板・カバンの選挙必勝方程式を考え直さざるを得なくなる。政策を並べるだけなら誰でもできる。あえて政策を引っ込め、人材を送り込む役割に地域政党が徹することで、何か違う政治の景色が見えてくるのでは。そう考えると、この“実験”、地味なようで破壊力はデカい。
ところで、石丸氏は28年の次期東京都知事選に出馬するのだろうか。
「都知事へのこだわりはある程度ある。昨年の都知事選は本気で当選するつもりだった。3年半後の都知事選は有力な選択肢の一つです」(石丸氏)
どうやらその気はあるらしい。だが、他の考えも選択肢にあるという。この男、次は何をやらかしてくれるのか。
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